作品タイトル不明
40.悪役令嬢は年上の婚約者候補を訪ねる
ルキが他勢力の構成員を使いものにならなくしたことで、依頼主は新たな依頼を出さざるを得なくなった。
その依頼を出したのが、ローズがルキから報告を受けていたタイミングだ。
実行犯を比較的早く捕まえられたのは、ローズガーデンがよそ者を警戒して見張っていたおかげだった。
不審者の情報を整理し、警ら隊へ渡したのも大きい。
そこで実行犯の証言とは別に、被害者貴族の引き渡し場所などからウェンディの関与が浮上した。
ウェンディは当局の捜査に対してずっとクラウディアによる陰謀を訴えていたが、遂には使用人によって変装が暴露され、依頼時に使用した香水が提出された。
ウェンディは鞄に入れて変装道具を隠していたようだが、不審な動きを侍女たちに気取られていた。暴露した使用人は、王城庭園のお茶会でウェンディに強くあたられていた侍女だった。
侍女は恩人であるクラウディアを責め立てるウェンディに我慢ならなかったと証言したという。
一連の報告を自室で聞いたクラウディアは天井を仰ぐ。
「もしかしてとは思ったけれど、ウェンディ様は全て知った上でわたくしの陰謀論を訴えていたの?」
仕組んだのがウェンディなら、そういうことになる。
彼女はわざわざ他勢力の構成員を使っておきながら、犯罪ギルドに関する全ての犯行はクラウディアによるものだと主張していたのだ。
「いくら何でも無理があるでしょうに」
「クラウディア様に罪を被せてまで陰謀論を訴えたかったということですよね」
一体何がそれほどまでに彼女を突き動かしたのか。
「最後は使用人に裏切られたと思っているのかしら」
「関与が浮上した時点で時間の問題ですよね?」
被害者であるトーマス伯爵が最後に会ったのがウェンディだった。
ウェンディは家の馬車でトーマス伯爵と出掛け、出先で別れたと証言したが、トーマス伯爵の馬車が手配された形跡がなかった。
貴族が出先で歩いて帰るなどあり得ない。
ウェンディの証言が本当なら、必ずどこかで馬車が呼ばれたはずだ。
当日の担当だったウェンディの御者は口を噤んでいたものの、変装の証拠が出ると引き渡し場所へ行ったことを認めた。
「捜査が進めば進むほど、いつかボロが出たでしょう」
「一度目の事件では証拠を一切残さなかったというのにね」
「それで味を占めて杜撰になったんじゃありませんか?」
ウェンディはトーマス伯爵の事件だけでなく、貴族派が強盗殺人に遭った事件でも容疑者に上がっている。
クラウディアに濡れ衣を着せるため、他勢力の構成員を雇ったとみられているのだ。
だがこちらは証拠がないため立件には至っていない。
それでも世論はウェンディの犯行だと信じて疑わなかった。
「ビギナーズラックで調子に乗ってしまう方もいると聞きます」
「賭場ではよくある話ね」
犯罪ギルドが運営する賭場では、ビギナーズラックを装い作為的に客の気分を上げてからカモにするのが常套手段だ。
「クラウディア様は、一度目の事件は別の方の犯行だとお考えですか?」
「そのほうがしっくりするのよ。ウェンディ様の犯行は粗が目立ち過ぎるわ」
トーマス伯爵の事件では、当初依頼していた構成員が使えなくなるというイレギュラーが発生していた。そのせいで計画が乱雑になってしまったとも考えられる。
(でも腑に落ちないのは何故かしら)
貴族派が被害者の事件では、あまりにも証拠が出ていないせいか。
ルキですら追うことが難しかった。
「ウェンディ様から話が訊けるのを願うしかないわね」
「果たして真実を語っていただけるでしょうか?」
「わからないわ。けれど勝手にウェンディ様の心情を想像するより、本人に伺ったほうが確かよ」
現在ウェンディは警ら隊の施設で拘留されている。
面会を申し出たところ受理されたため、明日訪問する予定になっていた。
警ら隊の詰所は王都に点在しているが、本拠点となる施設は王都郊外にあった。
リンジー公爵家からは時間がかかるため朝に出発し、昼の到着を目指す。
辿り着いた先には高い塀が聳えていた。
門は常に閉ざされており、人の出入りがあるときだけ開かれるという。
前世でも訪れたことのない場所へ、クラウディアははじめて足を踏み入れる。