作品タイトル不明
14.怪盗は不貞腐れる
「なーんか、おもんない」
港町ブレナークの夜道をぶらぶら歩く。
貿易港として賑わう街は、夜でも活気が絶えなかった。
それはいい。
雑多な場所は紛れ込みやすく、逃走手段に事欠かない。
問題は、広がる闇に対して、混沌が少ないことだ。日陰者さえ、統率されているように感じられた。
「ローズガーデンねぇ」
先ほどまで一緒に呑んでいたゴロツキが所属している犯罪ギルドだという。
犯罪ギルドは自国にもある。
ただ自分が知っている犯罪ギルドの人間は、もっと目が曇っているか、ギラギラしているかのどちらかだ。
間違っても警ら隊の人間に対し、和やかに言葉を交わしたりしない。
「縄張り意識が強いのは当然として、まさか一強とか。ありえんやろ」
他へ行けば別の組織もあるが、呑んでいたゴロツキ曰く、王都までの街は、全てローズガーデンが仕切っているとのこと。
「どんだけ規模デカいねん」
酒の席だ。全てを信じるわけじゃないけれど。
酒場では常に視線を感じていた。
よそ者を見張る目だ。
その空気感は酒場全体にあり、観察眼が鋭いほど、居心地が悪かった。
「仕切ってるっつーんは、あながち間違いやなさそうか」
尾行こそされていないものの、異変を感じれば、すぐに情報が回るだろう。
動きにくいったらありゃしない。
「これが、あの子らの生まれ育った国かぁ」
王太子シルヴェスターと婚約者のクラウディア。
自国の腐りきった王族や貴族とは、まるで違う二人。
姿を消した護衛のために自ら歩き、捜査する変わった特権階級だ。
洞察も鋭く、ファンロン王国の王太子に扮したのもバレていた。
そんな二人に興味を引かれ、背景を知るべく、ハーランド王国まで足を伸ばした。
「王城の中も見たいなぁ」
どうせなら日々の生活を観察したい。
難易度は高そうだが、できないこともないはずだ。
路地裏へ目を向ける。
どんよりと湿度の高い闇があった。
国が違えど、こういった場所はどこも同じだ。
「でも、なんか違和感があるんよ」
まず澱んだ目が見返して来ない。
残飯を漁っているのはネズミなどの小動物ばかりで、ゴミに紛れている人間がいなかった。
「衛生管理が行き届いてるんか」
東洋の国をはじめ、色んな国を見てきた。
決まって表通りは綺麗でも、路地裏は汚泥のたまり場だった。
だというのに、ハーランド王国の味気ないこと。
見目が良ければ良いほど、中身はぐちゃぐちゃであるべきだ。
自業自得とはいえ、国として比べられる自国が不憫に思える。
「足りん分は、自分が助けたるしかないかー」
ちょうど面白そうな話も聞いていた。
国へ帰ってからも、シルヴェスターは精力的なようだ。
「スタジアムの建設か」
港町ブレナークの内陸部、グラスターという町に日雇いの人間が集まっていた。
よく見れば、建物のあちらこちらに人材を募集する張り紙が貼られている。
何でも昔に建設されて使われなくなっていた円形闘技場を再利用するとか。
「フットボールって、要は蹴鞠やんな?」
足でボール――毬――を弾く遊びは東洋にもある。
それがシルヴェスターの肝いりで競技化されると聞き、口角が上がった。
これは金のにおいがする、と。
「また一緒に遊びたいなぁ」
笑みを浮かべたまま路地裏へ入る。
闇に同化するのは、変装するよりも得意だった。