軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出力二倍

ジャイアントウルフの巨躯が爆発的な勢いで床を蹴った。

地鳴りのような足音が響き、視界のすべてが灰色の影に覆われようとしたその瞬間、床に仕掛けられた魔素の蔦が跳ね上がった。

「いけ!『スネア』」

悠太の声に応えるように、オートアジャスト機能とサイズ調節をフル稼働させた蔦が、巨狼の前脚をガッシリとホールドする。並の魔物ならこのまま引き倒されるところだが、相手はフロアキーパー。

「ガアァァァァッ!」

ウルフが力任せに脚を振り抜く。強靭な筋肉の隆起に合わせて、魔素の蔦がガシャガシャと耳障りな悲鳴を上げた。構築された構造が歪み、火花のような魔素が散る。

(頼む。少しでも長くもってくれ!)

悠太はその隙にシューズの性能をフルに引き出し、横方向へ全速力で駆け抜けた。

予想通り、十秒と持たずにスネアは粉砕されたが、巨狼は一度失った慣性と砂煙のせいで、標的である悠太を一時的に見失った。

しばし鼻を鳴らし、殺気とともに辺りを伺っていたウルフだったが、柱の影に潜んでいた悠太をすぐさま発見する。再び、逃げ場のない突進。悠太は息を乱しながらも、あらかじめ設置しておいた「次の罠」へと誘導する。

バゴン!という凄まじい衝撃音とともに、地面が跳ね上がった。

四メートルを超える巨体が乗ったバネ床が限界までしなり、反発する。

相手の力量が勝り、吹き飛ばすまでには至らなかったものの、跳ね上がった床のプレートが一時的に「壁」として立ちはだかったことで、ウルフの突進を強制的に停止させた。

「はぁ、はぁ……っ!」

悠太は壁の向こう側で息を整え、左右に細かく動きを変える。壁を挟んだ、命懸けのかくれんぼ。

ウルフは苛立ちを露わにし、前脚で壁を叩き壊そうとするが、そのやり取りの最中に視界の端のカウントダウンがゼロを指した。

「完成だ。いけ!『ウッルの目』」

悠太が壁の端からスッと姿を晒した瞬間、広場のあちこちに張り巡らされた「瞳」たちが一斉に見開かれた。

無音の銃撃。

魔素消費160、通常火力の二倍に設定された不可視の弾丸が、四方八方からジャイアントウルフへと殺到する。空気を引き裂く波導の嵐。

しかし、悠太は直後に目にした光景に言葉を失った。

「なっ! えっ!?」

ジャイアントウルフは逃げる素振りすら見せなかった。

巨狼は即座にその場に低くうずくまって体を丸め、鋼のような灰色の毛を全身に逆立てたのだ。それは、毛の一本一本に魔素を巡らせた、物理と魔力の両面に対する絶対防御態勢だった。

シュパパパン! と魔素弾が弾ける音だけが虚しく響く。

二倍に跳ね上げたはずの銃撃は、逆立った硬質の毛に触れた瞬間に霧散し、皮膚に届く前に威力を削がれている。致命傷どころか、有効なダメージすら与えられている実感が湧かない。

『ウッルの目』の発動時間である四分。

その間、ジャイアントウルフは一歩も動かなかった。瞳から放たれる執拗な連射を、ただ静かにじっと耐え続けている。まるで、この嵐に終わりがあることを最初から理解しているかのように。

そして、ついに銃撃の波が止んだ。

魔素の瞳が一つ、また一つと霧に溶けて消え、広場に不気味なほどの静寂が戻る。

沈黙の中、ウルフがゆっくりと、その巨体を持ち上げた。

逆立っていた毛が元のしなやかな毛並みに戻り、そこには傷一つない王の姿があった。

「バケモンかよ…」

一番の切り札。魔素を二倍まで注ぎ込み、レベルアップで強化したはずのスキルが、完全に無効化された。

期待が大きかった分、目の前の現実に悠太の思考が白く染まる。

立ち上がったジャイアントウルフが、低く、深く、地を這うような唸り声を上げた。

それは「遊びは終わりだ」と言わんばかりの、冷徹な殺意。

悠太の背中に、今まで経験したことのないような、ゾクリとした悪寒が走った。

膝が笑い、視界がわずかに震える。

罠使いの最大の武器である計算が、目の前の王によって根底から覆された瞬間だった。