作品タイトル不明
ガルーダ戦①
巨大な石扉を押し開けたその先は、周囲を岩肌に囲まれたドーム状の巨大な空間だった。
天井は優に五十メートルはあり、ダンジョンの中にいることを忘れさせるほどの開放感と、それ以上に逃げ場のない圧迫感が同居している。
上空を見上げると、そこには空間の支配者がいた。
体長およそ三メートル。黄金の翼を優雅にはためかせ、悠然と円を描いて飛んでいる。
鷹のような鋭い頭部。
全身は輝く羽根で覆われているが、その体つきは驚くほど人間に近い。遠目からでも、無駄な脂肪を一切削ぎ落とした鋼のような筋肉が全身に張り付いているのが分かった。
「また来たのか。少しはマシになったんだろうな? この前は何もできずに死にかけていたからな」
頭上から鼓膜を直接揺さぶるような冷徹な声が降ってきた。ガルーダは翼を止め、滞空したままクククッと喉を鳴らして見下すように笑う。
「うるせえ! 今日こそはその自慢の羽根を全部むしり取ってやる!」
大輝が声を荒らげて反論するが、ガルーダはどこ吹く風で黄金の双眸を細めた。
「相変わらず威勢だけはいいな。帰還石はしっかり握りしめておけよ。命拾いできるのは一度きりだがな」
「悠太くん、気をつけて」
如月が隣で顔を近づけ、低く構えながら囁いた。
「あいつの空中での動きは私の『空間把握』でも追いきれなくなるほど速い。前回、私達の攻撃はほとんど掠りもしなかった」
「……ああ、わかってる。みんな、魔素量は大丈夫か?」
悠太は事前に聞いていた四人の数値を頭の中で思い出す。大輝、剛田、佐々木の三人はすでに1700を超え、如月に至っては二千の大台に迫る1900台。対する悠太は、この三週間で必死に底上げしたものの、ようやく1400を超えた程度だ。
(やっぱり、俺がここに来るのはちょっと早すぎたんじゃないか?)
圧倒的な格上の気配に足がすくみそうになるが、それを悟られないよう悠太は静かに一歩前に出た。
「俺が罠を完成させるまで時間を稼いでほしい。すでに構築を開始してるけど、完了まで二分かかる」
「へっ、分かってる。それくらい俺の後ろにいれば、あっという間だぜ!」
剛田が不敵に笑い、巨大な盾を構え直した。
「甘露寺くん、無理だけはしないで。私たちが必ず攻撃を防ぐから」
佐々木も杖を握る手に力を込める。
ガルーダは悠然と旋回を止め、羽音一つ立てずに地上へと降り立った。着地と同時に巨大な翼を背後へたたみ、余裕を見せるように両腕を広げる。
「さぁ、準備はいいかい? 君たちの『努力』とやらを見せてくれよ」
挑発的な言葉に、大輝の顔から血の気が引くほどの緊張が走る。だが、その瞳に迷いはない。
「まずは俺が斬り込む! 全員、援護を頼むぞ!」
大輝が仲間に、そして自分自身に言い聞かせるように剣を握り直す。
「任せて。私の氷魔法で、あの翼を鈍らせてあげるわ」
佐々木の声が合図となった。
「おおおおおっ!」
大輝が爆発的な踏み込みで地面を蹴り、黄金の怪鳥を目掛けて弾丸のように飛び出した。
一気に間合いを詰め、渾身の一撃をガルーダの首筋へと叩きつける――はずだった。
「遅いよ」
冷ややかな声が耳元で聞こえたかと思うと、ガルーダの姿が掻き消える。
大輝の剣は空を裂き、勢い余って地面を激しく叩く。次の瞬間、ガルーダは大輝の真横に音もなく出現していた。
「ちっ!?」
大輝が驚愕に目を見開く暇もなく、黄金の鉤爪が鎌のように振るわれる。
ガキィィィン! と、火花を散らして衝突音が響く。間一髪、剣を盾にして防いだが、その衝撃だけで身体が数メートル後方へと弾き飛ばされた。
「くそっ、腕が!」
剣を握る手が痺れ、大輝の表情が苦渋に歪む。
「どうした? 僕の苦手な地上戦ですらこの程度じゃ、話にならないね」
ガルーダは一歩も動かず、翼を微かに震わせるだけで再び姿を消す。
現れたのは大輝の背後。
「くらえ!」
大輝は無理やり身体を捻り、半ば強引に『一閃』を放つが、ガルーダはそれを舞うような身のこなしでかわし、その鋭い爪で彼の脇腹を浅く切り裂いた。
「がぁっ……!」
鮮血が草原に飛び散る。
「大輝!」
剛田が叫び、援護のために地を蹴る。
探索者学校のトップパーティーと、一人の罠使い。彼らの意地と生存を懸けた攻略戦は鮮血と共にその火蓋を切った。