軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.悪役令嬢は顛末を聞く

クラウディアの衣装の一部である長いベールを手で弄びながら、シルヴェスターがことの経緯を説明する。

「辺境伯がベンディン家当主と書面を交わしたのが商人の証言で明るみになった」

「商人が口を割ったのですか?」

ブライアンですら聞き出せなかった情報に目を丸くする。

「私が赴いたことで、これ以上辺境伯についても旨みはないと判断したのだろう。王家に貸しをつくったほうが得だとな。まぁ、そんな小狡い道理は通さないが」

穏やかに微笑むシルヴェスターには冷気が宿っていた。

商人が情報を高く売るつもりで隠していたことにお怒りらしい。その商人がどうなったのかはあえて訊かないでおく。

「辺境伯領の状況と商人の動向から察するに、密約の内容は戦争を起こさないというもののようだ」

戦争は準備だけでも莫大な金がかかる。

最初から起きないとわかっていれば費用をかける必要がない。

また平和に慣れた辺境伯にとって、戦争を回避できるのは願ってもないことだった。

「ベンディン家当主も、辺境伯から敵意を向けられるよりは手を組んだほうが、ことの成り行きを静観しやすいと考えたのだろう」

双方共に無駄な出費を減らせることには変わらない。

そしてこの密約が交わされた結果、商人たちは商機を失った。

準備の気配を見せない辺境伯を不審に思った商人が独自に探りを入れたことで、書面が交わされた事実に行き着いたのだという。

ただすぐに辺境伯から圧力をかけられ、商人たちは沈黙を選んだ。

「商人たちにとっては辺境伯と縁を切られるほうが死活問題だ。また戦争が起きないとわかっていれば、彼らも無駄に動かずに済む」

「公的なやり取りでしたら平和条約ですしね」

この密約でケガをする人はいない。

犠牲者が出ない内容だからこそ、商人たちも沈黙を選んだのだろう。

問題は国を騙して、秘密裏に交わされた点だ。

紛れもなく国家反逆罪だった。

「物的証拠が手に入れば辺境伯に未来はない。ベンディン家については微妙なところだ」

他国の有力者を裁こうとすれば、国と国の話し合いになる。

現在ハーランド王国へ対しパルテ王国民の反感が募っている状況は変わらないため、盤面は複雑になっていた。

これについてはパルテ王国が足並みを揃えてくれるのを願うしかない。

「だが、やりようはある。パルテ王国民の扇動にもベンディン家が関わっていることが判明したからな」

「そうなのですか!?」

「私たちにとっては頭が痛くなる話だ」

きっと気持ちが沈むだろうからと、ソファーに座るよう勧められる。

予告通り、その内容にクラウディアは頭痛を覚えた。

「また修道者を捕縛することになった」

「昨年に引き続き、ですか」

ナイジェル枢機卿によって切り捨てられた修道者のことは忘れようがない。

「目立つ扇動者がいなかったことからまさかと思い、調査対象を広げたのだ。嬉しくないが当たってしまった」

話しながらシルヴェスターは頭痛が和らぐよう優しく頭を撫でてくれる。彼の指先が髪を梳くたび、気持ちが軽くなる気がした。

「パルテ王国に点在するいくつかの教会を起点に、我が国へ対する反感が高まっていたことがわかった」

複数の教会で、同時期に同じ説法がおこなわれていたという。

内容が意図的に改悪されていたのは言うまでもない。

一人の不満は小さくても、ポロッと不満を零した相手が同じことを考えていた場合、共感がより気持ちを大きくしていく。それが地区を越えて伝染し、大きな奔流となった。

ベンディン家は各地区への根回しと舵取りだけすれば事足りたのである。

これはパルテ王国内でも特に声の大きい地区を調査し、情報をすり合わせることで明るみになった。

「スラフィム殿下が聞いたら喜びそうですわね」

「公にできればな」

鬱屈した気分を解放するためかシルヴェスターが息をつく。

「まとめ役である修道者を捕縛して証言を得たが、調査は全てハーランド王国の独断だ」

捕縛した修道者はベンディン家当主との繋がりを認め、報酬と引き換えに扇動をおこなったと自供した。その際、交わされた誓約書も見つかっている。

確固たる証拠を手にしたわけだが、この調査にパルテ王国は一切関わっていない。慎重に扱わねば、それこそ内政干渉だと戦争になりかねなかった。

教会に責任を追及するにしても、トカゲの尻尾切りで終わるのは目に見えている。

「スラフィムが望む通りにはならぬだろう」

「ことを公にして教会へ国民の不審が募り過ぎるのも良くありませんものね」

簡単に断罪すればいい問題ではなかった。

ハーランド王国を含め、周辺諸国では教会の教えが国教となっている。

平民のみならず、貴族においても教えは心の拠り所だ。下手に根幹を揺るがせば精神不安を招く。

教会は、決して「悪」でないことを忘れてはならない。

生きる人間が罪を犯すのだ。

そして今も尚、国の支援が届かない場所では、その生きる人間に弱い人々が助けられている。