軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グレーウルフ

如月や瀬戸との共同探索を終え、数日が過ぎた。

彼女たちの協力で地形や魔物の習性にはある程度慣れることができたが、いざ一人で草原に立ってみると、そこには以前とは異なる壁が立ちはだかっていた。

(……おかしい。あまりにも確率が悪すぎる)

悠太は背の高い草に身を潜め、前方の獲物をじっと観察していた。

この階層の主、グレーウルフ。しなやかな灰色の毛並みに、野性的な殺気を孕んだ金色の瞳。それは第四階層のオークのような鈍重な怪物ではなく、捕食の効率を極限まで高めた狩人の姿をしていた。

悠太は魔素を練り上げ、一匹のグレーウルフの予測進路に『キューブ』を設置した。

狙い通り、獲物は座標を完璧に踏み抜く。

キン!という乾いた音と共に、透明な立方体がその巨体を完全に飲み込んだ。

檻の中に閉じ込められたグレーウルフは、急な環境変化に驚き暴れ回る。

だが、次の瞬間。

『キューブ』のいたるところに四本の脚と体当たりが繰り返され、内側から一度、鋭い衝撃が走った立方体は、十秒と持たずにパリン!と甲高い音を立てて砕け散る。

「またか!?」

自由になったグレーウルフが、低く唸りながら悠太の潜伏場所へと視線を向ける。悠太は即座に別の地点へ転がり込み、追撃を回避した。

第四階層のオークを相手にしていた時、キューブの成功確率は六割を超えるほど安定していた。巨体で鈍重なオークは、一度閉じ込めてしまえばそのまま圧殺できることが多かったのだ。

だが、この第五階層では成功率三割にも満たない。

「魔素消費は三十……。オークよりも消費が少なくて使いやすいはずなのに、なんでこんなに簡単に壊されるんだ?」

当初はグレーウルフの攻撃力が異常に高いのかと考えていた。しかし、じっくりと観察を続けているうちに、ある奇妙な事実に気づく。

同じような大きさのグレーウルフでも一秒ほどで呆気なく壊される時もあれば、中で散々暴れ回っても捕食できることがある。

(ダメージの蓄積で壊れているんじゃないのか)

悠太は砕け散る魔素の破片を見つめながら、思考を巡らせる。

オークは凄まじいパワーを持っていたが、その動きは遅く、面で圧力をかけるような攻撃だった。対してグレーウルフは、針のように鋭い爪や牙で、あらゆる箇所を執拗に、かつ高速で突き立てる。

(そうか。これ『クラックポイント』があるんじゃないか?)

悠太が導き出した推測はこうだ。

キューブには、ここを攻撃されたら構造が崩壊するという脆弱な点、すなわちツボのようなものがランダムに複数存在している。

スキルの追加効果である『クラック低減』とは、単なる耐久度の上昇ではなく、この弱点の数そのものを減らす効果だったのだ。

「リビングアーマーやオークは、パワーはあっても攻撃回数が少なかったから、偶然弱点を突かれる確率が低かっただけなんだ。牙ネズミは素早かったけど、小さいからキューブの隅々まで攻撃するには至らなかった」

しかし、グレーウルフは違う。

しなやかで体高があり、全身がバネのようなこの魔物は、キューブ内のあらゆる箇所を高速で攻撃し続ける。その結果、目にも止まらぬ速さで偶然「弱点」を突いてしまい、構造を崩壊させているのだ。

「今のままキューブ一本で戦うのは、この階層じゃ効率が悪過ぎるな」

悠太はすぐさま頭を切り替えた。

ギャンブルのような戦い方はソロ探索者の寿命を縮める。悠太は、かつて第二階層で牙ネズミを翻弄するために多用していた「あの戦法」を解禁した。

「構築――『スネア』」

前方から飛びかかってきたグレーウルフに対し、悠太は冷静にスキルを起動した。地面から飛び出した魔素の蔦が、空中の狼の脚に絡みつき、強引に地面へと引きずり落とす。

「キャンッ!?」

自慢の機動力を封じられ、地面でたじろぐグレーウルフ。それを確認したかのように、足元の地面が無慈悲に口を開ける。

「落とし穴」の消費魔素は60。スネアと合わせればそれなりの負担にはなるが、確実に仕留めるための必要経費だ。奈落へと吸い込まれたグレーウルフは、今度は抵抗の余地もなく消滅していった。

悠太は地面に落ちた魔石を拾い上げる。

グレーウルフの魔石は個体の大きさに応じて二千円から三千円。

オークの魔石の売値も同じ程度だったが、決定的な違いはその遭遇率。オークは単独行動なので一匹見つけるのに多少時間がかかったが、グレーウルフは草原の至る所に群れて潜んでいる。

「よし、これでいこう。単価が同じなら、数をこなせるこっちの方が効率はいい」

悠太は財布の紐と、自らの設計図を改めて引き締める。

三十万円の帰還石という大きな出費が控えている今、一円でも多く、一秒でも確実に稼がなければならない。

悠太は草原を吹き抜ける風の音に耳を澄ませ、次なる獲物へと静かに狙いを定めた。