軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝利の行方

落とし穴から這い上がったジャイアントウルフは全身を泥と疲労にまみれさせ、肩で大きく息をしていた。その金色の瞳には、先ほどまでの余裕はなく、明確な殺意と不可解な罠への警戒が宿っている。

キューブによる拘束と落とし穴への落下。

物理的なダメージこそないが、四メートルを超える巨躯を強引に支え、這い上がった代償は小さくなかった。ボスの体力は確実に、決して無視できないほどに削られている。

(消耗してるな。動きが明らかに鈍くなった)

悠太は柱の陰から静かに、だが確実な足取りでウルフの目につく場所へと移動した。

「こっちだ」

その声に反応し、ウルフが悠太を視認した瞬間、広場を支配する視線が一斉に牙を剥いた。

出力四倍の無音の銃撃。

一点突破の火力を込めた不可視の弾丸が空気を切り裂く。

そして、意表を突かれたウルフの無防備な後ろ足に初弾が命中。

「グオォォォォッ!」

鋼のような筋肉を凄まじい衝撃が撃ち抜く。巨狼が苦悶のうめき声を上げ、その巨体がわずかに傾いた。

(四倍なら通じる!)

ジャイアントウルフは先ほどと同じく身をかがめ、毛を逆立てて防御態勢をとった。二倍の銃弾を弾ききった、あの鉄壁な防御。

しかし、通常出力の四倍に跳ね上がった今回の銃撃はその鋼の毛皮すらも容赦なく粉砕した。

ヒュン! ヒュン!と空気を切り裂く小気味よい音が、無音の銃撃の代わりに広場に響く。

逆立った毛が吹き飛び、その下の皮膚が裂け、鮮血が滲み出した。一発、また一発と着実にダメージが蓄積していく。

「ガフッ!! ガルァァァ!」

堪りかねたウルフはフロアを駆け回り、移動しては顔を伏せ、地面に這いつくばるようにして銃撃に耐える。

数秒の沈黙。

終わったかとウルフがゆっくり顔を上げた瞬間、悠太が視界に入るよう再び姿を現し、ウルフの瞳と視線が交差する。

そして、フロアには再び無慈悲な銃撃の雨が降り注ぐ。

それは、ジャイアントウルフにとって地獄の四分間となった。

逃げようとすれば、先回りされた悠太に阻まれ「目」から撃たれる。隠れようとしても、悠太が視界にカットインし、銃撃を誘発させる。回避不能、防御不能。ただ一方的に、見えない弾丸に削られ続けるだけの時間。

やがて、『ウッルの目』の発動時間が終了した。

魔素の瞳が霧散し、広場に静寂が戻る。

そこに立っていたのは、血だらけになり、全身から力が抜け落ちたジャイアントウルフだった。鋼のようだった毛並みは赤黒く染まり、四肢は小刻みに震えている。立っているのがやっと、というより、強靭な精神力だけで、その巨体を辛うじて支えている状態だった。

それでもなお、ジャイアントウルフは第五階層の王としての誇りを捨てていなかった。

光を失いかけた金色の瞳で悠太を睨みつけ、足を引きずり、一歩、また一歩と、執念だけで迫ってくる。

悠太は、帰還石を握りしめていた手を静かに解いた。

その目は、迫りくる怪物への恐怖ではなく、敬意に満ちていた。

「強かった。本当に、強かったよ。ありがとう、すぐ楽にしてやる」

残った魔素を振り絞り、ジャイアントウルフに向けられた悠太の手が最後の設計図を描く。

「キューブ」

数秒後。

キン!と、見た目にそぐわない控えめな音が響き、ゆっくり歩を進めていたジャイアントウルフの巨躯が静かに半透明の立方体に覆われた。

かつては一瞬で砕かれた脆弱な罠。

だが今のウルフには、その壁を傷つける力すら残されていなかった。

巨狼は暴れることも、唸ることもなく、ただ静かにキューブの向こう側から悠太を見つめている。

その瞳には、敗北への無念ではなく、死を受け入れたような、静かな光が宿っているように見えた。

半透明な立方体が徐々に内側へと縮小していく。

ジャイアントウルフの巨体は抵抗することなく、キューブとともに光の粒子となって霧散していった。

広大なボス部屋に残されたのは、勝者と床に転がった一つの巨大な魔石だけ。

「はぁ、勝った……」

悠太はその場に膝から崩れ落ち、震える手で魔石を拾い上げた。

初めてのボス戦。死線を超えた果てに掴み取った、確かな勝利の味。

薄暗い広場の中で悠太は一人、自らの勝利を噛みしめていた。