軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドローン

静岡ダンジョンの入口を通過すると、そこには東京ダンジョンでも見慣れた光景が広がっている。

広大な一階ロビーには入出場者の管理や各所への報告を行う受付、各階層へ瞬時に移動できる転送装置、そして探索者たちが装備を整えたり談笑したりする広場がある。研究所こそ併設されていないが、小規模ながら充実したショップがあり、消耗品の補充や簡単な修理ならここで十分に事が足りた。

「やっぱり、どこも受付は美人さんばっかりだよなぁ」

悠太は感心したように、受付に並ぶ数人の女性スタッフに目を向けた。清潔感のある制服に身を包み、柔和な笑みを絶やさない彼女たちは殺伐とした探索の世界における一服の清涼剤だ。

今まであまり気にしていなかったが、こういう場所にはやはり意図的に美人が配置されるものなのかと一人納得していた。

静岡に拠点を移してから、悠太はすでに何度もこのダンジョンに足を運んでいる。

全十階層で構成される静岡ダンジョンは、各階層の広さも魔物の強さも東京と大差ない。決定的に違うのはその密度だった。

探索者の数は東京の十分の一程度。ゆったりとした時間が流れており、奪い合うように魔物を狩る殺伐とした雰囲気はない。しかし、魔物の出現数も低いため、効率よく稼ぐには索敵に時間がかかるのが難点でもあった。

第一階層から第五階層まではあまり手応えがなく早々に探索を終え、悠太はすでに主戦場である第六階層の草原地帯に立っていた。今日は魔物を狩る前に、どうしても確認しておかなければならない『相棒』がいる。

「よし……出すか。絶対に壊せないぞ、これは」

悠太はバックパックから、宝石でも扱うかのような手つきで黒い流線型の機体を取り出した。東京のショップ店員である瀬戸から、卒業祝いと宣伝を兼ねて半ば強引に貸してもらった最新鋭の自律型探索ドローンだ。

価格は悠太の貯金を軽く吹き飛ばす五百万。

探索者協会の公式ホームページにも明記されている通り、探索中は常時録画が推奨されている。ダンジョン内は警察の目が行き届かない治外法権。犯罪や不正が後を絶たず社会問題となっている。

静岡ダンジョンは東京と比べて人目が少ないため、よりその重要性は高まる。

駆け出しの頃はドローンを購入する資金がないためスマホなどで撮影する探索者も多いが、常時自動録画、自動保存してくれるドローンは探索者の憧れであった。

悠太のドローンは最新の自動運転機能を搭載しており、コントローラーによる操作すら必要ない。音声指示が可能で、高度なAIが探索者の指示や周囲の状況を学習し、最適なアングルを自ら判断して撮影し続ける。まさにダンチューバーにとって垂涎の逸品だった。

(推奨されてる割にあんまり使ってる人は見ないけど、ドライブレコーダーみたいなもんか。せっかく貸してもらえたしね。…でも、墜落させたら借金生活だな)

悠太はゴクリと唾を飲み込み、緊張で湿った指先で起動スイッチを入れた。

「ホバリング開始」

悠太が声をかけると、ブーンという精密機械特有の滑らかな駆動音と共に、六つのプロペラが回転を始めた。ドローンは悠太の目線の高さまでふわりと浮上し、まるで見えない柱に固定されたかのようにピタリと制止する。

「録画のテストをする。俺の周囲を旋回して、最後に正面で止まってくれ」

悠太の指示を聞き取ると、ドローンのレンズが青く明滅した。

機体は一切のブレもなく、悠太を中心とした完璧な円を描きながら旋回を始める。その動きには瀬戸から聞いていた通り『学習型AI』の片鱗が見えた。悠太の視線の動きや体の向きを検知し、被写体を常に適切な位置へ捉えようとしているようだ。

「……すごいなぁ。本当に、ただ浮いてるだけじゃないんだ」

数分間の旋回と撮影を終え、ドローンは悠太の正面で静かに待機した。

悠太はタブレットを取り出し、Wi-Fi経由で送られてきたテスト映像を確認する。そこには、初夏の陽光に照らされたような美しい景色と、高級機ならではの圧倒的な解像度で映し出された、少し強張った表情の自分が記録されていた。

「映像、音声、共に問題なし。……よし。ひとまずは動いてくれて安心っと」

悠太は安堵のため息をつき、空中で静止する五百万を緊張した面持ちで見つめながら、着陸を指示する。

新たな目となるこの小さな翼は富士の麓で静かに、確かな知性を持って羽ばたき始めた。

「頼むぞ、相棒。壁とか天井とかに気をつけるんだぞ。あと着陸も慎重に。水たまりの上とかはダメだからね」

悠太の切実な願いを理解してか、ドローンのレンズが一度だけ、瞬きするように点滅した。