軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特殊系スキルの二人

ホテルのロビーに張り詰めた空気が漂う中、引率の教師がタブレットを片手に、これからのスケジュールを告げた。

「キャンプ初日は時間も限られているので、座学と基礎講習がメインとなる。まずは全員、ホテル入口に停車しているバスに乗車しろ。三十分ほど移動して、ダンジョン併設の管理施設内、及びダンジョン内での講習会を開始する」

生徒たちは指示に従い、ホテルの前に並んだ大型バスへと乗り込む。

車窓から見える芦ノ湖の景色は観光地としての美しさを残しながらも、ダンジョン周辺の厳重なフェンスや武装した警備員の姿によって、ここが最前線であることを強く意識させた。

バスが目的地であるダンジョン管理センターに到着すると、生徒たちは広いブリーフィング室に集められ、そこで今回の訓練における班分けが発表された。

「これより、各自のスキルの特性に合わせた4つの班に分かれて行動してもらう。【物理系】、【魔法系】、【生産系】、そして【特殊系】だ」

探索者の世界では、その能力によって明確なカテゴリー分けがなされている。

大輝や剛田のような前衛で戦う者は【物理系】

佐々木のように元素や魔力投射を行う者は【魔法系】

そして、今まであまり馴染みがなく、悠太が今回初めて詳しく知ることになったのが【生産系】だった。

生産系とは装備品や道具、回復薬などを自らのスキルで作り出す覚醒者たちのことだ。

ダンジョンの入り口には必ず巨大な研究所が併設されており、生産系の探索者たちは主にそこで、ダンジョンから持ち帰られた未知の素材を使い、様々なマジックアイテムや高性能な武具防具などを作り出している。

街中の一般ショップで売られているものは、あくまで普及品。プロが命を預けるような一点物の高剛性装備や希少なポーションは、この研究所で開発・精錬され、厳重なセキュリティを誇るダンジョン内ショップでのみ流通する。

「物理系は松坂、剛田……、魔法系は佐々木……――特殊系は如月、甘露寺の二名」

班が読み上げられた瞬間、教室内がざわついた。

今回の参加者二十名強のうち、特殊系に割り振られたのは如月凛と甘露寺悠太の二人だけだったからだ。

「くそっ!やっぱりそうか! なんであいつが如月と同じ班なんだよ」

物理系の席で大輝が椅子を鳴らして苛立ちを隠さずに吐き捨てた。

学年最高峰のレアスキル『空間把握』を持つ如月が特殊系なのは納得できる。だが、誰もがハズレだと笑っていた罠使いの悠太が凛と二人きりで特別講習を受ける。その事実が大輝には我慢ならなかった。

(凛のやつも甘露寺、甘露寺、言いやがって!俺は将来、剣聖にもなれる逸材だぞ!凛はいつか必ず俺のものにしてみせる!)

しかし、悠太は大輝のそんな視線に気づくことなく、自分のスキルの分類が特殊であることを再確認していた。

特殊系を担当する講師は探索者歴5年の佐藤という男だった。

「よろしくね。俺のスキルは『 共鳴支援(レゾナンス・バフ) 』だ」

佐藤の説明によれば、彼は仲間の能力を底上げしたり、逆に魔物の動きを鈍らせたりする 弱体化(デバフ) スキルを操るという。

「特殊系の中では俺のような支援職が最も一般的なんだ。如月さんの空間スキルや甘露寺君の罠系っていうのは、その中でもさらに希少な部類に入る。……正直、俺が教えられることがどれだけあるかは分からないけど、探索者としての立ち回りを伝えていくよ」

支援スキルが主流である特殊系において、如月凛の圧倒的な支配力と、悠太の未知なる能力は異質な存在だった。

「特殊系の能力はまだ解明されていない部分が多い。如月さんの空間スキルは世界的に見れば比較的情報が出ている。誰もが羨む最強スキルの一つであることは間違いない。甘露寺くんの能力は……正直、俺にもよく分からん! 君たちのスキルは道を間違えると災厄になるほど強力だが、極めれば戦場そのものを支配できる。それをこの三日間で理解してもらう」

佐藤の鋭い視線が二人を射抜く。

凛は静かに頷き、悠太はプロテクターの下で少しだけ汗ばむ拳を握りしめた。

物理系や魔法系のような目に見える破壊の華やかさはない。

しかし、二人だけの特殊系の講習は他のどの班よりも深く、そして濃密な世界の裏側を教えるものになろうとしていた。

悠太は、隣に座る如月凛の静かな魔力の胎動を感じながら、これから始まる訓練に向けて意識を研ぎ澄ませた。