軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤独な進入試験①

第四階層の最奥。

地衣類の淡い光が途絶え、人工的なLEDの冷たい光が通路を照らし始めた。その先にそびえ立つのは、重厚なクロムシルバーの鉄扉。

悠太はその扉の前で立ち止まり、肺の奥まで冷たい空気を吸い込んだ。

心臓の鼓動が、かつてないほど速く、力強く胸を叩いている。

(この先には間違いなく覚醒してから最大の試練が待っている)

大輝たちが誇らしげに語っていた進入試験。パーティーでの突破が推奨されるその門を、悠太は独りで潜り抜けようとしていた。

ゆっくりと手をかけ、扉を押し開ける。

機械的な駆動音と共に開かれた空間は、体育館のような広さを持ち、中央ではドロリとした粘土状の液体がうごめいていた。それは生き物のように形を変え、みるみるうちに四体の人型――赤、青、黄、桃の色を帯びた人形たちが現れる。

「あれ? 今回は一人かな?」

最初に声をかけてきたのはレッドだった。その無機質な頭部が悠太の方を向き、スキャンするような光を放つ。

「魔素量903。まぁ、基準は満たしているけど、一人で挑むにはちょっと厳しいと思うよ。怪我をする前に引き返してもいいんだよ?」

レッドの言葉には、敵意よりも純粋な忠告の響きがあった。それに続くように、他の色たちも口々に気遣うような言葉をかける。

「そうだよ。僕たちは四体一組で試験を行うのが基本だからね。一人だと手数で圧倒されちゃうよ? ターゲットを分散できないのはキツいよ」

「無理は禁物よぉ。君、まだ学生さんでしょう? 夏休みが終わったばかりだし、まだ時間はたっぷりあるんだからぁ」

彼らはダンジョン管理当局が用意した試験体だが、挑戦者の心理的な負荷を減らすためか、妙に人間味のある性格付けがなされていた。悠太は少し戸惑いながらも、ふと気になっていたことを口にした。

「……あの、一つ質問してもいいですか?」

「ん? なにかな、少年」

悠太は人形たちの艶やかな体を見つめ、少し言い淀んでから続けた。

「もしかしたら、その……あなたたちは……消えてしまうかもしれないですけど、大丈夫でしょうか?」

一瞬の静寂が流れる。

真剣な顔で問う悠太に、四体の人形たちは顔を見合わせ、それから一斉に楽しげな笑い声を上げた。

「ははは! 言うねぇ、少年! 僕たちを消すだって? 面白いことを言うな!」

「大丈夫だよ、心配しないで。僕たちは特殊な再生素材でできているんだ。君の攻撃で体がバラバラになったり、跡形もなく弾け飛んでも、焼かれても凍らされても、すぐ元の形に戻るように設計されているからね」

「そうそう。私たちは壊れても元に戻るの。だから、遠慮なんて一切いらないのよ。あなたの持てる力のすべてをぶつけてごらんなさい。それがこの試験のルールなんだから」

「そうですか。それなら安心です。じゃあ、いつも通りやりますね。本当にいいですか?」

イエローが軽快にステップを踏みながら付け加える。

「しつこいなぁ。僕たちを消すなんて、相当な自信家か、それとも何か切り札でもあるのかな? どっちにしても楽しみだよ。あ、ちなみに君のスキルタイプは何?」

「特殊系……罠使いです」

「特殊系かぁ。あー、そういえば前にも空間を操る特殊能力系の子がいたけど、あの子は凄く強かったね。もしかして、君もあの子の仲間かな?」

「仲間ではありませんが、友人だと思います」

如月凛のことだろうと悠太は瞬時に悟った。

彼女達が夏休み最終日に早々とここを突破したという事実が、彼の心に静かな火を灯す。

「そっかぁ。じゃあ、あながちハッタリでもないのかもね。僕たち、特殊なスキルは大歓迎なんだよ」

「シミュレーションは何度もしてきたので、持てる力を全て発揮できるように頑張ります」

悠太がそう告げ、人形たちが定位置へと散らばると、一気に空気が張り詰める。戦闘態勢に入った彼らの瞳が冷徹なセンサーの光を宿す。同時に、天井のスピーカーから無機質な合成音声が響き渡った。

『これより、第五階層進入試験を開始する。戦闘の様子はリアルタイムでモニター監視され、合格基準を満たした場合のみ、奥の隔壁を開放する。なお、試験体には自己再生素材を使用している。全力での攻撃を推奨する』

アナウンスが流れる中、悠太は密かに自身のスキルで人形たちの消費魔素を最終確認した。

罠の有効度と消費魔素の再計算。

(マジか…)

悠太が目を見開く。

一体につき『落とし穴』には魔素250。

『キューブ』の設置には90。

それに対し悠太の最大魔素量は、ようやく900を超えたばかりだ。

オークのおよそ倍という予想以上の数字。四体を相手にするなら、一瞬の無駄も、一つの計算違いも許されない。

(……でも、時間は稼げた)

胸の鼓動がさらに高鳴るが、恐怖はすでに消えていた。

会話をしている間に、悠太の足元からはすでに不可視の糸が伸び、部屋のあちこちに彼ら四人を同時に迎え入れるための準備が整いつつある。

「よし、行こうか少年。僕たちの猛攻、耐えられるかな?」

『試験開始』

無機質な合図が静寂を切り裂いた。

四体の人形は同時に地を蹴り、罠使いという一人の獲物に向かって、目にも止まらぬ速さで牙を剥いた。