軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 ログハウス内部の設備に驚愕するルミナ(室内編)

「え……あ……ま、迷子……?」

銀髪の配信者・ルミナは、目の前のおっさん――ケントが放った言葉に、思考が完全に停止した。

ここがどこだか分かっているのだろうか。

ここは人類未踏の絶対死地、ダンジョン最下層『アビス』。

つい数分前まで、ルミナは数十匹のブラッドウルフに囲まれ、命乞いすら許されない絶望の淵にいたはずだ。

それなのに。

目の前のおっさんは、近所のコンビニにでも行くような気軽さで「迷子か?」と聞いてきたのだ。

『おっさん! そこは最下層だぞ!!』

『遠足なわけあるか!!www』

『待て、ルミナちゃんの配信画面、同接(同時視聴者数)が50万超えたぞ!』

『全世界がこのシュールな光景を見守ってるwww』

ドローンカメラの向こう側で、リスナーたちが阿鼻叫喚のツッコミを入れていることなど、ケントは露ほども知らない。

「ほら、突っ立ってないで。足、痛むんだろ?」

ケントは当たり前のように、ウッドデッキの上でへたり込むルミナに手を貸した。

その手は、長年の現場仕事で培われた、分厚くて温かい「職人の手」だった。

「あ……ありがとうございます……」

ルミナは支えられるようにして立ち上がり、おそるおそるログハウスの扉をくぐった。

その瞬間。

「っ……!?!?な、なにこれ……っ」

ルミナの全身を、衝撃が突き抜けた。

一歩足を踏み入れた瞬間に感じたのは、春の陽だまりのような、優しく柔らかな空気感。

外の地獄のような熱気と硫黄の臭いは一瞬で消え去り、代わりに鼻腔をくすぐるのは、芳醇な木の香りと、清潔な空気が循環している感覚。

「あ、あったかい……。それに、息が……すごく楽……」

『え、ルミナちゃんの声が急にクリアになったぞ?』

『ノイズが消えた……!? 最下層の魔力干渉を遮断してるのか?』

『部屋の中、めちゃくちゃオシャレじゃねーか!!』

ログハウスの内部は、外観以上に規格外だった。

壁には、淡い光を放つ紫色の水晶が『間接照明』として埋め込まれ、室内をムーディーに照らしている。

床には、白銀の暴風タイガーの毛皮が贅沢に敷き詰められ、高級ホテルの絨毯以上の弾力を生み出していた。

「とりあえず、そこに座りなよ。今、冷たい水を持ってくるから」

ケントが指差したのは、大きな白い塊――暴風タイガーの毛皮を何層にも重ねて作られた『特製ビーズクッション』だ。

ルミナがおずおずと腰を下ろした、その瞬間。

「ふにゃぁぁ……っ!?」

あまりの座り心地の良さに、ルミナの口から情けない声が漏れた。

【構造把握】で体圧分散を極限まで計算されたクッションは、彼女の疲弊した体を優しく受け止め、吸い付くようにホールドする。

「あ、ありえない……。今まで座ったどんな高級ソファよりも、体が溶けるみたい……」

『ルミナちゃんの顔が完全にトロけてるwww』

『あんな幸せそうな顔、初めて見たぞ』

『っていうか、おっさん。今「水」って言ったか? 最下層で飲み水とか、ダイヤモンドより貴重だろ!』

ケントが台所(もちろん、魔獣の素材で作り上げた最新鋭のキッチンだ)から戻ってきた。

その手には、キンキンに冷えた透明な水が入ったコップが握られている。

「ほら、浄水したてだ。飲めるぞ」

「あ、ありがとうございます……」

ルミナは震える手でコップを受け取り、一口飲んだ。

「――っ!?!?なっ、なにこれ……っ!!」

ルミナの瞳が、驚愕で見開かれた。

一切の雑味がなく、それでいて、体の隅々の細胞まで染み渡るような、清冽でまろやかな水。

喉を通り抜ける爽快感は、高級なミネラルウォーターですら比較にならない。

「おいしい……。こんなお水、飲んだことないです……っ」

「そうか? まあ、地下水脈から汲み上げて、ハイスライムの膜でろ過してるだけだからな。鮮度だけはいいぞ」

ケントは事もなげに言う。

だが、その言葉に、配信を見ていた専門家たちが即座に反応した。

『ハイスライムの膜でろ過!?!?』

『あのAランク魔物の体組織を、浄水フィルターに使ってるのか!?』

『待て、後ろにチラッと映ったあの配管……魔力伝導率がMAXのドラゴンの骨じゃねーか!!』

『おっさん、さらっととんでもないことしてるぞ!!』

視聴者の混乱を置き去りにしたまま、ケントは作業着の袖をまくり、ニコリと笑った。

「さて、腹も減ってるだろ。ちょうどさっき、いい肉が手に入ったんだ。燻製ステーキ、食べるか?」

「え、お肉……ですか?」

ルミナの問いに、ケントはウッドデッキの横に置かれた石窯を指差した。

そこには、黄金色に輝き、食欲を暴力的に刺激する香りを放つ、巨大な肉の塊が鎮座していた。

「デス・スコーピオンのハサミ肉だ。カニと牛タンのあいのこみたいな味がして、美味いんだぞ」

「デ、デス・スコーピオン……っ!?」

ルミナの顔が引きつる。

それは、数多のベテラン探索者を葬ってきた、最下層の死神とも呼ばれるSランク魔獣だ。

それを、このおっさんは『今日の献立』として、当たり前のように調理しようとしている。

「ちょっと待っててくれ。今、地下菜園のポテトと一緒に盛り付けるから」

ケントが鼻歌まじりにキッチンへ向かう。

ルミナは、自身のドローンカメラに向かって、震える声でささやいた。

「みんな……。私、もしかしたら……とんでもない人のところに、落ちちゃったのかもしれない……」

『知ってたwww』

『ルミナちゃん、今更だよ!!』

『おっさんの「普通」が、世界基準の「異常」すぎる件について』

『伝説のバズり回、確定だなこれ……』

最下層の極楽ログハウスにて。

世界を揺るがす「史上最強の接待」が、今まさに始まろうとしていた。