軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

189 主人の残り香 1

「そろそろ、動き出す頃か」

黒いローブを纏う男が砂漠の中を一人で歩いている。

背中に『黒い剣』を浮遊させるに足るなんらかの力を生み出す装置を背負いながら、その足は灼熱の太陽光を浴びる熱砂を踏むが、歩いた後には足跡すら残らない。

時折、砂中に眠る虫を求めて歩く砂ネズミが現れるが、警戒心の高い親子ですら黒いローブの男を認識することなく無防備に足元を通り過ぎていく。

「……里までは二ヶ月ほどだが。流石に、徒歩移動は厭になる」

二ヶ月、とは休まず歩き続け二ヶ月ほどで辿り着く、という意味である。

ルードは自身の故郷である『 長命者(エルフ) の里』へとゆっくり自らの足で歩みを進めていた。

それがルードのような地上勤務を課せられた 長耳族(エルフ) にとっての、最も存在の痕跡を残さずに移動できる手段だった。

だが今日、黒いローブの男、ルードが任されていた一つの仕事が終わる。

────赴任より、数百年。

それは人にとっては一つの国が興亡するのに十分な時間。

エルフにとっては少し長めの休日のような期間。

その労働の結果、この地で栄えた一つの文明が終わる。

否。

その後もしばらく栄えるはずだった幾つかの文明が、 エルフ(ルード) の手によって終わるのだ。

サレンツァの首都で起動する『忘却の巨人』は単なる兵器ではない。

起動したが最後、文字通りそこに何があったのか思い出せるほどの痕跡すら残さずに土地一帯を一掃し、完全なる『白紙』に戻す役割を持った自動機械である。

それは、かつて滅びた人類が大地を汚す旧き神々に対抗しようと知恵を絞って完成させた『無限に再生し、無尽蔵に動き続ける対神兵器』であった。

だが、とある欠陥があった為に、それを製造した都市国家ばかりか周辺にあった文明まで悉く滅ぼした。

一旦起動するとエネルギー源が尽きるまで決して活動を停止せず、その動力源が尽きるまでには少なくとも数百年。

故に、停止するまでの間に、その地に生きる者はなんであろうとすり潰され、あらゆる建造物は壊され、砕かれ、やがて全ての人の営みがただの砂粒に変えられる。

一旦動けば、全てが滅ぶ。

そういう装置だった。

現在、この地に存在する『砂漠地帯』はその名残である。

かつて存在した無数の文明のなれの果て。

『忘却の巨人』と名付けたのは、その性質をよく知るエルフだった。

忘却の巨人の動力源には迷宮の 核(コア) とされる『青い石』が用いられている。その内部に封印された、『旧き神』の一柱から得たエネルギーを動力として使う設計になっており、一度停止すれば、充足のために千年程度の休眠期間を必要とするが、待つだけで再び動き出す。

そうして復活した『忘却の巨人』は、一切休むことなく周囲に存在する全てを壊し、当初の予定通り、旧き神々を滅ぼしながら、またそれらの活動によって汚染された土壌を浄化しつつ、さらには新たに生まれた人類のささやかな営みも全く区別することなくその腕に抱き込み、満遍なくただの砂粒へと変えていった。

そうして、動力が尽きるとまた力を蓄えるために地中深くに潜って、同じように眠りにつく。その周期的な活動は、やがて旧き神が地上から完全に消え去った後も変わらずに続き、およそ万年を超える期間、繰り返し繰り返し、地上を不毛の土地に変えていた。

おそらく、その 欠陥(・・) は生み出した者の意図通りなのだろう、とルードは考えている。

一旦起動すれば誰の命令を必要とすることもなく、破壊行為のみを行うという設計思想自体、「自らの文明が滅びようと必ず旧き神だけは滅ぼす」という旧人類の怨念じみた意志を感じる。

当初、エルフたちですら、その半永久的に動き続ける巨大装置には手を焼いた。

だが、その巨人が眠っている間に『青い石』が置かれる動力室に『鍵』を設け、自らの手で管理するようになると、休眠期の状態の巨人を『忘却の迷宮』と呼び変え、起動の時期を自分達で選択できるようにした。

また、休眠期の保守活動を司っている『部品達』が特定の信号を与える事で従順に命令を聞くようになることを理解すると、それも『資源』として自らの生存目標に沿って、大いに利用する事にした。

エルフの目的とは端的に言えば、「地上に生きる 人類種(ヒト) の管理」であった。

決して絶やさず。決して増やさず。

ある時は、人類が決して滅びぬように手助けし、またある時はそれらが 行き過ぎた知恵(・・・・・・・) を持たぬよう、文明の程度、あるいは 人口(・・) そのものを調節した。

それが造物主より悠久を生きることを許された『エルフ』に与えられた唯一の使命であり、過去に破局的事態に陥ってしまった旧い人類の『もう二度と同じ過ちを繰り返さぬように』との願いがそうさせている。

だがその願いはエルフの『血』の中に深く刻み込まれており、逆らうことは決して許されない。

────故に エルフ(ルード) は憎悪する。

自らの一族を初めからそのように造った人類を。

自分たちにだけ重責を押し付け、勝手にいなくなってしまった造物主を。

その『願い』という名の欲望に従って、他者の運命を弄ぶことを決めた者たちを。

その遺言の通り、手を入れてやらなければ勝手に滅ぼし合ういつの時代も全く進歩する気配も見せない 人類(かちく) たちを。

そして、子々孫々の血に呪いを与えられながら、それに決して抗えない自分たちの運命を何より呪っていた。

「……忌々しい。いっそ、全て滅べばいい」

ルードは常々、そう願っていた。

だが、その身に刻まれた血がそれを許さない。

人類は概ね放っておけば平和的に進歩して増え続ける生物である。

だが、とある時点を境に途端に数を減らし始める。

それはそれらが得た技術であり、築いた文明であり、それによって引き起こされる戦争だった。

考え方でまとまり、村を作り、国を作る。

考え方でまとまっていく。

逆に言えば、そこに隔たりがあれば決して分かり合えず、

そうして自らが得た知恵により互いを傷つけ始めるのだ。

元来、争いが生物として人類が備えた性質であり、成長を望めないことはルードも知っている。

だが、何度興亡を繰り返しても、その諍いが何より自身の力を削ぐ行為でしかないのだと気付けず、本来儚い存在であるはずの己の本質を忘れ、些細なことでいがみ合うことに辟易していた。

そして、その管理を未来永劫、自分が任されている事実にも。

かつては負担を減らそうと、知恵をつけさせようと躍起になったこともあった。

だが、その度に人類がエルフの存在に気がつき、脅威と考え排除しようとした。

そうなればエルフたちは姿をくらまして、その首謀者の命のみを摘み取って、あとはその熱が冷めるのを待った。

元より、人とエルフの間には絶望的な寿命の差がある。

故に、問題が起きた場合はただ放置した。

それだけで対立に勝つ。

アレらは「忘れる」のだ。

どうしようもなく。

その繰り返しを見るたび、ルードは辟易する。

いくら過去の歴史を知恵として残そうと文字に刻もうと、やがては読む者すらいなくなり、再び、寸分違わぬ過ちを繰り返す。

だが、それ故に数を減らす仕事は簡単だった。

ほんの少しの争いの種を配置してやるだけで、簡単に自滅する。

敵対する勢力を見立て、各々の欲望を刺激する火種を撒いて放置すれば勝手に争い、滅ぼし合う。

それを遠くから見守ればいい。

管理としては簡単だった。

だが────

ごく稀にそういった方法の通じない者もいる。

己の欲望や猜疑を克服し、個の枠を超え、他者と手を結ぶことに快楽を覚える個体群。

エルフがほんの数百年ほど目を離した隙に『還らずの迷宮』に勝手に居を構え、やがては周囲に砦を建造し、国まで築いてしまったあの迷惑な 冒険者(ならずもの) たち。

ルードの抱える目下の課題は、今はクレイス王国と名乗っているあれらだった。

「時折、いる。あのような妙に強い結びつきを持つ集団が」

代々、「最も強き者」を王に頂くあの国は、かつて迷宮の財宝目当ての放浪者たちの寄せ集めに過ぎなかった。

それらは己の一時凌ぎの仕事のために『パーティ』という徒党を組むが、そのまとまりは出自や国によらず、気まぐれに酒を酌み交わしては互いに持ち寄った情報を共有し、ただ何となく気に入った、というだけでどこの誰だろうと誰彼構わず仲間となり、やがて命を預け合うようになる。それこそ、何の縁もなかった人と人とがどうにでも結びつき、ゆきずりの関係でも血を分けた親族以上のつながりを持つことすらある。

そのどれもが上手くいくわけではない。

裏切りもあり、決裂もあり、また自然消滅もあった。

それまでも、そのような結びつきを持つ集団は度々存在したが、常に一過性の関係性に留まった。

また、それらは決まって弱い個体ばかりの集合であった。

そのような者は通常、強い個との競争に負けて絆が長続きすることもなかったのだが。

どういうわけかそういった関係性が長続きし、組織化し、国にまでなってしまったのが今のクレイス王国なのだ。

当初、ならず者の国として始まったクレイス王国は代々、意外にもまともな政治を行った。

短い寿命の中で己の持てる技術を如何に後代に伝えられるかに腐心し、その後代は先から受け継いだものをさらにより良い形で次へと継承するため、努力を惜しまなかった。

その上、本来は荒地でしかない小さな土地で農業を行い、乏しい資源を有効に利用しながら交易を行って、やがては広域に安定した生活拠点を築くまでになった。

その略奪や収奪に拠らない穏やかな性質の発展は、エルフが抱く、本来あるべき理想的な人類文明の発展像とさえ見えた。豊富にある『還らずの迷宮』産の遺物の力にも過度に依存せず、理性を保っているように見えたからだ。

だが────経過を観察してみれば、 早過ぎた(・・・・) 。

これまでの歴史を辿ってみて、倫理観の発展も、技術も、武力も、異常とも言える速度での成長を成し遂げている。

それはエルフたちの管理基準からすると、優に限度を超えるものだった。

さらには近年、歴代の為政者と比べても突出する業績を残しうる王まで現れた。

10代の時代に、たった数名で『還らずの迷宮』に挑み、最後には深部に到達した現クレイス王。

それが『黒い剣』を持ち帰ると、すぐさま王位に就き、共に迷宮に潜った冒険者たちを各部門の長とした【六聖】を組織して政治を行い、自らの知見を惜しみなく民に与える法と制度を敷いた。

それも己が死に物狂いで取得したはずの高度な技術を何の見返りも求めず、請われれば誰彼構わず分け隔てなく教える、という暴挙に近い政治に乗り出したのだ。

あれが特に問題だとルードは考える。

「……あれでは、後代が育つ。育ちすぎる」

あの冒険者が王位に就き、政治を始めてから十余年。

エルフの寿命からすれば、ほんの一瞬の時間の流れのうちに厄介な存在が幾つか出始めている。

王の世継ぎと目される『王子レイン』。

その妹の『王女リンネブルグ』もさることながら、【六聖】を補佐する実質的な後継者たちも目覚ましい進歩を遂げている。

如何なる名君も一代限り、ただ待てば、有能な者もいずれは老いて衰退する、などと呑気に構えられない状況が生まれていた。今はまだそれほどの脅威ではない。

だがやがて、【六聖】の教え子の中から、師を上回るような突出した個が生まれ出るとも限らない。

その脅威にいち早く反応したのが『魔導皇国』の皇帝だった。

当時、皇帝は老年期を迎えており、ルードがその焦りと野心に便乗し、侵攻を唆すのは容易だった。

ルードが【厄災の魔竜】をけしかけたのも、増えすぎた王都の力を削ぎ、『還らずの迷宮』と『黒い剣』を奪還する意図だった。それだけでなく、もし戦火が長引けば皇国とクレイス王国両国に深い溝が入り、同時に力を削げるだけでなく、これからの仕事も簡単になると考えた。

ルードにとって、最悪は両国が結びつくことだったから。

だが、そのルードの思惑に反し、始めた戦争はたったの一日で終わり、互いを憎むために周到に用意された火種もまるで何もなかったかのように、考えられぬほど平穏な解決に導かれた。

それどころか両者は即座に和解し、かえって皇国の技術がクレイス王国に吸収される事態になっている。

ミスラの件もそうだった。

あの国は元々、『ハーフエルフ』を称する女に化けた旧き神、『聖ミスラ』が『教皇アスティラ』を名乗って治め始めた国だった。

宗教国家とは名ばかりの、教義は邪悪にして傲慢、一見して『聖ミスラ』の欲望を満たすためだけに作った組織だとわかるのだが、ルードにとって、それは好都合だった。

『聖ミスラ』は旧き神々の中でも格が低く、また長年『青い石』の中へ肉体が幽閉されたことにより力を失い、弱り切っていた。故に『聖ミスラ』が地上で長く活動を行うほど、もはや『図書館』を介してしか知り得ない旧き神々の行動を観察できた。

その上、ミスラはクレイス王国とは敵対的な関係にあった。

そのことも、クレイス王国のこれ以上の膨張を阻みたいエルフの思惑と一致した。

だが、その状況もすぐに終わりを迎えた。

他ならぬ、『黒い剣』を擁するクレイス王国の者たちの手によって、『聖ミスラ』が討たれたのだ。

結果、両国は結びつきを強め、より強固な信頼関係を結ぶに至っている。

それだけではない。

クレイス王国は『聖ミスラ』と対峙したことで、あの『剣』が持つ意味にも気がつき始めたに違いない。

あれはただの剣ではない。

既に『黒い剣』の機能自体は全て失われている。

そして技術も失われて久しく、修復は不可能。

だが、その名残が未だに『還らずの迷宮』の周辺に留まり続けている。

ルードにとって、それが一番の問題だった。

──……例えば、王国で【神盾】と呼ばれる異能の女。

あれはヒトがもて囃す、神が与えた『恩寵』などではなく、古い人類が旧き神々と戦い抜く為に生み出した、 機能(・・) だ。

あの『剣』に力を与えることを意図して設計された、複数ある補助機能の一部。

事実、エルフの里の『図書館』には過去、あの剣が旧き神々との戦いに用いられた際、その機能を担っていた部位が破壊され、その力を用いる為の機構が永久に失われる様子が克明に 記録(アーカイブ) されている。

だが、 機能(チカラ) そのものは利用される機会こそ失せたものの、それは概念として形を保ったまま、ずっと消えることなく世界を漂っていた。

そうして、長い時を経てたまたま同じような性質を持つ 器(からだ) に宿ったのだ。

そうした現象はあの地に破損した剣が封じられてから数万年の間、一度もなかったことだった。

にもかかわらず、それが起きた原因はわかっている。

無知な冒険者どもが、あの理念物質の塊を『還らずの迷宮』から持ち出したからだ。

それに呼び起こされるように 機能(チカラ) がその実体を求め、もはや戻らぬはずの主人の帰還に応えようとした。

それは決して起こってはならぬ事態だった。

エルフが『人類側』の準備が整うまで数万年、数十万年と変わらず受け継ぐべきだと慎重に温存していた宝が、何も知らぬ者の手によって世に運び出された。そればかりか、エルフが長年の研究の末、開けることは決してしないと誓ったはずの扉が何の間違いか、ほんの少し目を離した隙に、全開放されてしまったのだ。

「 塵(ゴミ) どもが」

────もう今更、後戻りができるわけではない。

時計の針自体を巻き戻すことはできない。

だが、遅らせるか、 白紙に戻す(リセットする) ことはできる。

故に、あの『忘却の巨人』の起動だった。

『忘却の巨人』を起動すれば、少なくとも数年後かにはクレイス王国にも到達する。

そして、対抗手段を持たないあれらは滅亡の道を辿るほかはない。

奴らにとっての一世代が経過し、致命的な事態に陥る前にそうなってもらう必要がある。

クレイス王国の者どもが、今の自らが置かれた優位性に気がつき、最悪、自惚れて『還らずの迷宮』の深部に潜む者に挑戦でもしようものなら目も当てられない事態となるからだ。

人類の空白だらけの歴史には何も刻まれていないが、エルフはこれまで幾度もこうやって問題を先送りにしつつ、地上を管理してきた。

既に準備は尽くしている。

これで再び人類の歴史における数ページが消去され、文明は数十世代分は後戻りする。

「……だが、万が一。あれらが『青い石』を割るようなことがあれば──」

根本的に評価を改めなければならない、と独り言を呟こうとした黒いローブの男は、ふと何かに気づき、砂漠の空を見上げた。

「────何か、来る」

異変を感じた方角の空に目を凝らすものの、そこには何も見えはしない。

だが、それは予感ではなく事実だった。

エルフの長い耳は遠くの音も容易に拾う。

視界の奥にも映らぬ遥か遠くから、巨大な何かが風を切り裂いて迫っている。

「成程。援軍を頼んだか」

それは【厄災の魔竜】だった。

ルードの感覚ではつい先日、表向きは魔導皇国の『依頼』として自らクレイス王国に差し向けた、古代兵器の末裔。既に唯一の生き残りであり、種の存続の方法はなく、滅びを待つだけの存在となっている。

故に、別個体ということはあり得ない。

侵攻時にあれが調服されたということは知っていた。

既に『魔族』の特殊個体ロロがアレらの手中に落ち、現在その影響下にあるのだろうとルードは考えた。

今となっては、あれの処分に失敗したことも大きな痛手となっている。

「……この機会に、落としておくか」

竜は真っ直ぐルードに向かってくるルートで飛行している。

背中には問題の【六聖】が乗っており、向かう先が自分が歩いてきた方向と一致する。

おそらく、危機を察知して救援に向かうのだろうが。

あれらが気づかぬ内に、竜ごと皆殺しにするという選択肢が頭に浮ぶ。

だがルードは一旦、顎に手を当ててその合理性について考えを巡らせる。

「……見たところ、援軍は【六聖】のみ。おそらく、このまま攻撃を行えば、九割九分の確率で皆殺しにはできるが────もし、万が一。こちらの姿と手の内を晒しながら逃走を許した場合、アレらは必ず掴み得た知見を後代に伝達し、いずれまた厄介な敵として我々エルフの前に立つ。アレらには僅かな経験も与えてはならない。故に、」

そうしてルードは熟慮の結果、黒いローブを大きく翻し、 人類(ヒト) に対しての己の優位性を生かす合理的決断、つまり────

「この問題は、放置する」

この場を何事もなくやり過ごし、処理の可能性は『忘却の巨人』に任せる、という判断をすると真横に道を逸れた。

それは黒竜に乗る【六聖】との距離を少しでも取って万が一の接触を避けるための行動だったのだが。ルードの動きに合わせるように黒竜が飛行ルートを修正したのを感じ取って、立ち止まる。

「……おかしい。俺を 追ってくる(・・・・・) 、だと? この世代の技術では、この隠蔽を感知するのは不可能なはず。そのような、パワーバランスを崩す知識はどこにも与えていない。もし、要因があるとすれば……」

黒いローブの男はまず己の背に浮かぶ黒い物体のことに思い至り、自分の前の所有者の姿を思い描く。

「────匂い、か」

そういえば。

存在感知と視覚感知、音声に関する処置は隙なくやったはずだが、うっかり匂い消しの処理だけ忘れていたな……と黒いローブの男は己の内で反省しながら、誰にも気取られずに素通りする事は不可能と諦め、自分めがけて脇目も振らず飛来する巨竜の影に向き合った。