作品タイトル不明
50.悪役令嬢は核心に迫る
騒動のあと、パルテ王国大使館にあるニアミリアの自室には、クラウディアとシルヴェスターの姿があった。
二人と対峙する形でニアミリアとその隣には老齢の侍従がいたが、両者の間にはハーランド王国の騎士によって壁が作られている。
「言い逃れはできぬぞ」
宣告するシルヴェスターに、ニアミリアは項垂れたままだ。
彼女の部屋の暖炉から燃え残った変装道具一式が見つかっていた。
ドレスティンを襲ったのもニアミリアであることは、あとを追った影の証言でわかっている。
何より部屋に残ったバラの香りが彼女の犯行を物語っていた。
ことの顛末はこうだ。
個室に呼び出されたドレスティンは、クラウディアを装ったニアミリアに襲われ、クラウディアの犯行だと決定づけるためにわざと逃がされた。
その間クラウディアに扮したルイーゼは、公爵令嬢は特別だという案内を受けて、会場への違うルートを歩かされ時間を稼がれていた。
「サスリール辺境伯領でわたくしを装ったのも、あなただったのですね」
ドレスティンは、偽クラウディアと過ごした一夜を鮮明に覚えていた。
それこそ小さなホクロの位置まで。
聞き取りにより語られた場所はニアミリアのものと一致した。
クラウディアの言葉に、ニアミリアは哀しく微笑む。
「偽物と見抜けなかったのに、記憶力はあって驚きましたわ」
どこでわたくしが怪しいと思われたの、と濃紺の瞳がクラウディアをとらえる。
「白状するとニアミリア様が関わっているのかは確証が持てませんでした」
別の誰かである可能性は大いにあった。
「ですが心の中で、ニアミリア様なら完璧にわたくしを装えると思っていましたの」
クラウディアが完全にルイーゼを装えないように、体型が違い過ぎると変装は上手くいかない。
そして外見以外にも他人になりきるにはポイントがあった。
所作だ。
完璧な淑女と名高いクラウディアの所作は、令嬢の見本となっているぐらいである。粗が目立てば、相手に違和感を覚えさせるだろう。
クラウディアを知らない者には問題ないが、ドレスティンは当人も貴族である以上、所作には精通している。
彼を騙すには、貴族令嬢として振る舞える技量が必要だった。
「瞳の色もニアミリア様なら誤魔化せそうですから」
青い瞳のクラウディアに対し、ニアミリアは濃紺だ。
暗がりで見れば違いはわからないだろう。
髪型はウィッグで、目元の雰囲気は化粧で対応できるが、瞳の色は変えられない。仮面を着けても、限界がある。
様々な条件を照らし合わせていくと、クラウディアを装える人物は限られた。
(ベンディン家が変装に特化した人間を囲っていたらわかりませんけれど)
「おっしゃる通りだわ」
「貴族派が襲われた事件もあなたですか」
「ウェンディ様が起こされたことでは?」
「世論ではそうなっていますが証拠はありません。ウェンディ様も否定されております」
「彼女の言うことを信じるのですか?」
「世論は信じなくても、わたくしは信じます」
たとえウェンディにとって自分が悪であっても。
歪んでしまったウェンディだが、もっと性根が腐っている人物をクラウディアは知っていた。正義を掲げ、独善で動いているのは同じでも、ウェンディと 異母妹(フェルミナ) では性質が異なる。
ウェンディは国のため、他者のためであるのに対し、異母妹の正義はただただ自分だけのものだった。
だからか、ウェンディのことは憎みきれない。
彼女が騙されているとわかれば余計に。
今は罪を償ってほしい気持ちだけがあった。
「お優しいのね」
儚くニアミリアは微笑む。
「わたくしもクラウディア様のように、自分を貫ける強さがほしかったですわ」
許されることではないとわかっていた。
けれど、そうするしか自分には生きる道がなかったと、濃紺の瞳から一筋の涙がこぼれる。
「わたくしは、ベンディン家当主に逆らえないのです」
わたくしは、と震える声と共に口が戦慄いていた。
ポロポロと涙を流して頬を濡らしながら、ニアミリアは渾身の力で声を発する。
「わたくしは、ニアミリアではありません。わたくしはベンディン家当主によって作られた偽りの存在なのです!」
続けて語られた内容は衝撃的で、クラウディアもシルヴェスターもすぐには反応を返せなかった。