軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51.少女は悪役令嬢として育てられる

ニアミリアになる前には、「ニナ」という人生があった。名前の語感が似ているのは偶然の一致だ。

ニナは、紛争地帯にいる薄汚れた子どもに過ぎなかった。

でもニナには貧しくも逞しく生きる家族がいた。

怒らせると怖い母と、子どもに甘い父、そして憎たらしくも可愛い弟。

生まれたときから紛争地帯にいるニナにとって、過酷な生活環境は「普通」のことだった。

食べものを分け合い、家族と手を取り合って生きていた。

そんなニナの生活は、ベンディン家からニナを引き取りたいという申し出があったのを境に一変する。

ニナは家族と離れたくなかったけれど謝礼には抗えなかった。

家族が少しでも安全な場所で暮らせるならと、ニナはベンディン家の馬車に乗った。

国境を越える段階になって、ニナは言いようのない恐怖に襲われた。

故郷、家族との別離は、無理矢理、皮膚を剥がされるようだった。

目を閉じ、両手で耳を塞いでも震えは止まらない。

ニナは恐怖が過ぎ去るのを、ただただ祈るしかなかった。

屋敷で対面した当主はニナの心情など気にせず、これぞきまぐれな神様のお導きだと笑った。

ニナがベンディン家の屋敷に迎えられたのは、三歳で亡くなった令嬢ニアミリアの代わりを務めるためだった。

「あぁ、ニアミリア、どこに行っていたの? 心配したんですよ」

元々病弱だった夫人は、娘の死をきっかけに心を病んでいた。

まだニアミリアは生きていると信じ、その空想から抜けだせなくなっていたのだ。

夫人を愛していた当主はニアミリアと似た子どもがいるのを聞きつけるなり、夫人の空想を現実にした。

「愛しのニアミリア、ずっとお母様の傍にいてね」

いつでも娘が来られるように少しだけ開かれたドア。

夜になると部屋からの明かりが漏れる隙間は歪な愛の象徴となり、ニナのトラウマになった。

(本物と偽物の区別もつかないなんて)

親としてどうなのかと思う一方、無心に注がれる愛情が怖かった。

当主から向けられる目差しとかけ離れていたからだ。

「わしに抗うことは許さん。お前の家族など、いかようにもできることを忘れるな」

当主にとってニナは便利な道具でしかなかった。

淑女としての作法、人を騙す手管まで教え込まれた。

加えて本来令嬢なら免除される訓練も受けさせられ、厳しさに死を望んだこともあった。

けれど家族を人質に取られていては死ぬのも叶わない。

ニナは当主に従うことで、家族を守ることしかできなかった。