作品タイトル不明
孤独な進入試験②
四体の人形は開始の合図と同時に滑らかな動きで二手に分かれた。
彼らの頭脳には過去数千、数万回に及ぶ試験データが蓄積されている。ここに至る探索者が取る最も確率の高い行動は先手必勝の正面突破。彼らはその膨大なデータから瞬間的に最適解を導き出し、挑戦者を効率的に追い詰めるようアルゴリズム化されていた。
「まずは挨拶代わりだ。行くよ、少年!」
レッドとイエローが左右に分かれ、挟撃の形で悠太へと加速する。その速度は牙ネズミの比ではない。だが、悠太は動かなかった。
――ガコンッ!!
凄まじい衝撃音と共に、二人の足元から巨大な『バネ床』が跳ね上がった。しかし、それはただ跳ね飛ばすだけのものではない。魔素を継続的に注ぎ込まれ、物理強度を高められたバネ床は、跳ね上がった姿勢のまま固定され、悠太の左右を遮断する巨大な「鋼鉄の壁」として室内に立ちはだかった。
「えっ!? なにこれ? 床がめくれ上がってるの?」
「土魔法かな? これも罠スキル!?」
跳ね飛ばされたレッドとイエローが体勢を立て直し、困惑の声を上げる。左右を塞がれたことで、四人は悠太を視界に捉え続けるため、前後から回り込む必要に迫られた。
だが、彼らが悠太を視界に収めようと壁の端から顔を出した瞬間――。
――シュパァァァッ!!
「ぐあぁぁっ!?」
「何だ、今度は! どこから?」
蜂の巣にされた四体が、衝撃で壁の裏へと弾き飛ばされた。
これは悠太が今日のために取得し、会話の合間に三分の時間をかけて構築していた新スキル。
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スキル名:『ウッルの目』
設置時間:180秒
発動時間:180秒
消費魔素:80
【効果】術者を視認した対象を無差別に銃撃する迎撃罠。術者の視界ではなく、敵が術者を見たことをトリガーとして発動する。
【制約】術者から半径五十メートル以内に壁などの遮蔽物があること。
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「ふぅ。構築に三分もかかるのが難点だけど、使えるなぁ。覚えるのに四百ポイントも使った甲斐がある」
悠太は壁の内側で静かに息を吐く。
このスキルは遮蔽物がなければ機能しないが、試験場の壁に加え、先ほど自ら作り出したバネ床の壁も、そのままこのスキルの最高の銃座となっていた。
ウッルの目の銃撃には発射音が一切存在しない。
聞こえるのは着弾した瞬間の衝撃音と、その後から遅れて届く「シュン!」という空気を切り裂く鋭い音だけ。不可視の狙撃手に狙われているような恐怖が、試験体である彼らのAIにさえ圧力をかける。
全身を撃ち抜かれた四体は壁の死角に逃げ込んだことで銃撃が止んだ。彼らは慌てて状況を確認し合う。
「他に誰かいるのか!? どんなスキルなんだよ、これっ!」
レッドが状況を確認しようと、壁の端から悠太の方をチラリと見る。その瞬間、再び「シュパッ!」という空気を断つ音と共に、衝撃がレッドの頭部を正確に貫いた。
「彼を見るな! 視界に入れた瞬間に撃たれるぞ!」
レッドが叫びながら、ガニ股で頭を押さえて引っ込むと、隣にいたピンクが壁の異変に気づいた。
「ねえ、見て……あの壁!」
ピンクが指さした先、試験場の壁面には、いつの間にか幾つもの「目」のような紋様が浮かび上がっていた。その瞳は生き物のようにギョロギョロと動き回り、壁の隙間から覗こうとする四体を冷酷に監視している。
「壁にいくつもの目が動いてる。あれが撃ってきてるのね」
「見ると撃たれるから見るななんて……見ないでどうやって攻撃するのよ!」
ピンクの至極真っ当なツッコミが響く。
「地上が無理なら、死角から空中戦だ!」
レッドの指示を受け、ブルーとレッドがイエローの足を支えるように構える。
「行くぞ! 放り投げろ!」
二人の怪力によって、イエローが弾丸のような速さで上空へと射出された。左右のバネ壁を大きく飛び越え、空中から悠太の頭上を取る算段だ。
「見つけたよ、少年! でも見なーい。撃たれちゃうからねぇ。空中なら罠も……」
キン!
悠太の真上にせまったイエローの視界が、急に曇りがかった壁に阻まれた。
そこには、あらかじめ対空用に設置されていた『キューブ』が口を開けて待ち構えていた。
空中へと飛び出したイエローの体が透明な立方体の中に綺麗に収まる。
「しまっ……! で、出れないっ!」
空中に固定された檻の中で、イエローが必死にもがく。
「一人目捕獲」
そして、悠太は冷静に次の設計へと意識を向けた。