作品タイトル不明
47.悪役令嬢は屋敷で王太子殿下と会う
仮装舞踏会がはじまる前。
空が茜色に染まる頃、私室の鏡前には二人分の人影があった。
純白の長いベールを着けたクラウディアの姿に、シルヴェスターがうむ、と頷く。
「見事、と言いたいところだが、どうしても違和感を覚えてしまうな」
「同感です。見慣れていると差異が目立って仕方ありませんわね」
金髪のウィッグに、女神を模した白いドレス。
キツい目元はメイクで印象を和らげ、胸は圧迫して少しだけボリュームを落とした全体像は、悪くないどころか女神の仮装としては整っている。
けれど、ルイーゼになりきれているとは言えなかった。
何度も姿見で確認するものの結果は変わらない。
「だが近くで見ない限りは騙されそうだ」
「髪型で人違いすることは、案外多いですものね」
体型が似ていれば尚更だった。
後ろ姿から知人だと思って声をかけたら別人だったエピソードはよく耳にする。
玄関先にはサヴィル侯爵家から借りた馬車も用意してあった。
逆にサヴィル侯爵家にはリンジー公爵家の馬車が貸し出されている。
「入れ替わりとは大胆な発想だ」
「あら、先にしたのはシルですわよ」
「そうだったな」
サスリール辺境伯が開催した仮面舞踏会。
そこで途中、シルヴェスターはレステーアと入れ替わった。
「どこまで騙せるかはわかりませんけれど」
「先入観にどれほどの作用があるかだな。馴染みのない者は、サヴィル侯爵家の馬車から出てきただけでルイーゼ嬢と勘違いするだろう」
これはこれで新しい知見を得られそうだとシルヴェスターは楽しそうに笑う。
「ルーに危険は及びませんか?」
「彼女には影を付ける。だが相手方もここでクラウディアを襲うことはないだろう」
子息令嬢の個人的な諍いでもない限り、会場でケガ人が出ればパルテ王国が責め立てられる。
クラウディアが襲われるようなことがあれば国際問題だ。
ニアミリアが婚約者候補として不利になるようなシナリオはないと予想された。
(結局は誰が得をし、誰が損をするのかに尽きるのかしら)
度重なる事件、そしてパルテ王国の思惑。
クラウディアとシルヴェスターで考えをまとめて行き着いた答え。
今の状況は、全てニアミリアにとって追い風になっていた。
まずウェンディが捕まったことで、国内の令嬢に問題があることが浮き彫りになった。
仮にウェンディの思惑が成功していても同じだ。クラウディアが捕まったほうが衝撃は大きいが、それは成果の大小でしかない。
(暗躍している者にとってウェンディ様が成功しようが失敗しようが構わなかった……)
完全なる捨て駒である。
しかもクラウディアの嫌な予感は的中していた。
ウェンディの証言で貴族派を襲撃した実行犯が捜されたが、見つからなかったのだ。
続けて北部でおこなわれた奴隷輸送についてもウェンディは語ったが、こちらも痕跡は残されていなかった。
その結果にウェンディは、クラウディアが手を回したのだと陰謀論を加速させ、信頼を失うばかりになっている。
「ヒューベルトの正体が掴めなかったのが心残りですわ」
「陰謀論自体は当たっているが、ウェンディ嬢が現実を受け入れるのは難しそうだな」
ヘレンがロイド侯爵家の侍女たちに聞き込みをしてくれた結果、ヒューベルトはウェンディが懇意にしていた商人だったことがわかった。
そこから商人ギルドに在籍するヒューベルトを追ったところ、届け出は巧みに偽造されていた。
彼をウェンディに紹介したという商人も騙されており、風貌での捜索もおこなわれたが成果はなかった。
「上手くやったものだ」
王都内で堂々と詐欺がおこなわれたことに、シルヴェスターは不快感を露わにする。
商人ギルドも顔に泥を塗られ怒り心頭に発している。
それこそ王都では変装でもしない限り、ヒューベルトを騙った人物は通りを歩けないだろう。
裏は裏でローズガーデンが目を光らせている。
「偽装に関しては相手のほうが得意なようですわ」
偽クラウディアに至っては、クラウディアがサスリール辺境伯領を訪問しなければ存在に気付けなかった。
「サスリール辺境伯家へは強制捜査が入った。早ければ本日中にでも早馬で報せが届くだろう」
クラウディアが帰ったあとも調査を続けていたシルヴェスターがここにいるのは、一段落ついた表れでもある。
トリスタンも仮装のため家に帰っていた。