作品タイトル不明
39.悪役令嬢は暗殺者から報告を受ける
話はルキから報告を受けたときに遡る。
サスリール辺境伯領から帰ったクラウディアは、ローズとして地下にあるローズガーデンの事務所を訪れた。
「他勢力の構成員が外貨を所持していたと?」
ルキには娼館帰りに貴族が襲われた事件について調べてもらっていたが、その道中で他勢力の構成員とひと悶着あったという。
「よそのヤツらが遊びに来る分には構わねぇ。だが外貨を持ってたのが引っかかったんだ」
ハーランド王国内にて外貨を所持する人間は限られる。他国と隣接する辺境なら出回っていても不思議ではないが、王都となれば話は別だ。他国の外交官ですら換金して、ハーランド王国の通貨を使う。
「しかも訊けば、根っからのハーランド王国民だって答えやがる。じゃあどうして外貨を持ってたんだって話だ」
「後ろ暗い理由があったのか」
「ヤツら、おれらの縄張りで仕事しようとしてやがった」
犯罪ギルドには外貨に触れる機会がある。その最たる例が、暗殺などの依頼時だった。
依頼主は身分を隠すために外貨を使用する場合が多い。あわよくば外国籍だと思い込ませようとする魂胆もあった。
だが本来、犯罪ギルドは自分の縄張り外で依頼を受けない。
他人の縄張りを荒らすことになるからだ。
にもかかわらず強行しようとしていたのは積まれた金に目が眩んだせいだった。
「依頼内容については?」
「それがよー、ものの運搬だったんだよなぁ」
「運び屋ということか?」
「しかも王都内で完結するやつな。だったらおれらに依頼すれば良い話じゃねー? どうしてよそ者を使う必要があんだよ」
いつにも増して間延びした喋り方に、ルキの鬱屈が見て取れる。
フードから落ちる金髪も些かくすんでいた。
「落とし前はつけさせたけどよぉ。あれからずっとこの世で一番嫌いなヤツの顔が頭にチラついて仕方ねぇんだ」
「枢機卿が関わっていると?」
「わかんねぇ。だけどモヤモヤする。こんなまどろっこしいやり方をヤツはしない。けどさ、おれらがどこと繋がってるか、ヤツならわかるんじゃねぇか」
ナイジェル枢機卿は以前ルキたちを支配していた。
そしてそのとき、ルキたちの情報を基にクラウディアは動いている。
最終的にナイジェル枢機卿を追い詰めたのはシルヴェスターだが、もしクラウディアの動きを気取られていたら?
(ウェンディ様の情報源は枢機卿かもしれないということ?)
依頼内容をクラウディアに知られたくなかったなら、ローズガーデンを使わなかった理由になる。
頭の中でパズルのピースがぱちぱちと一部はまる音がした。
「依頼の詳細はわかっているか?」
「おうよ。運び先は貧民街だったぜ」
他にも受け取りの日時など、ルキはきっちり訊きだしていた。
落とし前をつけさせたと言っていたので、この依頼は流れる可能性が高いが頭の隅に置いておく。
「念のため貧民街でも警戒してもらったほうがいいな」
「わかった、伝えとく。あとさ、姉御が気にしてた件なんだけどよ」
「襲われた貴族の事件についてか」
「あれも他勢力の構成員が動いていた可能性がある」
犯罪ギルドといえども縄張り外での仕事は忌避する。
しかし今回のように金を積まれて動いた者がいたかもしれないとルキは言う。
「もし他勢力の犯行だったら警ら隊が追えねぇのも頷ける。王都以外の地方で盗品を捌かれたら調べようがねぇからな」
犯罪が領地を越えておこなわれることは稀にある。
警ら隊には横の繋がりがあるものの、どうしても領地ごとに情報は遮断されがちだった。領主間の関係が影響してくるからだ。
「その線は薄いと考えていたのだが」
「どこにでも後先考えないバカはいるもんだ」
ルキが遭遇した四人組がそうだった。
抗争を起こすつもりがないなら、こっそり仕事だけして自分の縄張りに帰るのが最善策である。
仕事前に現地の構成員と揉めるなんて考えられない。
「抗争の意思はなかったのだな?」
「あったら今頃抗争中だっての」
本当に数人の構成員が組織と関係なくバカをやったらしい。
「もっというならバカだから縄張り外の依頼を受けちまったんだろ」
普通はやはり受けないものだ。
犯罪ギルドにも犯罪ギルドなりのルールが存在する。
「事件についてはもう追えねぇと思う」
ルキなりに娼婦たちにも聞き込みをしてくれたが結果は芳しくなかった。
「あれぐらいからパルテ王国の連中が客に増えたとは言ってたけどな」
「使節団が来る前からか」
「そうそう。国民全員が戦士なんだって? 筋肉隆々の体に姉さんたちが色めき立ってたよ。野性味溢れる体臭もいいらしい。おれにはさっぱりわかんねぇけど」
「体を鍛えるのが日課だから、私たちより体臭が出やすいのかもしれないな」
ニアミリアからは何も感じなかったけれど、言われてみれば使節団員からは独特の香りがした気がする。
「とりあえず事件については一旦忘れて、運搬依頼を注視しておいてくれ」
「りょーかい。よそ者の出入りも入念にチェックしてある」
後先考えないバカの仕業だとしても、他勢力に好き勝手動かれていては威信に傷が付く。クラウディアが命令するまでもなくローズガーデンの構成員たちは自主的に動いていた。
そして第二の事件は発生した。
貧民街を含め、警ら隊以上にローズガーデンの構成員たちが目を光らせていたことで、他勢力の構成員が受けた運搬依頼は、被害者貴族を遺棄することだったと判明した。
彼らは殺人を請け負っていたが、ただの運搬だと嘘をついていたのだ。