作品タイトル不明
36.年上の婚約者候補は決意する
「もし彼女が婚約者になり、王太子妃にでもなれば国が傾いてしまうかもしれません」
「なんてこと……」
「何としてもリンジー公爵令嬢の罪を暴き、自分とウェンディ様の手で国を救いましょう!」
「はい……! ヒューベルトならできます、こんなに勇気のある方だもの」
「ウェンディ様がいてくださるからです。ふふ、かっこいいところを見せたくて頑張っているところもあるんですよ」
至近距離で笑みを向けられ頬が熱くなる。
自分も婚約者候補の一人であるにもかかわらず、ウェンディはこの熱を手放せなくなっていた。
夏の間は、ヒューベルトと共に過ごした。
教会への礼拝を隠れ蓑にしていたので頻繁に会えたわけではないものの、ウェンディは十分な幸せを感じていた。
二人が抱える問題は大きい。
まずはクラウディアの罪を白日の下に晒さなければならないのだ。
完璧な淑女は偽りに過ぎず、その正体は貴族の風上にも置けないことを。
ウェンディはヒューベルトやその仲間と協議を重ねた。いつしか仲間内でも、ウェンディがヒューベルトの次に決定権を持つようになっていた。
考えたくはないけれど、もしヒューベルトに何かあった場合のことも話し合われた。
ウェンディが王都へ帰ってからは文通が再開された。
今度は直接ではなく教会を介して修道者から届けられた。運良く、北部で協力してくれていた修道者が王都近くの教会へ転属になったおかげだ。
変わらずヒューベルトは危ない橋を渡っていたが、ウェンディの助力で大分動きやすくなっていた。侯爵令嬢の権力も小さくないのだ。
(クラウディア様、これが正しい使い方よ)
直接本人に言えないのがもどかしい。
明確な証拠が得られるまで、ウェンディの関与は何が何でも隠さなければいけなかった。
侯爵令嬢が動いているとなれば相手の警戒を呼ぶからだ。
ましてやクラウディアとは婚約者候補同士である。
ヒューベルトは関与がバレることで、ウェンディに危害が及ぶことをしきりに心配していた。
(ヒューベルトのほうが危険に晒されているでしょうに)
贈られたスミレのブローチを握る。
(どうかご無事で。きまぐれな神様のご加護がありますように)
窓辺に立ち、祈りを捧げる。
けれどもうウェンディは祈ることしかできない令嬢ではなかった。
ヒューベルトをはじめ仲間たちが動きやすいよう手を回し、判断を求められることも増えてきている。
自信に満ち溢れていた。
小さいながら成果も上がっている。
(この調子なら、遠くない未来にクラウディア様を断罪できるわ)
自分とヒューベルトなら。
しかし輝いて見えていた日々は、呆気なく終わりを告げる。
ヒューベルトの消息がわからなくなったのだ。
連絡係である修道者が悲痛に顔を歪ませる。
「もしかしたら敵に捕らえられたのかもしれません」
「そんな……!」
「ヒューベルトは敵を追い込むための情報を多く持っています。すぐに消されることはないでしょう。それでも猶予はありません」
「どうしたら、どうしたらヒューベルトを救えるの?」
「一刻も早く敵の罪を明らかにするのです。手段は選んでいられません。ウェンディ様、ご決断を」
ヒューベルトが生きているうちに。
以前、もしものときのためにと渡された鞄を見る。
その中には、クラウディアの髪型を模したウィッグと彼女が愛用している香水が入っていた。
(わたくしが、やらなくては)
たとえ、倫理に反しても。
「だってそうしなければ立ち向かえないのだもの」
巨悪な権力者には。
既に依頼も終わり、動き出した歯車は止められない。
「クラウディア様、わたくしがあなたの悪事を暴いてみせるわ」
そしてヒューベルトを救い出す。
ウェンディの決意は固かった。