軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 男友達の視線と、焦る少年

イザベルの機転によって無駄なフリルとリボンを削ぎ落としたドレスは、パステルピンクという愛らしい色彩でありながら、私のすらりとした長身を驚くほどエレガントに引き立てていた。

ようやく息を吹き返した心地で夜会の会場へと戻ると、周囲に立ち込める空気は先ほどとは一変していた。さっきまで私を見てあからさまな失笑を漏らしていた者たちが、今度は一転して、感嘆と羨望の眼差しを私に向けている。

「おや、アナベルじゃないか。今日のドレス、いつもと雰囲気が違って凄く素敵だね」

声をかけてきたのは、学園の同期であり気心の知れた男友達のアルベルトだった。ロイド侯爵家の遠縁で幼馴染のような存在の彼は、十九歳にしてすでに騎士団への入団が内定している頼もしい存在だ。

「アルベルト。ありがとう、少し不慣れな色なんだけれど」

「いや、パステルピンクなのに派手すぎない、君の知的な美しさがよく際立っているよ。ヘンリーのバカな件は聞いた。あんな男のことは忘れて、今夜は僕にエスコートさせてくれないか? これほど魅力的な令嬢を一人にしておくなんて、紳士の名が廃るからね」

アルベルトは冗談めかして優しく微笑みながら、私に大きな手を差し伸べた。傷ついた私を純粋に気遣う、男友達としての温かい優しさだった。私はその手に応えてそっと指先を重ね、張り詰めていた心が少しだけ軽くなるのを感じていた。

一方、その親密な光景を、会場の壁際から忌々しそうに見つめる鋭い視線があった。ミッシェル様だ。

後から夜会に残っていた令嬢たちの噂話で聞いたのだが、彼は先ほど自分の放った「無理をしていて変だ」という言葉のせいで私が傷つき、会場を飛び出したことに、本当は激しく動揺していたらしい。焦って後を追おうとしたものの、十五歳の少年としての歪なプライドと気恥ずかしさが邪魔をして、結局はその場に立ち尽くすことしかできなかったのだと。

そんな後悔に駆られていた彼が、ようやく戻ってきた私の姿を捉えた。しかしそれは、見違えるほど美しく洗練された姿で、自分よりも遥かに背が高く体格のいい大人の男にエスコートされ、穏やかに微笑んでいる婚約者の姿だったのだ。遠目からでも、ミッシェル様がハッとしたように目を見開き、悔しさに顔を歪めて拳を強く握りしめているのが見て取れた。さぞかし、生きた心地がしなかったことだろう。

私がアルベルトに誘われるまま、ミッシェル様へ挨拶をしようと近くまで歩み寄った、ちょうどその時だった。ミッシェル様の周りにいた同世代の男友達たちが、こちらの様子に気づいて何やら下世話に騒ぎ立てているのが聞こえてきた。

「すげえ美人じゃないか。ヘンリー兄上がやらかしたおこぼれが回ってきたなんて、お前めちゃくちゃ運がいいぞ」

「うるさいな。あんなの、ただ年上なだけだろ」

「おいおい、照れるなって。あんな美人に迫られたら、俺ならイチコロだわ」

友人たちのそんな羨望と冷やかしの声が、まだ青いあの子の耳にどう響いたのか。ミッシェル様は顔を瞬時に真っ赤に染めると、男友達の前で子供っぽく格好をつけるように、わざとぶっきらぼうな声を張り上げたのだ。

「あんなの、ただの『おばさん』だよ。兄上のお下がりだし、僕には大人の女の良さなんてさっぱり分からないね。無理してピンクなんか着て、若作りが痛々しいくらいだ」

男友達の間で弱みを見せたくないだけの、浅はかで稚拙な強がりの陰口。

アルベルトにエスコートされ、ミッシェル様へ歩み寄っていた私は、その残酷な言葉の刃を、一文字残らずはっきりと鼓膜に受けてしまった。

「あんなの、ただの、おばさんだよ」

「若作りが痛々しいくらいだ」

頭の中が真っ白になり、世界のすべてが反転したかのように足元がぐらりと揺れた。

ドレスを仕立て直して、せっかく前を向こうとしたばかりだったのに。ミッシェル様が選んでくれたドレスだから、少しでも良く見せたくて、彼の期待に応えたくてここに戻ってきたのに。

(やっぱり、あの子にとって、私は……ただの、痛々しいおばさんなんだわ)

胸が、引き裂かれるように痛い。周囲の有象無象の嘲笑よりも、信じようとした婚約者自身の口から、友人たちの前で「お下がり」「おばさん」と切り捨てられた事実が、私のプライドと心を完膚なきまでに叩き潰した。

「アナベル? どうしたんだ、顔色が……」

「ごめんなさい、アルベルト。私、やっぱり、少し風に当たってくるわ」

アルベルトの制止を振り切り、私は今度こそ、誰の目にも触れない夜会の闇へと、深く沈んでいくように足早にその場を立ち去った。

背後で、私の異変とすれ違ったドレスの色彩に気づいたミッシェル様が「あ……」と声を漏らし、自分が取り返しのつかない暴言を吐いてしまったことに気づいて、激しく顔を青ざめさせていることにも、今の私には気づく余地すらなかった。