軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

進入試験クリア

白い空間に激しい衝撃音と魔素の残光が飛び交う。

四対四の乱戦は、いつしかそれぞれが一体ずつを受け持つ一対一の構図へと自然に変貌していた。

その均衡を最初に破ったのは如月凛だった。

「ちょ、ちょっと! 離してよ!」

ピンクの人形が悲鳴に似た声を上げる。彼女の『見えざる手』は、単なる物理的な圧力ではない。空間そのものを掌握し、逃げ場を奪う絶対的な檻だ。凛は掲げた手を静かに握り込み、ピンクのトリッキーな動きを完全に封じ込めた。

さらに彼女の瞳が冷徹な光を放つ。

『空間把握』

対象の魔素の流れ、密度の偏り、そして再生の起点となっている急所をレントゲン写真のように克明に読み取る。

「……そこね」

凛が指先を弾く。空間を貫く鋭利な一撃――『 虚空穿(こくうせん) 』

ピンクの胸の中央、粘土の深奥に隠されていた核が不可視の衝撃によって鮮やかに抉り取られた。

「あ……あはは、お見事……」

核を失ったピンクの体は、それまでの艶やかな色彩を失い、ドロリとした灰色の粘土へと溶け崩れていった。

凛の勝利が、他の三人の背中を押した。

「如月に遅れるわけにいかねえ!終わりだ、レッド!」

剛田が全身の魔素を盾に注ぎ込み、レッドの剛腕を弾き飛ばす。体勢を崩したレッドの頭上に大輝の大剣が電光石火の速さで振り下ろされた。

「ブルー、お前の動きはもう読み切った!」

大剣の面でブルーを叩き伏せると、ダメージが既定値を超えたブルーの体も溶けて床へと消えていった。

ほぼ同時に、佐々木のエリアからも轟音が響く。

「 氷結葬送(アイスコフィン) 。そこで眠ってなさい」

イエローの全身を巨大な氷柱が貫き、その冷気が内部の魔素循環を完全に凍結させた。

最後の人形が溶けた粘土の塊へと戻った瞬間、部屋の奥にある巨大な隔壁が、重厚な音を立てて左右に開かれた。

「やったか」

大輝が肩で息をしながら、剣を鞘に収める。

剛田は膝を突き、佐々木は杖を支えにようやく立っていた。凛だけは乱れた呼吸を整えながら、開かれた扉の先――未知の第五階層へと続く通路を静かに見つめている。

その頃、試験場の様子は厚い防壁に隔てられた『ダン研』の監視室へと中継されていた。

「全個体、機能停止。合格基準に到達。第五階層へのアクセスを許可しました」

オペレーターの報告を受け、部屋の中央に座る中年の主任研究員が満足げにモニターを見上げた。画面には疲れ果てながらも達成感に満ちた四人の姿が映し出されている。

「覚醒からわずか二、三ヶ月……。驚異的なスピードだ。特に如月凛、彼女の空間干渉の精度はプロの探索者と比較しても遜色ない」

「ええ。何より、四人全員が『単独撃破』の基準を満たしたことが素晴らしいですね」

隣に立つ女性助手が、記録データをめくりながら補足した。

通常、パーティーでこの試験に挑んだ場合、前衛の影に隠れて補助だけに徹した者は合格基準に届かないことも多い。

それはたとえ一人になっても、回避や防御、治癒など何かしら生き残る術を持っているかがジャッジされるからだ。

「必要なのは仲間に頼る連携力だけではない。単独でも生き残れるか、危機的な状況からでも生還できるか、その個としての生存能力も重要だからな」

「今回は剛田くんや佐々木さんも、自分の役割を果たしながら、最後は自力で試験体を破壊する攻撃力を見せました。彼らは名実ともに、第五階層の資格を得たと言えますね」

主任はモニターの中で大輝がガッツポーズをするのを見て、小さく口角を上げた。

「夏休みの宿題としてはこれ以上ない成果だろう。だが、ここから先は『人造の試験場』ではない」

監視室の明かりが落ち、四人のデータが有望株のフォルダへと格納される。

彼らが去った試験場には再び粘土の塊が床下へと収納され、青白い魔素照明だけが静かに通路を照らしていた。

同じ時刻、地上では夕闇が迫り、学生たちの夏休みが静かに幕を閉じようとしていた。

だが、四人にとっての本当の戦いは、開かれた扉の向こう側から始まったばかりだった。

第五階層

そこは、選ばれた者だけが足を踏み入れることを許される魔素の本流地帯。

四人の足音が未知の階層へと力強く響いていった。

この夏、彼らは確かに強くなった。

しかしその成長を、一人の罠使いがどう塗り替えていくのか、この時の彼らはまだ知る由もなかった。

「行こう、みんな」

凛の短い一言に導かれ、四人は光の射す先へと消えていった。