作品タイトル不明
**.遅ればせながら100話記念SS(第四章の時系列とは関係ありません)
◆侍女は寝起きの主人に魅せられる
朝、珍しく肩を出してはだけているクラウディアを見て、ヘレンはわずかに目を見開いた。
玉のような肌はもちろんのこと、大きく谷間を晒した姿は心臓に悪い。
乱れて顔の前に垂れる黒髪さえ艶やかに映る。
(寝付きが悪かったのかしら?)
まだぼんやりとしている様子からも、眠気を引きずっているのは明白だ。
「クラウディア様、おはようございます」
「……おはよう」
んむ、と返答の前には声にならない一拍が入る。
その小さな子どものような仕草に、斜め後ろにいる侍女仲間が悶えた。
(仕事に集中!)
自分にも言い聞かせながら、肘で侍女仲間をつつく。
すぐ周りを魅了してしまうのは主人の悪いクセだ。
目の下にクマができていないか確認しながら、ヘレンは着替えのため、クラウディアへ手を伸ばす。
しかし近付く手にクラウディアが頭を寄せたところでヘレンの思考は止まった。
撫でてほしいと言わんばかりに圧がかかる。
どうやら今朝のクラウディアは甘えたい気分らしい。
心の中で主人の名を叫びながら、ヘレンは優しく手を動かす。
主人の要望に応えるのも侍女の務めだ。
(そう、これは、仕事)
背後から羨ましげな侍女仲間の視線が突き刺さるが無視を決め込む。
とろん、と微睡むクラウディアが目の前にいるのだ。
それに勝るものなどない。
このあと、覚醒したクラウディアは羞恥に身を焦がすが、ヘレンの顔から満足げな笑みが消えることはなかった。
◆◆◆◆◆◆
◆侍女は寝起きの主人に緊張する
主人は決して声を荒げたりしない。
そうとわかっているのに、部屋の前に集まった侍女たちはみな顔を強張らせていた。
朝、扉を開ける瞬間が一番緊張する。
自分たちが立てる物音で主人が眉根を寄せたりしないか。
行動を不快に思われないか。
気分を害することが何よりの恐怖だった。
一度だって怒られたことはないのに。
指先が冷えるのを感じながら、そっと扉を開く。
同時に主人がベッドから身を起こした。
幸い、今日も主人の表情は穏やかだ。
寝起きにもかかわらず、姿には一切の乱れもない。
いつも通り。
変わらぬ朝であることに、侍女たちは人知れずほっと息を吐く。
日の光を浴びる白磁の肌。
煌めく銀髪の合間から覗く黄金の瞳は「普通」からかけ離れていたとしても。
寸分の狂いもない美貌は、主人の代名詞でもあった。
「王太子殿下、おはようございます」
「おはよう」
寝衣を受け取り、軽く汗を拭き取る。
剣の稽古を欠かさない体は活力に満ち、肌のハリとなって現れた。
どこを取っても最上であるからだろうか。
仕える自分たちにもミスは許されないと感じるのは。
ほど良い緊張感が漂う中、いつもの朝がはじまる。