軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「――では皆様、また後日お会いしましょう」

皇帝のひとことで、やっと午後のお茶会がお開きになった。長雨の終わりに現れた晴れ間は、午睡にぴったりだ。かしましいお嬢さん方のおかげで吹き飛んでいた眠気が戻ってきそうである。あくびを噛み殺すと、ずっと背後に控えていたミレーが気遣わしげに声をあげた。

「少しお休みになられてはいかがですか、陛下。お疲れでしょう」

「大丈夫だよ。君こそ大変だったでしょ、にらまれて」

ミレーは侍女見習いの中でもハディスに特別扱いされており、有力な皇妃候補だと既に噂が回っている。だが平民出身で後ろ盾がない。本日のお茶会に招かれていた令嬢たちは誰も彼もがそれなりの後ろ盾や身分を持っている。特別目立った騒ぎは起こらなかったが、わかりやすくミレーに品のない敵意を持つ者も少なくなかっただろう。

「いえ、私の仕事です。それに、敵意を見せてくる方はわかりやすくて楽ですよ。何か陛下のほうで気になる令嬢はおられましたか?」

「残念だけど、君ほどの当たりはなかったね」

ハディスの答えに、ミレーが珍しく「そ、そうですか」と口ごもった。だが、続きの会話は遠くであがった甲高い声に遮られる。薔薇園の出入り口の向こうだ。気が抜けたのか、どうやら令嬢たちがもめ始めたらしい。

「見てきて」

見送りの帝国兵もいるし、ただの言い合いだろうが、念のためだ。赤い頬を急いで引き締めて、ミレーが駆け出した。

肩から息を吐き、ハディスは乱雑に椅子に腰かける。

(そう簡単に尻尾は出さないか……)

木漏れ日の下、薔薇を楽しみながらお茶を酌み交わすため用意されたテーブルも椅子も、にぎやかな客人たちがいなくなった今、嵐がすぎさったような有り様だ。多少行儀を悪くしても怒られまいと、テーブルに突っ伏す。

「あーめんどくさい、やる気がでない。ジルがたりない」

「嬢ちゃんがいないうちに頑張るんだろーが、しっかりしろ」

顔を出した呑気な育て親は、人目がなくなったのをいいことに、テーブルの上に残った切り分けられたケーキやクッキー、フルーツを物色し始めている。

「だって疲れるよ~……もうやだ、飽きた。手っ取り早くいきたい」

「安易な方向に流れようとするな、いっこいっこ地道にやれ。キナ臭いこと多いだろ、竜がさける場所ってのも……どうするよ? あのミレーって子にやらせてみるか?」

「ああもうめんどくさい、竜たちでなんとかしろ! なんのための竜の王だ!」

「お前なあ、それ自分にはね返ってくるってわかってるか?」

「おにいさま、つかれちゃった?」

可愛い末の妹がひょっこり顔をだした。ハディスはうるさい竜神を払い落とし、自分の横に椅子を用意してやる。

「大丈夫だよ。フリーダこそ疲れてない? ケーキ残ってるよ、食べる?」

「ありがとう、ハディスおにいさま。ルティーヤおにいさまも、こっち」

フリーダに手招きされて面倒そうにやってきたのは、可愛くない末の弟だ。目を細めたあと、ハディスは取り皿にルティーヤの分もとってやる。

「今回はまあ特別にお前にも取ってあげるよ、はい」

「ケーキ取り分けるくらいで、よくもそんなにえらそうにできるな」

「今の僕は心が広いんだよ。だって僕は、ジルにお茶会に呼んでもらえるんだから!」

「うっわ、そんなこと気にしてたんだ。ダッサ」

一度目を伏せたあと、ハディスはカットナイフを手に、笑顔を浮かべた。

「このクソガキ……!」

「けんかはだめ」

だって、とハディスは反論しようとしたが、フリーダにじっと見つめられると弱い。渋々黙ると、フリーダが保温ポットを手に取り、ルティーヤは三人分のカップを並べてくれた。

「で? 成果なかったっぽいけど、これからどーすんだよ」

取り皿から直接素手でケーキをつかむルティーヤに、ハディスは顔をしかめた。

「行儀悪いよ。ちゃんとフォークで食べて」

「うるさいなあ。それより、さっさと尻尾つかまないと情報抜かれっぱなしになるぞ。このまま同じように茶会続けても引っかかんないだろ。手を変えてかないと」

「あ、じゃあルティーヤの婚約者の募集をかけるのはどうかな」

「はあ!?」

「ハディスおにいさま、いじわるしちゃだめ」

「わかってるよ、フリーダ。冗談――」

ふっと頭に飛びこんできた声に、ハディスは眉を吊り上げた。テーブルの上の残りものを物色していたラーヴェも顔をあげる。

「――は? 迷子になった? 知るか」

まばたいたフリーダに、ルティーヤが「ローだろ」と教える。合っているが、竜の王、何より敬愛すべき兄の大事な心を呼び捨てにするのはどうかと思う。

「ここどこじゃないよ、僕が知るか。はー? 襲われてるとか知るか、鶏になんとかしてもらえ。それともお嫁さんに連絡してやろうか? 嫌なんだろうが、だったら自力で解決しろ僕は知らな――待て、ジルはどうした? は!? はぐれた!? なんでまた……寄り道……ジェラルド王子を、さがそうと、して……?」

フリーダが紅茶の入ったカップとケーキのある取り皿を、ハディスの手元から遠ざけた。

「な……なんっ……なんでジルは、ジェラルド王子なんか、さがそうと……!? そ、それでお前はどうする気だ、ちゃんとジルの所へ戻るんだろうな――ジルはもう戻らないかも!? なんてこと言うんだ、どこにいるのか説明――おいこら!」

しらないよばーか!という罵声と一緒に、声が途切れる。ハディスは愕然とした。

「い、いったいこいつの教育はどうなってるんだ、ラーヴェ!」

「残念ながらお前の心を反映した結果だよ」

聞こえないふりをして、ハディスは落ち着けと額に手を当てて考える。

「ジル先生に何かあったのか?」

「……ジェ、ジェラルド王子をさがしにわざわざ寄り道をしたところで、トラブルに巻きこまれたみたいで……ローともはぐれて行方がわからない……ど、どうしてジェラルド王子なんかさがして……まさか、今、一緒に……僕じゃなくてジェラルド王子と一緒にいたりする!?」

胸のあたりをつかんだハディスの肩からラーヴェが羽ばたいていった。

「おーい、レア聞こえるかー? うんあのな、他竜が困ってんだよ。ローからレアには教えないでっていう命令が飛んでて。まぁ見守ってやれよ、自分で頑張るってさ。ただ気にかけといてくれよ、ちょっと嬢ちゃんが行方不明でハディスが何するかわかんねえから」

「落ち着けよ、ジェラルド王子の行方は大事な交渉材料だから先生は――」

「知らないよそんなこと! い、いつだってジルはそうだ……僕がいちばん大事って言いながら、肝心の僕をないがしろにする! 僕のほうがあの王子より背だって高いし強いし、天剣だって持ってるし、皇帝だし、料理だってできるのに……!」

唸るハディスに、ルティーヤが肩をすくめ、フリーダを見た。

「駄目だなこれ」

「ハディスおにいさま……一度、ジルおねえさまがジェラルド王子の味方になったの、心的外傷になってるんだと思うの……」

「へー、そんなことあったんだ。ざまあ」

「うるさいな! お前なんかジルにハナから相手にもされてないだろうが!」

「し、失礼いたします、陛下。あの、ご相談が――」

小走りで戻ってきたミレーに、皆がそろって振り向いた。