作品タイトル不明
ガルーダ戦②
「大輝、動くな!」
剛田が盾を構えながら地を這うような足取りで大輝の元へと駆け寄り、懐から取り出した治療薬を傷口へと振りかけた。
その間にも、黄金の怪鳥は退屈そうに喉を鳴らし、再び上空へと舞い上がる。
さきほどと同じくらいの高さまで上昇したガルーダはピタリとその場に静止し、空中で両翼を胸の前で交差させた。
剛田の背筋に凍り付くような戦慄が走った。
「来るぞ! 全員、俺の後ろに隠れろ!」
前回の完敗がフラッシュバックする。
あの時、自分たちの身体を無残に貫いた回避不能の「死の豪羽」。
剛田は大輝の襟首を掴み、半ば引きずりながら如月たちの元へ戻ると、スキルを発動させた。
「ワイドシールド!」
剛田が構えた大盾から魔素の膜が半透明の壁となって扇状に広がり、五人の前面を完全に覆い尽くす。
その直後、ガルーダが両翼を力強く開いた。
放たれたのは黄金に輝く無数の羽根の礫。
シュパパパン! と空気を切り裂く音がドーム内に反響し、激しい火花と共に盾の表面を叩く。
だが、剛田の物理防御の底上げとスキルの相乗効果により、鋼鉄をも容易く貫くはずの羽根はすべて弾かれ、内側にいた悠太たちには一本の掠り傷さえ負わせることはなかった。
「ふん! 鉄クズが少しは硬くなったようだな」
ガルーダが苛立った表情を浮かべ、滞空姿勢を崩す。そのわずかな隙をつき、治療薬によって脇腹の傷を強引に塞いだ大輝が弾かれたように地面を蹴った。
「ナメんな、この鳥野郎! 『跳躍』!!」
大輝の足元で魔素が爆発し、その身体を砲弾のように真上へと打ち上げる。空中で身体を捻り、ガルーダの死角である背後へと回り込む大輝。
「死ねぇ! 『一閃』!!」
全神経を注いだ最速の斬撃。
だが、ガルーダは首を異様な角度で曲げて背後を確認すると、空中で羽根を器用に羽ばたかせ、大輝の剣筋から滑るように逃れた。
「空中で僕に挑むなんて、滑稽だね」
ガルーダが不気味な笑みを浮かべる。
攻撃を外し、重力に従って落下する大輝は空中で身動きの取れないただの標的に過ぎなくなっていた。ガルーダはその喉を切り裂こうと、弾丸のような速度で降下する大輝への追撃に移った。
「終わりだよ、剣士くん」
黄金の爪が大輝の喉元に迫る。
だが、その殺意は間一髪で遮られた。
「させないよ!」
佐々木の鋭い声と共に、極寒の魔素で形成された氷の槍がガルーダの進路を阻むように飛来する。
「こっちもね」
同時に、如月が放った不可視の打撃がガルーダの翼を強かに打ち据えた。
「ぐっ……! チョロチョロと……!」
体勢を崩したガルーダは、舌打ちしながら再度の急上昇を余儀なくされた。その隙に大輝は無事着地し、剛田の背後へと転がり込んだ。
「みんな、すまない。油断した」
「次の課題が見つかったな」
剛田が少し笑みを浮かべながら、上空を見上げたまま冗談っぽく言い放った。
そんな攻防の中、悠太は脳内でひたすら演算を繰り返していた。
(ガルーダに対する『落とし穴』の魔素消費量は1000。発動すれば俺の全魔素の大半が消えるうえ、空を飛ぶあいつに落とし穴など意味をなさない)
悠太が選んだのは罠の同時展開だった。
現在『ウッルの目』は八倍出力で構築中。
消費魔素は最大量の半分近くに達している。
ジャイアントウルフを葬った火力の二倍。中途半端な攻撃が通じないのは先ほどの大輝の攻撃を見れば明らかだった。当てるなら、一撃で肉を削ぎ、骨を断つ威力が必要だ。
さらに、悠太の手元からはもう一つの術式がすでに空へと伸びていた。
(『キューブ』設置。魔素消費250。位置は遥か上空)
ここは大輝の『跳躍』でも届かないガルーダの聖域。悠太の残存魔素はすでに底が見え始めているが、持てる全てを出し切ると最初から決めていた。
「残り二十秒!」
悠太の鋭い声が激戦のドーム内に響き渡る。
「了解! あと二十秒、死ぬ気で守り抜くわ!」
如月が短刀を青白く輝かせ、ガルーダを強く睨みつける。
一人の罠使いが仕掛けた空の陥穽。
持てる力の全てを懸けた博打が始まろうとしていた。