軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キャンプ初日

覚醒者キャンプ初日。

悠太は学校に集まる必要がなく、現地集合であったことに心底ホッとしていた。あの賑やかな教室から大勢で移動するのは今の彼にとって苦痛以外の何物でもなかったからだ。

現在、日本国内で確認されているダンジョンは全部で五つある。

日本最大の地下ダンジョン『東京』、豊かな自然に囲まれた『静岡ダンジョン』、古都の地下に眠る『京都ダンジョン』、日本最南端に位置する『福岡ダンジョン』、そして雪深い奥地に佇む『北海道ダンジョン』。

それぞれのダンジョンは独自の生態系と環境を持ち、いまや日本経済を支える要となっている。

今回のキャンプ地はそのうちの一つ、静岡ダンジョンだ。

芦ノ湖と富士山の間に位置するその場所は、かつては静かな観光地であったが、今や世界中から探索者が集まる最前線へと変貌を遂げていた。

ダンジョンの出現に伴い、周囲には最新設備を備えた研究施設や、探索者向けの専門店、飲食店が乱立し、一種独特の熱気を帯びた賑わいを見せている。

集合場所は湖畔に佇むできたばかりのホテルだった。規模こそ小さいが、内装は非常に美しく清潔感に溢れている。費用は全て学校負担。

それだけ覚醒者達の活躍に学校の威信がかかっていることの現れだろう。

悠太がロビーに足を踏み入れると、すでに到着していた生徒たちの声が響き渡っていた。

「マジで凄かったんだって! 如月が右手をシュッて振った瞬間、あの巨大なバリアントの腕が空間ごと消し飛んだんだぜ!あれは第十階層、いや、第十五階層にいてもおかしくない強さだった」

中心にいたのはやはり松坂大輝だった。

彼は先日、東京駅ダンジョンで遭遇した 変異種(バリアント) との死闘について、まるで自分の手柄であるかのように、かなり誇張しながら身振り手振りで如月の強さ自慢をしていた。

周囲にいる女子生徒や、他クラスからの参加者たちが「えっ、如月さんってそんなに強いの?」「見たかったなぁ」と驚きの声を上げる。

「まあ、如月を最後まで支えたのは俺の剣術と、この二人の粘りがあったからこそだけどな!」

大輝が鼻高々に笑い、周囲の視線を独り占めにする。そのすぐ側で、佐々木と剛田が少し困ったような、しかし充実感の漂う表情で立っていた。彼らはあの死線を潜り抜けたことで、以前よりも一段階上の探索者としての顔つきになっている。

そんな中、少し浮かない表情をしていたのは如月本人だった。

「いや、あれは失敗だったよ。本当はみんなすぐに逃げるべきだった。何とか勝てたから良かったけど、みんな死んでても全然おかしくなかったから」

「ま、まぁ、そうだけどよぉ。こうしてみんな無事だったんだからさ。探索者に危険は付き物だろ?」

「私は反省してる……」

「またまた、大袈裟だなぁ」

そんな会話をしていた時、バックパックを背負った悠太が静かに姿を現した。

「……あ」

大輝の視線が悠太を捉える。

一瞬、いつものように小馬鹿にしたような笑みを浮かべようとした大輝だったが、かつての執拗ないじりを見せることはなかった。

彼は佐々木と剛田に「行こうぜ」と短く声をかけると、悠太の方を見向きもせず、「けっ」とつまらなそうな顔をしてその場を去っていった。

(なんだよ、あいつ)

大輝の行動の変化に悠太は拍子抜けするも、それはそれで彼にとって好都合だった。

(罠使いなんて、いじるにも値しないってことか)

「おはよう、甘露寺くん。無事に着いたのね」

聞き慣れた澄んだ声のほうへ顔を向けると、如月が人混みを割って悠太の方へ駆け寄ってきた。

彼女の姿が見えた瞬間、ロビーの視線が一斉に悠太へと突き刺さる。「誰だあいつ?」「如月さんと知り合いか?」という囁きが聞こえてくるようだ。

「おはよう、如月さん。…あ、あの〜、あんまり目立つようなことはしないでほしいなぁ…」

悠太は周囲の目を気にしながら、小声で挨拶を返す。しかし、凛はそんな悠太の懸念などどこ吹く風で、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「現地集合で正解だったね。学校からの送迎バスもあったけど、結構騒がしかったから……。この後、プロの講師の方が来るみたいだよ。楽しみだね!」

「そうだね。まぁ、俺は適当にやるよ」

悠太が短く答えた、その時だった。

「――よし、全員揃ってるな! 私語は止めだ!」

パンッ、と乾いた柏手の音がロビーに響き渡った。

引率の教師が前方に立ち、浮足立つ生徒たちを制止する。その隣に屈強な体躯をした、ただならぬ威圧感を放つ男女が立っていた。今回のキャンプの講師を務める現役のプロ探索者たちだ。

ホテルの窓から見える芦ノ湖の青い水面とは対照的に、ロビーの空気は一瞬にして張り詰めた。

二泊三日の覚醒者キャンプ。

それは悠太が隠し続けてきた『罠』という設計図が初めて白日の下に晒される場所。

一人は期待に胸を膨らませながら、もう一方は不安に押しつぶされそうになりながら、全く正反対の面持ちで教師達を見つめる二人。

こうして、キャンプはスタートした。