軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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周囲を気にしているミレーの様子に、ハディスが何か言う前にフリーダが立ち上がり、ルティーヤの袖を引いた。

「ルティーヤおにいさま、わたしたち、お邪魔みたい」

「フリーダ様、そのようなことは」

「かまいません。ハディスおにいさまの役に立つならば。ね、ハディスおにいさま」

笑顔で脅すという高度な真似をして、フリーダがルティーヤを引っ張っていく。ルティーヤはある意味素直で、ハディスを冷ややかに一瞥し、フリーダに従った。

申し訳ありません、ともう一度謝罪して、ミレーが姿勢を正す。

「早くお耳に入れたほうがいいと思い……さっきの騒ぎですが、こちらが城内にばらまかれていたのが原因でした」

ミレーが無駄のない動作で、ハディスに紙切れを一枚、差し出した。

――竜妃の身柄は預かった。無事返してほしくば、竜帝は女神クレイトスに従え。

弟と妹がここにいなくてよかったかもしれない、と思った。怖がらせてしまう。ラーヴェが顔をしかめて肩の上に戻ってきた。

「うっわあ、またろくでもねーこと考えてんな、お前……」

そんなことはない。これはやっとつかめた尻尾だ。

ローがジルとはぐれてから、まだ時間はそうたっていないはずだ。なのに、ほとんど同時進行で誘拐犯は帝城に知らせを持ちこめた――つまりジルの誘拐犯の仲間は、既に帝城に入りこんでいる。

これだけの短時間で連絡をやり取りする手段、しかもこんな帝城の奧に持ちこむ方法、様々な可能性から推測を弾き出し、ハディスは笑う。特に面白いのはここだ。

(女神に従えだと?)

クレイトスに疑いを向けるためだろう。深い意味はない――だが、いい度胸だ。

ハディスの笑顔に何かを悟ったのか、ラーヴェは嘆息して体の裡に入っていった。

「城内に何か異変はあった?」

「あ、ありません。こちらは帝国兵と一緒に発見したのですが、竜妃殿下が囚われたなどと、冗談だとしか思われていないようで」

「まあ、相手にされないね、普通。竜妃が人質になっただなんて」

「で、ですが、竜妃殿下はまだ私より年下のお方です。判断を誤ることもあるでしょう。何より今回の会談、クレイトスが卑劣な罠を仕掛けてくる可能性も高いです。事実確認のためにも、まず捜索隊を派遣すべきではないでしょうか」

「へ、陛下ーーーーーーーーーーーーーーーー!」

いちいちごもっともなご高説を聞き流していた耳に、野太い声が割りこんできた。右腕を失っても土煙を立てる勢いで走ってきたのは、軍務卿を務めるサウスだ。

「き、聞きました。竜妃殿下が会談に向かうと見せかけて、実は陛下に怒って家出してしまわれたのだと!」

「は?」

「いったい何をされたのですか、陛下。教えてください。帝国軍一丸となり、竜妃殿下を捜してお詫びします! 竜妃殿下には必ずお戻り頂きますので、心当たりだけでも……!」

「……どうしてそうなった」

まばたいたサウスが我に返ったのか、背筋を正して報告を始める。

「先ほど、城内に竜妃殿下を誘拐したような怪文書が出回り話題になっていたところ、ルティーヤ殿下が竜妃殿下の行方不明は本当だとおっしゃって。ついに愛想を尽かされたのだと……」

あのクソガキ、さっきの意趣返しか。

こめかみに血管を浮かべたハディスの中で、ラーヴェがげらげら笑っている。

「ひょっとして、デマでしょうか」

「お前らから見て僕はそんなにジルに見捨てられそうか」

「いいえ、竜妃殿下は寛大な御方です。ただ、陛下が予想の斜めを常にいかれるので、愛想を尽かされる可能性は常に低くないと分析いたしました」

真顔で答えられ、一度ハディスは目を閉じて、笑顔を作り直した。

「そっかあ。うんじゃあまあ、もうそれでいいんじゃないかな……?」

(あ、やべ。キレた。おいおい、嬢ちゃんが今更お前を捨てるわけないだろって)

散々笑っておいてラーヴェがそんなことを言い出すが、もう遅い。

「僕はジルに見捨てられちゃったんだよ。そう、ジルはね、ジェラルド王子をさがしてね、いなくなっちゃったんだよ……これって浮気じゃないかなあ……」

思い出したら辻褄があう気がしたから不思議だ。

「ジェラルド王子? ならば竜妃殿下は竜帝陛下のために捜索を開始されたのですね、それで連絡が取れなくなったのでしょうか。ああ、なら安心いたしま――」

「僕は頼んでないなあ! だからジルはさがさなくていいよ」

「え!?」

仰天したミレーを無視して、サウスに命じる。

「兄上を呼べ。レールザッツへ向かう」

異論を唱えかけていたミレーもサウスと一緒に口を閉ざした。忘れずに、ハディスはミレーにも振り返る。

「ミレー。君にもついてきてもらうよ」

「そ、それはもちろん、おともいたしますが……竜妃殿下は本当にこのままでいいのですか」

「そんなに竜妃を頼られても困るな」

「え? どういう……」

戸惑うミレーの手を取り、できるだけ優しく微笑んでみせる。

「今は僕の皇妃候補として、会談を成功させることを考えてほしい」

今度こそ、ミレーもサウスも声を失ったようだった。

ラーヴェだけがひとり、呆れた声でぼやく。

(お前はよくもまあ、毎回毎回嬢ちゃんに怒られる策を考えつくな……)

知ったことか。自分に群がる女共に、勝手に潰し合ってもらうだけだ。自己防衛だ。

ハディスは行儀悪くケーキを素手で取り、ひとくちで食べる。親指に残ったクリームは、ぺろりと綺麗に舐め取った。