軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ラーヴェがハディスの肩の上にひょっこりと顔を出した。

「よー嬢ちゃん、さっきは俺を豪快に捨ててくれてどうも」

「ラーヴェ、おしゃべりはあとだ」

静かな声に、竜神が姿を変える。竜帝の天剣。

その輝きを覆うように、上から影が覆い被さった。ジェラルドだ。もつれそうな舌で、ジルはやっと叫ぶ。

「陛下!」

右手にジル、左手に天剣を持ったハディスは眉ひとつ動かさず、ジェラルドの槍を弾き飛ばした。

そのままその場で、すさまじい槍と剣の剣戟が繰り広げられる。

ジルはハディスとジェラルドの撃ち合いをなんとか目で追えているが、周囲には爆風が吹き荒れているようにしか見えないだろう。ここが噴水広場だったからよかったものの、誰も近づけない有様になっている。

ハディスはジルを片腕で抱いたまま、片手ですべてジェラルドの攻撃をしのいでいた。むしろ押し始めている。それを喜べないのは、ひとえにハディスの顔のせいだ。

無表情を通り越して目から光が消え、何かをこらえているようだった。

(た、戦いの最中になんでそんな顔を)

ジェラルドが舌打ちした。ジェラルドが持っている黒い槍――聖槍の模造品か由緒ある名器か、いずれにせよジェラルドの魔力も付加されていて並大抵の武器ではないのだが、相手は天剣だ。当然のことながら、槍のほうがもたなくなってきている。

勝負をかける気だろう。大きく踏みこんできたジェラルドに、ほんの少し顎をあげたハディスが、かっと金色の瞳を見開く。

その瞬間、風圧に吹き飛ばされたジェラルドが床に手をつく。だがすぐさま転がった槍を手にしようとして――止まった。

天剣を喉元に突きつけられて、ジェラルドが両目をあげる。

「……我が国に宣戦布告でもするか? 皇帝陛下」

「まさか。この度は……――」

そこでそっと顔をそらしたハディスは、肩を震わせ始めた。ジルもジェラルドもまばたく。

「お、折れ……め、女神の、槍が……」

「……陛下?」

「お、折れてしまった女神に、お見舞いを」

口元を覆い、必死で笑いをかみ殺しながら言うハディスに、ジルはぽかんとする。

まさか、さっきからこらえていたのは笑いか。

天剣から姿を戻したラーヴェも、震えながら顔をそむけた。

「お、おま、その言い方。やめろ、笑いが止まんなくなるだろ、俺だって我慢……折れ……女神が、女神なのに、真ん中から、ばきぃって……!」

「ラ、ラーヴェ。笑っては、いけない。た、大変なことだ。め、女神が折れたなんて、一大事だぞ。……め、女神って折れるんだな……!?」

「――我が国の女神を侮辱するか!?」

青筋をたてたジェラルドが立ちあがろうとする。だがすぐさま転身した天剣の切っ先を突きつけられて、止まった。

「養生するよう、女神に伝えてくれ。今度は妻を囮になどしない。僕が相手になる」

「……」

「結婚式には呼ぼう。折れた姿で、これるものならくるがいい」

頬を引きつらせたジェラルドの体が浮き上がった。ジェラルドだけではなく、軍港のほうからも幾人か浮いている。全員、クレイトス王国からきた者達だ。

「騒動を起こした者についてはこちらで引き取るから、安心して国に逃げ帰ってくれ。私的な訪問だから見送りはいらないね」

「な、ん……」

「言っただろう? 君と僕では格が違う」

頬をひくつかせたジェラルドに向けて、ハディスが大きく天剣を振る。その風圧に吹き飛ばされるようにして、浮き上がっていた人物達が明け始めた空の果てに飛んでいった。

「……。あの、あれ、どこに」

「たぶんラキア山脈の山頂付近あたりに落ちるんじゃないかな」

事もなげにハディスは言ったが、今のラキア山脈は既に雪で覆われている時季である。

(遭難して死ぬんじゃ……)

ひそかにラーヴェ帝国に入国したクレイトス王太子がそのまま行方不明になったら――ジェラルドには魔力があるから大丈夫だと思おう。

周囲のざわめきが聞こえてくる。おそるおそるこちらをうかがっていた住民達が顔を出す。目を回しているベイル侯爵を引きずって、カミラもやってくる。ジークもミハリに肩を借りて、ちゃんと立っている。消火活動にいそしんでいたらしい北方師団が、笑って手を振っていた。

「けが人はいるが、死人は出なかった。――君はすごいな」

「わ、わたしは別に、何も」

「いいや。皆が女神からこの町を守る君の姿を見たから、おさまったんだ」

そう言って、ハディスがジルを地面におろした。

そして誰よりも真っ先に、ジルにひざまずいた。

「僕と結婚して欲しい」

誠実な、心からの言葉に目を瞠った。

「もっと他に言うことがあるだろうと思われているだろうが。今は胸がいっぱいで、それしか言葉が出てこない」

苦笑い気味にハディスが顔を持ちあげた。

闇夜を振り払うような心地いい海風に吹かれているその顔は、とても美しく輝いている。

そう、戦場で見あげたあの白銀の魔力のように。

「返事をくれないか、ジル」

名前を愛おしげに呼ばれて、ジルは深呼吸する。

先に好きにはならないと決めていた。でももう、認めるしかない。

「正直なところ、別れたいです」

ですが、とジルが続きを告げる前に、竜帝は心臓を止めた。