軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロンリータートル

静岡ダンジョン第六階層

見渡す限り続く青々とした草原には、東京ダンジョンの第六階層とはまた異なる静寂が漂っている。ここで悠太の標的となるのは、この階層に棲息している『ロンリータートル』だ。

その名の通り、彼らは決して群れを作らない。常に一匹で広大なフィールドを彷徨う孤高の存在だ。体長は二メートルを超え、重戦車のような威圧感を放っているが、最大の特徴はその鈍重そうな外見に反したスピードにある。

亀という先入観を持って挑む新米探索者は、まず間違いなくその脚力に度肝を抜かれる。

一度加速がつけば、大型犬を上回るほどのスピードで標的を追尾し、その巨体から繰り出される突進は岩をも粉砕する。おまけに、他者に干渉されることを極端に嫌う排他的な性質を持ち、視界に動くものが入れば即座に殺戮スイッチが入る凶暴な魔物だった。

だが、悠太に焦りはない。

事前に資料を読み込み、行動パターンを完璧に把握している彼にとって、この「一対一」が確定している状況は罠の実験場として理想的だった。とても親近感の湧く魔物ではあるが、背に腹は代えられない。

「さて、最新のドローンもあることだし……まずは基本から行こうか」

悠太は上空で静止する五百万に声をかけ、草原の向こう側で悠然と草を食んでいる巨大な影を見つめた。

今回から配信用の撮影時には身バレ防止のため、パーカーのフードをかぶり、百均で買ったハロウィンパーティーのお面で装備以上の完全武装を施して撮影に臨む。

「『落とし穴』設置」

指先から魔素が流れ出し、地面へと吸い込まれていく。

今回、悠太が確認したかったのはスキルの成長だ。卒業後の集中的な訓練を経て、『落とし穴』のスキルレベルは「4」へと到達していた。特筆すべきは、擬態性能が「中」へとランクアップしたこと。

消費魔素量は150。

一般的な罠としてはやや重いコストだが、この

半年間で最大魔素量が2800を超えている現在の悠太にとっては、大して負担のかかる数字ではない。

構築された落とし穴の表面を注視してみると、以前であれば水たまりのような擬態が施されていた地面は風に揺れる草の動きさえも周囲と完全に同調している。

仕掛けた本人ですら、正確な位置を魔素の繋がりで感知していなければ見失いそうなほどだ。

「よし、擬態はバッチリ。あとは呼ぶだけだな」

悠太は足元に転がっていた手頃な石を拾い上げると、無造作にロンリータートルへと投げつけた。

カツンッ! と甲羅に石が当たる。

その瞬間、草原の空気が一変した。

ロンリータートルが首をもたげ、血走った眼で悠太を射抜く。自分の領域を汚されたことへの底冷えするような怒り。亀の口から「ギギィィ!」と鋭い威嚇音が漏れた。

ドォォン!と音がしそうなほど重戦車が急発進したかのような爆発的な踏み込み。

ロンリータートルは短い四肢を猛烈な速さで回転させ、草原を真っ向から突き進んでくる。その速度はまさに、初めて見る者なら回避を諦めるほどの突進力だった。

「おっ、速い速い。でも、計算済みだもんね。もう少し右か」

悠太は右に一歩だけ立ち位置をずらし、突進の軌道上を見つめる。

猛スピードで距離を詰めるロンリータートル。その前足が、何もないはずの地面を捉えた、と思った次の瞬間。

シュイン!

草原に巨大な穴が口を開け、ロンリータートルの巨体が慣性を維持したまま前方へのめり込むようにズッポリと吸い込まれた。

「擬態性能『中』、大成功だな。あの速度で突っ込んできたってのもあるけど、直前まで気づかないなんて」

落とし穴の性能アップとロンリータートルの周りが見えなくなる性格がマッチした結果、その巨体はものの見事に穴の底へと沈み、ほどなくして気配が消えた。

悠太が穴のあった地点を覗き込むと、そこには大きめの魔石が一つ、ポツンと転がっている。

ドローンもその光景を逃さず、最適なアングルから記録していたはず。

一見して何もない場所で、敵が忽然と消える。

映像で見れば、それは魔法や剣戟よりも遥かに不気味で圧倒的なまでの完封のではなかろうか。

「悪くない。これなら、効率よく回れそうだな」

悠太は満足げに頷くと、新たな魔石を拾い上げ次の獲物へと意識を向けるのだった。