軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.悪役令嬢は海に出る

ウーゴスを捕まえ、町医者の協力の下、乗組員たちの診察をおこなった。

結果、程度の違いこそあれ、全員に中毒症状が見られた。

同じく中毒者だった幸せの村の村民の治療で診療方針は示されているため、それが乗組員たちにも適用される。

ただ薬については公にできず、王都から担当者を待つ必要があった。

ウーゴスの資産はローズガーデンが押収した。そのうちの何割かを、乗組員たちへの賠償金として分配する予定である。

こうして少年たちの件は細かい処理は残っているものの、一応の解決を見せた。

訳あってクラウディアと二人、大きな木箱の中にいるルキは、んーと伸びをする。

お互い変装せず、質素な装いであるものの普段どおりの姿だった。

「いやぁ、気付け薬を使わずに済んで良かった」

「薬とは言うものの、強烈な刺激臭を嗅いで、意識をハッキリさせるものだものね」

小瓶の蓋を開けずに済む一生を送りたい。

(不安が解消されたわけではないけど)

まだ自分にできることがあると知れて、前向きに考えられるようになっていた。

「けどまさかウーゴスも姉御の名前を出すとはなぁ」

「手が込んでいたわね」

ナイジェルの命令で動いていると思われたウーゴスは、クラウディアに雇われていると証言した。

嘘ではなく、本人は本気でそう信じていたのだ。

クラウディアの侍女を名乗る女性が接触してきて、輸送を依頼されたのだという。

「ヘレンの偽者まで用意するなんて、信じられないわ」

侍女は名前を告げなかったが、特徴がヘレンと一致した。

ウーゴスはクラウディアのサインが入った指示書を受け取り、内容を確認すると燃やして証拠を消していたという。

この件が世間に出るだけで、よりクラウディアへの風当たりが強くなるのは明白だった。

「どう考えてもやつの仕業だろ?」

「さすがに教会発行の通行証は、わたくしの権限外よ」

ウーゴスの荷物から見付かったものだ。

教会から認められた商人には、通行証が発行される。

あくまで寄付物をスムーズに運ぶもので、それ以外の貨物は適用外だ。

悪用されやすいため、発行には厳しい審査があるのだが、ウーゴスがそれをクリアしたとは思えない。

おそらく企てに際し、ナイジェルが送ったのだろう。

なんにせよ、村で精製された薬が使われた時点で、彼の関与は否定できない。

ウーゴスは、クラウディアを陥れるために用意された駒だった。

押収した貨物は、貴金属や美術品など財産になりそうなものが目立つものの、数はそれほど多くなかった。

倉庫に置かれていたコンテナの中身はほとんど空で、空箱を運ぶことでナイジェルが何を得ようとしていたのかは不明である。

ただ以前、船がアラカネル連合王国にあるクラウディアの商館近くの港へ行っていたことはわかっている。運航日誌に航路について書かれたページがあったのだ。

「何かしら企ててるのは確かだよなぁ」

「裁く手立てにできないのが残念ね」

ナイジェルのことについては、あくまで内情を知っている者にだけ通じる話だ。

表に出せる確固たる証拠が必要だった。

「結局イーダはなんだったんだ?」

ウーゴスを捕まえた夜、ルキにイーダのあとを追ってもらった。

彼は中型船に乗り込んだきり出てこず、明くる朝、そのまま出港してから港に戻っていない。

「ウーゴスに執着していたようだけど、呆気なく手渡されたものね」

娼館では、彼も情報を集めているようだった。

その割に他の商人への聞き込みをしていないのを見るに、運航について知りたいのではなく、乗組員のほうに焦点を当てていたのではないだろうか。

どうやって過密スケジュールをこなさせていたのか。

「イーダについては、いくら考えても推測の域を出ないわ」

「考えるだけ無駄か」

「縁があれば、またどこかで会えるでしょう」

なんとなく、それは近い気がした。

「そろそろ動きます」

木箱の外からノックと共に声がかかる。

クラウディアとルキは、揺れに備えた。

二人が木箱に入り、貨物に紛れているのは、スラフィムの指示だ。

ウーゴスの件が一段落したところで、彼から返事が届いた。

指定されたアラカネル連合王国の商船に乗り、スラフィムに会いに行くのだが、船に乗り込む手順がこれだったのである。

船は物資輸送用の帆船で、母国を目指して北へ向かう。

ハーランド王国沖にある島が補給支点になっており、そこで合流する予定だった。

客船同様、運ぶものとしての乗船なら、女性も許された。

(信仰は違うのに、同じく女性の乗組員を忌避するのは興味深いわ)

曰く、海の神は女性で、嫉妬されて事故に遭いやすくなるのだ考えられている。

(規律を守らせるための教えなのかしら)

喋ると舌を噛みそうなので、クラウディアは自己完結した。

その後、貨物に紛れて乗船を果たすと、乗組員の案内で客室に入る。

「うえ、まだ揺れてる気がする」

「実際揺れているでしょう?」

船が港から出港していた。

そんな出港の慌ただしさが落ち着いた頃。

案内を受けた乗組員から日光浴を勧められる。

「部屋でじっとしてると運動不足になりそうだもんな」

肩を回し、肩甲骨を解すルキを見て、甲板へ上がることにする。

日差しを浴びたルキは、空へ向かって両腕を伸ばした。

顔を上げれば、帆を張るための柱――マスト越しに、雲一つない青空が広がっている。

潮風が、緩くクセのある黒髪と、着ているライトグリーンのワンピースを撫でていく。

「ガキ共の件は解決したし、このままバカンスでもいいんじゃね?」

「バカを言わないで頂戴。一番大きな問題が残っているわ」

「ちょっとくらい休んだほうがいいぜ。姉御は働き過ぎだ」

ホテルでルキの帰りを待たず、情報を求めて娼館へ行ったことが指摘される。

クラウディア自身、動き続けている自覚はあった。

「何かしていないと落ち着かないのよ」

耳に入る情報は悪いことばかりで、良くなる兆しがまるでないから余計に。

港を出る前にも、また一つ新たな地域で暴動が起きたと聞いた。

「まぁ動いてるほうが、深く考えずに済むってのはわかるけどよ」

以前の自分もそうだったとルキは語る。

ナイジェルに搾取され、八方塞がりだった頃の話だ。

「でも折角、デッキチェアまで置いてくれてるわけだし」

本来、この船は物資輸送がメインのはずだ。

けれど客室といい、色々と用意がある程度には、人を運ぶのも珍しくないらしい。スラフィムの配慮で、今日に限ってはクラウディアたち一組だけだが。

「オレらが海の上でできることなんてねぇよ」

海に出てしまえば、波と風、そして忙しなく動く乗組員たちがいるだけだった。

誰もクラウディアの素性を知らず、魔女だと指をさされる心配もない。

(ここでのわたくしは、運ばれる荷物と同じ)

実際そうだった。

アラカネル連合王国では、万物に神が宿ると考えられている。海の神様を女性としている乗組員たちは、女神が嫉妬してしまわないよう、クラウディアのことも動く荷物だと認識していた。

「先はまだ長いんだ。何も考えない時間があったっていいんじゃね? 眠りが浅くなってんの、知ってるぞ」

「よくわかったわね」

バレていないと思っていたので、素直に驚く。

疲れを表には出さないようにしていたし、化粧で隠してもいた。

ルキは楽しげに目を細めると、姿勢を正す。

そしてポケットから黒縁眼鏡を取り出してかけた。

「これでも侍従ですから。傍にいる時間が増えれば、わかるようになるもんです」

おかげで段々と、いつもの侍女さんの気持ちが理解できてきました、とデッキチェアへ座るよう促す。

見慣れた黒マスク姿で慇懃に振る舞う姿が笑みを誘った。

(黒縁眼鏡はアイテムとして気に入ったのかしら?)

頑なに拒むのもおかしい気がして、クラウディアは腰を下ろす。

ルキは一緒に置かれていた大きなパラソルを動かし、影の位置を調整し終わると、自分も隣のデッキチェアに寝転がる。

「もしかして、あなたが休みたいだけだったのかしら」

「主人が休まないと、下のもんが休めねぇからな」

なるほど、言い分は正しい。

ヘレンとは違う気さくさも、たまにはいいかとクラウディアも体の強ばりを解す。

軽く伸びをし、しばらくの間、見慣れない水平線を眺めた。