軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二回目の狙撃

広場に漂う絶望的な静寂を、ジャイアントウルフの低い唸り声が切り裂いた。

一番の切り札であった『ウッルの目』を無傷で耐えきられた衝撃は、悠太の心を激しく揺さぶる。

しかし、震える指先が握りしめている帰還石の感触が辛うじて彼を現実に繋ぎ止めていた。

(まだだ。魔素の残りは約半分。勝機があるとすれば、今の自分にはやはり『ウッルの目』しかない。二倍でも通用しないなら、三倍……いや、四倍だ!)

ボスの防御力を貫通する一点突破の火力。それを作り出すための魔素は、まだ残っている。悠太は決意を固め、再び不可視の設計図を広げた。構築時間は2分。この命懸けの2分間を凌ぎきれば、次こそ王の喉笛に届くはず。

帰還石の使い方は嫌というほど調べてきた。行きたい場所を思い浮かべて石を割るだけ。

武器も持たない悠太が、最初から最後まで石を握りしめているのは逃げるためだけじゃない。体が動かなくなるギリギリまで戦い続けるためでもあった。

悠太は最後の保険、事前に設置しておいた『キューブ』のポイントへとウルフを誘導する。そのキューブの真下には、さらに『落とし穴』を重ねて配置してある。

「こっちだ!」

悠太は広場の一角にある、一見ただの「水たまり」に見える落とし穴の向こう側に立ち、巨狼を激しく挑発した。ウルフは低い咆哮とともに地を蹴る。奴は狡猾だ。足元の不自然な水たまりを本能で察知し、それを避けるように大きく跳躍した。

(予想通りの動きだ)

空中で回避不能となったウルフ。その最高到達点を正確に予測し、空中に配置されていた『キューブ』が起動した。

大きさに似つかわしくない「キン! 」という控えめな音とともに、透明な檻が巨躯を包囲し、空中で固定する。

ウルフは狭い檻の中で狂ったように暴れ回り、鋭い爪で内壁を削り取る。激しい振動が広場に響き、十数秒が経過した頃、ついに限界に達したキューブが粉々に砕け散った。

だが、悠太の狙いはその先にある。

「落ちてくれ!!」

キューブが割れた位置は、落とし穴の真上。重力に従い、巨狼の体が真っすぐに暗黒の穴へと吸い込まれていく。

位置取りは完璧。勝利を確信した悠太だったが、次の瞬間、目を疑った。

「マジかよ……」

穴に呑み込まれる寸前、ジャイアントウルフは前脚を極限まで伸ばし、その鋭い爪を穴の縁に深く突き立てたのだ。四メートルを超える長い脚が、自身の巨体を強引に支える。

「ガァァァァッ!」

信じられないほどの腕力だった。ウルフは半身を穴に沈めながらも、筋肉を爆発させ、這い上がるようにして地上へと戻ってきたのだ。

『落とし穴』の発動条件は全身が穴の中へ沈むこと。

これで全ての罠が使い果たされた。

一度認識された罠を放置しておく意味はない。

発動しなかった『落とし穴』を回収すると、術式が霧散し、一定量の魔素が悠太へと還元された。

「まだ、いける……」

悠太は瞬時に残りの魔素量を確認し、次の設計図を模索する。

すると、視界の端でカウントダウンがゼロになった。

四倍火力の『ウッルの目』完成。

「よし、何とか持ちこたえた」

悠太の周囲に、これまで以上に濃密な魔素の奔流が渦巻く。

『ウッルの目』は完成した。しかし、残された魔素で、さらにいくつもの罠を仕掛ける余裕はない。

お互いふらつきながらも、少年と巨狼は再び正面から対峙する。

罠使いの手札は、もうこの『目』の銃撃くらいしか残っていない。

「さあ、第二ラウンドだ。今度は、その毛皮ごと撃ち抜いてやる」

全ての手札を出し尽くした初のボス戦。

残された数分間の処刑時間が、静かに、そして激しく動き出した。