軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 すれ違う夜会

きらびやかな夜会の会場に足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷ややかな視線が一斉に私へと突き刺さった。

「まあ、ご覧になって。ロイド侯爵令嬢様だわ」

「あら、見て。あのパステルピンクを着ていらっしゃるお姿……」

「長身で大人びたお姿に、あのフリルはまるで……くすくす」

ついたての向こうや豪奢な扇の陰から、容赦のない失笑と薄暗い憐れみの囁きが波のように聞こえてくる。私は背筋が凍りつくような感覚に襲われながらも、完璧な淑女の微笑みを仮面のように顔に張り付け、隣を歩くミッシェル様に歩調を合わせた。

私の胸元には、彼の選んでくれた場違いなほど大きなリボン。歩くたびに、自分の成熟した体型に全く似合わないパステルピンクのフリルが哀れに揺れる。鏡の前で味わったあの惨めさと絶望が、いま社交界という悪意に満ちた巨大な怪物に晒され、何倍にも膨れ上がって私を圧殺しようとしていた。

「……アナベル嬢」

不意に、隣を歩くミッシェル様がピタリと足を止め、私の顔をじっと見上げてきた。プラチナブロンドの髪を小さく揺らし、冷たい湖のような青い瞳をわずかに動かしている。彼は私の異変、そして周囲のただならぬ嘲笑の空気に気づいたようだった。

本当のミッシェル様は、私に恥をかかせるつもりなんて毛頭なかったのだ。学園の令嬢たちに「今、一番人気のドレスですわ」と唆され、純粋に「アナベルが喜んでくれるなら」と願って、不器用ながらに発注してくれたに違いない。だからこそ、彼は目の前で自分の贈ったドレスを着ている私を見て、何か言葉をかけようとした。けれど、十五歳の彼にはあまりにも大人の語彙が、そして何より素直さが足りなかった。緊張と照れ隠し、そして予想と違った私の雰囲気に激しく動揺したミッシェル様の口から出たのは、最悪の言葉だった。

「……なんだか、いつもと雰囲気が違いますね。その、無理をしているようで、変です」

ドサリ、と胸の中で何かが完全に崩壊する音が響いた。血の気が一気に引いていく。

彼に悪意がないことくらい分かっている。これは、十五歳の少年が抱いた、純粋で率直すぎる感想なのだ。無理をしているようで、変。それが、私の必死の若作りに向けられた、彼の偽らざる本音だった。

(ああ、やっぱり。私は、この子にとって痛々しいおばさんなんだわ)

胸が、引き裂かれるように痛い。周囲の有象無象の嘲笑よりも、隣にいる婚約者からのその率直な一言が、私の心を完膚なきまでにへし折った。彼に合わせたくて、彼の期待に応えたくて、惨めさに耐えて着てきたのに。私が足掻いた結果は、ただの変な女でしかなかったのだ。

「申し訳ありません、ミッシェル様。少し、気分が悪くなってしまいましたの。失礼いたします」

「え、あ、アナベル嬢……っ!?」

引き止める彼の狼狽した声を振り切り、私は逃げるように夜会の中心から離れた。一刻も早く、この私を呪うピンクの布地から身を隠したかった。

「アナベル。こんなところにいたのね!」

テラスへ続く人気のない静まり返った回廊に逃げ込んだ私を捕まえたのは、親友のイザベルだった。彼女は私の真っ青な顔と、その歪なドレスを見て、すべてを察したように鋭く息を呑んだ。

「そのドレス、一体どうしたの!? あなたらしくもないわ!」

「ミッシェル様が、初めて私に贈ってくださったの。学園の、十五歳の令嬢たちに相談して仕立ててくださったみたいで……」

「何ですって!? あの小娘たちが、ミッシェルの純粋さを利用してあなたを陥れたのね……!」

イザベルは怒りに燃える緋色の髪を震わせ、激昂した。しかし、私の今にも消え入りそうな様子を見て、すぐにその表情を深い慈愛へと変え、私の両肩をそっと掴んだ。

「アナベル、よく聞きなさい。あなたは何も悪くないわ。でも、このままあの場に戻って、あの子たちの思う壺になる必要なんてどこにもない。無理にそのまま着用することはないわ」

「気持ちは嬉しいけれど、これはミッシェル様からの初めての……」

「分かっているわ。彼の好意を無下にしないまま、あなたを一番美しくしてみせる。我が家の有能な侍女をここに呼びます。私に任せておきなさい」

イザベルの指示で、数人の優秀な侍女たちが音もなく回廊の奥の別室へと私を導いた。イザベルの侍女が、手際よく私のドレスの状態を確認する。

「ロイド侯爵令嬢様、失礼いたします。確かに生地そのものは素晴らしいものですが、お嬢様の本来の魅力を殺す無駄な装飾が多すぎます。お任せください、即席で仕立て直しをいたします」

侍女たちの手が目にも留まらぬ速さで動き始めた。鋭い鋏の音が静かな部屋に響く。私の胸元を、腰回りを重く苦しく縛り付けていた、大量のフリルと大きなリボンが、容赦なく切り離され、除去されていく。針と糸が走り、余分な布地が詰められ、ドレスのラインが私のすらりとした長身に沿うように、シャープに作り変えられていく。

「終わりましたわ、お嬢様。鏡をご覧ください」

促されて鏡の前に立った私は、驚きに目を見開いた。そこに映っていたのは、無駄な甘さをすべて削ぎ落とした、洗練された私自身の姿だった。

ピンクの色合いはそのままなのに、過剰なフリルとリボンが消えたことで、私の美しいボディラインを引き立てるエレガントなドレスへと変身していたのだ。長身だからこそ映える、シンプルで知的なシルエット。

「あ……」

深く、深く、息を吐き出す。胸を締め付けていたあの強迫観念が、引きちぎられた装飾と共に消え去ったかのように、私はやっと、まともに息ができる気がした。

「素敵よ、アナベル。これこそが、私の自慢の親友だわ」

イザベルが満足そうに微笑む。

私は鏡の中の自分を見つめ直し、小さく頷いた。そうだ、無理に十五歳になろうとする必要なんてないのだ。まだ胸の奥の傷は疼くけれど、私は私の美しさで、もう一度あの少年の前に立つ覚悟を決めた。