軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10

上空にあがったジルは、首を巡らせるマイネと一緒に馬車をさがす。今となってはあれが唯一の手がかりだ。

(もし、本当にジェラルド様が方舟教団にかくまわれてるなんてことになったら――)

マイネが吼えた。

驚いたジルは、マイネが向かうその先で理由を悟る。

護送用の馬車だ。何か仕掛けがあるのか、恐ろしい速度で走っているその馬車の屋根に、ローが荷物のようにくくりつけられていた。

「ロー!」

「きゅうううう……」

涙目のローが悪路を走る馬車に振り回されながら目を回していた。怒りに満ちたマイネがものすごい速度で馬車を追いかける。馬車の天井から、ちかっと光が走った。

対空魔術だ。馬車自体に対空魔術が施されている。だがマイネはそのまままっすぐ突っこんでいく。

「――っ駄目だマイネ、よけろ!」

咄嗟にマイネを制御する術を持たないジルは叫ぶしかない。だがその叫びも間に合わず、まともにマイネが胴体に魔力の光線を浴びた。体勢を崩したマイネが墜ちる。だが、激突する前に体勢を整えて、地面に足をつけてみせた。さすが赤竜だ。

「マイネ、大丈夫か。いけるか!?」

マイネが首を持ち上げる。その先にいくつか黒い影を見つけて、ジルはまばいた。野生の竜たちだ。竜が、集まってきている。

ローを助けるためだ。

ざっとジルの頭から血の気が引く。

竜騎士団の竜が対空魔術をよけて飛べるのは、訓練とその存在を教えられているからだ。野生の竜は、対空魔術そのものの存在を知らないのではないか。マイネは赤竜だから無事だっただけで、下位竜は一撃で焼け墜ちる。そういう戦場をジルは見てきた。

マイネが再び飛ぶ。馬車を追いかける竜の数は増えてきていた。竜の王の危機だ、皆、命懸けで向かう。戦争をする兵士のように――マイネも、よく見れば冷静さを失っている。

「ロー! ロー、みんなを止めるんだ! ロー!」

完全に気を失ったのか、遠目でもローの反応がない。そのローを助けようと、一頭の緑竜が馬車に爪を光らせた瞬間、馬車そのものが輝いた。

尋常ではない魔力が、対空魔術となって四方八方に飛び交う。竜の悲鳴があがり、何頭かが墜ちていった。マイネがさすがに危険を感じたのか、速度を落としてしまう。

歯噛みしたジルはマイネの背を蹴ろうと体を起こす。

その頭上を、小さな影がまっすぐに追い抜いていった。

「コッッケエェェェェエエエ!!」

向かってくる対空魔術をすべてよけ、弾丸と化したソテーがローを蹴り飛ばした。

「うっきょおおおぉぉ――――!」

蹴りの衝撃で目が覚めたのか、叫び声をあげながらローがくるくると空中を舞い、あらぬ方向へと飛んでいった。ちぎれた縄に引っ張られ、馬車が横倒れになって沈む。

軍鶏による竜の王の救出劇に、マイネがあっけにとられたのか、ぱちぱちとまばたく。そのマイネの背を、ジルは蹴った。

「ソテー、マイネ、今すぐ撤退しろ! まだ何かくる!」

倒れた馬車が再び光り出した。地面からこちらを見あげているソテーに、ジルは命じる。

「ローを守ってカミラたちのところへ戻れ、わたしも必ず戻る! あとはまかせたぞ!」

「コケッ」

ソテーに飛び乗られ、マイネが我に返ったように再び空へと浮かんだ。

上空から馬車に飛びつこうとしたジルを迎え撃つように、光の柱が屹立する。

黄金の指輪を剣に変え、ジルは真正面から魔力の爆発を受け止めた。

何重にも強固な魔術がかかっているはずの鉄箱の馬車は、まるで砲台のように上に向かって魔力を放出していた。竜妃と同じ、黄金の魔力だ。放っておけば周囲を巻きこんで爆発するだろう。それをなんとか上から押さえ込む。

圧倒的な質力に押されて、前が見えない。だがその魔力の質量が落ちたそのとき、空中に浮きっぱなしのジルの足首に、何かが巻き付いた。

魔力の鎖だ。足首が引きずられ、竜妃の神器が消える。思考はあとでついてきた。

(魔力が吸われ、て……っ)

巻き付いた鎖に引っ張られ、初めて見る魔法陣に吸い込まれるように、地面に落ちた。

一方、馬車から上空に立ちのぼった魔力が、円を描いて降り注ぐ――もう止められない。

方舟教団アルカは奇襲や不意打ちを得意とし、不可思議な魔術や道具を使うから、正面から戦いを挑むなら気をつけろと、あれほど言われていたのに。

まだ残っている魔力を振り絞って結界を張り、空から降り注ぐ魔力の光線から身を守った。

(大丈夫、吸いきられ、ない……!)

馬車から溢れる魔力の暴発も、だいぶ威力が削いでいたのが幸いした。その分、ジルの魔力がからになってしまったが、無事であっただけましだと思うしかない。

――砂塵が晴れた中、黒の外套をまとった者たちに取り囲まれてしまっていたとしても。

「竜妃か。どうする」

「ひとまず連れていくしかない。竜の王はどうなった? できれば回収したい」

「それより女神の器だ。生きているんだろうな。馬車ごと自爆させるとは、モエキアの奴らは計画性がなさすぎる」

目をどうにか開いたジルは、顔だけをなんとか馬車のほうへと向ける。

ガラクタになった馬車から、首輪をつけた少女が引きずり出されてくるところだった。息を呑む。

(どうしてここにいる)

すでに王都バシレイアを出発したという報告は、聞いている。だがまだ、国境を越えたくらいの頃合いだろう。

レールザッツ公爵領で、ジルと会談するために。

「――あら、竜妃殿下までこちらにおいでになるだなんて」

薄く目を開いた少女が、青白い顔でジルに微笑む。

「それとも、会談場所はここでしたかしら?」

鎖に繋がれてもなお優雅に、フェイリス・デア・クレイトスは薄汚れた頬で皮肉ってみせた。