作品タイトル不明
勧誘
第五階層のフロアキーパー『ジャイアントウルフ』を撃破し、地上へと戻った悠太はそのままダンジョン受付へと向かった。窓口に差し出したのは、通常のグレーウルフのものとは比較にならないほど巨大で深い輝きを放つ魔石だ。
「これはジャイアントウルフの魔石ですね。確認いたしました」
受付の女性が淡々と処理を進めていたが、鑑定結果が出た瞬間にその手が止まった。彼女は驚いたように悠太の顔を凝視する。
「失礼ですが……パーティーの方々は? お一人で戦われたのですか?」
「はい。一人です」
悠太が少し気恥ずかしそうに答えると、受付嬢は信じられないといった様子で、感嘆の息を漏らした。
「覚醒してまだ数ヶ月なのにソロで第五階層のボスを……素晴らしい戦果ですね! 買い取り価格は十万円になります」
提示された金額に今度は悠太が目を見開く。一度の戦闘で十万円。まさに思わぬ臨時収入だ。
当初はこの金で装備を新調しようかとも考えたが、ふと、数日前にリビングで聞いた母親の言葉が脳裏をよぎった。
『結衣の受験費用、冬期講習に願書代に……結構かかるわね。やっぱり内職をもっと増やさないと』
いつも明るい母が通帳を前に少しだけ眉を下げていた姿。
悠太は手渡された現金入りの封筒を大切に懐へと仕舞い込んだ。
「ただいま」
結衣の出迎えを受けながら、悠太はリビングへ向かい、キッチンで夕飯の支度をしていた母の元へ歩み寄った。
「母さん、これ。今日、ダンジョンでちょっと臨時収入が入ったから」
差し出された封筒の中身を確認した母は「えっ、十万円!? こんなにどうしたの?」と絶句した。
「え! すごい! スライム何体倒したの?!」
結衣が身を乗り出しながら封筒を覗き込む。
「俺もこの家の一員だからさ。結衣のために使ってよ」
「ありがとう、悠太。本当に助かるわ!」
母の晴れやかな笑顔と、横で「お兄ちゃん、かっこいい!」とはしゃぐ結衣の姿。それだけで、あの死闘の疲れは完全に吹き飛んだ。
心置きなく温かい夕飯を楽しみ、風呂を済ませた悠太は自分の部屋に戻ってベッドに身を投げ出した。
だが、静寂が訪れると同時に、新たな不安が脳裏をよぎる。
(次はいよいよ、第六階層)
そこには、あの如月のパーティーですら一蹴された怪鳥『ガルーダ』が待ち構えている。
探索者学校トップの実力者たちが束になっても勝てなかった相手に、自分一人で、あの罠スキルだけで、どうやったらそんな化け物に太刀打ちできるというのか。
天井を見つめシミュレーションを繰り返そうとした、その時、スマートフォンの通知音が鳴った。
画面を見ると、SNSに一通のダイレクトメッセージが届いている。送り主は如月凛だった。
『夜遅くにゴメンね。少し相談したいことがあるんだけど、今度会ってもらえないかな?』
如月からの個人的な連絡。悠太は驚きつつも、帰還石の代金をまだ返せていないことを思い出し、すぐに『了解。いつでも大丈夫だよ』と返信を送った。
◇
翌日。
第五階層で午前中の狩りを早めに切り上げた悠太は、東京ダンジョンの入り口近くにある落ち着いた雰囲気のカフェへと向かった。
ランチタイムを少し過ぎた店内。窓際の席にはすでに如月の姿があった。
制服の上に薄手のコートを羽織り、少しだけ物憂げな表情でカップを見つめていた彼女は悠太に気づくと小さく手を挙げた。
「急に呼び出してごめんなさい、甘露寺くん」
「いや、全然構わないよ。それより、怪我の具合はどう?」
「うん、もうすっかり良くなった。大輝くんたちも驚くほど回復が早くて、もういつでも探索を再開できる状態だって」
如月は少しだけ表情を和らげたが、すぐに真剣な眼差しに戻った。悠太は懐から封筒を取り出し、テーブルに置く。
「これ、この間の帰還石の代金。遅くなってごめん」
「別によかったのに。ありがとう、受け取っておくね」
そして、如月は封筒を鞄にしまうと、居住まいを正して本題を切り出した。
「甘露寺くん。単刀直入に言うね。……今回だけでもいいから、私たちのパーティーに参加してほしいの」
悠太はその言葉に驚き目を丸くする。
「え……? でも、大輝たちが復帰したなら、いつものメンバーで……」
「うん。ただ、いつもの四人だけでは、あのガルーダに勝てないことが分かった。私たちには決定的に空を飛ぶ敵への対策が足りないの。……この前の探索で、あなたの罠の可能性をこの目で見させてもらった。その独特なスキルが攻略の鍵になると思って」
如月の真剣な眼差しが悠太の心の奥にある不安と、それを上回る好奇心を見透かすように射抜いた。
「お願い、甘露寺くん。あなたの力を貸してくれないかな?」
学校トップのパーティーへの臨時加入。それは悠太にとって、未知なる第六階層への最も確実な招待状でもあった。