作品タイトル不明
第95話 司会のおにぎりボーイズでーす
土曜日の深夜。
俺はテレビの前で今か今かとその瞬間を待っていた。
『ばばん! さあ、始まりました! 鳳凰山で踊ろう! 司会のおにぎりボーイズでーす! そしてそしてー、鳳凰山のみんなーっ!』
やがてMCの人気芸人が登場。
そこからカメラが移動し、ひな壇に座る大勢の美少女たちを順番に映していく。
『『せんぱい、頑張ります!』』
最後に二人の子がやる気満々な顔でポーズを決め、番組がスタート。
かわいい姪っ子が所属しているアイドルグループ、鳳凰山38の冠番組『鳳凰山で踊ろう!』だった。
少し前に他の同期メンバーたちと一緒に初登場して以来、欠かさずリアタイで視聴しているのである。
「なんぢゃ、この面妖なモノは? 箱の中に人がおるのか?」
不思議そうに聞いてきたのは卑弥呼だ。
古代を生きた彼女にとって、テレビなんて完全に異世界の存在だろう。
「これはテレビというものらしいです。この時代では、別の場所で起こった出来事をこうして見たままに記録しておき、後から何度でも確認することができるようなのです」
テレビに集中している俺の代わりに、北条政子が説明してくれる。
「我が陰陽の術でも……このような真似は……不可能だ……やはり……この時代には……驚かされる……」
と、安倍晴明。
「おおっ、今、映ったぞ! 頑張れ、恋音! 今日こそしっかり自分を出して、MCに弄ってもらうんだぞ!」
ちらりと画面の端に恋音が映ったことに気づいて、俺は拳を振り上げて応援する。
「なんぢゃ、おぬし? この中に意中のオナゴでもおるのか? それにしてはおぬしと比べて随分と若い子ばかりのようぢゃが」
「いえ、西田様の姪っ子さんがいらっしゃるそうなのです。なんでも〝あいどる〟と呼ばれている有名な方だとか」
「姪っ子とな? どいつぢゃ?」
「恐らく……後列の……左から四番目……」
「ほーう、おぬしの姪っ子にしてはなかなかめんこいではないか」
この日の企画は、どうやら先輩メンバーたちのため、加入したばかりの六期生たちが色んなチャレンジを行うというものらしい。
『失敗したらもちろん、先輩たちにはきつーい罰ゲームを受けてもらいますよーっ!』
『『『えーっ!?』』』
『六期のみんなお願い!』
もし失敗すれば先輩が罰ゲームを被るということで、恋音は緊張の面持ちである。
そもそも恋音はこういう大勢の前で何かをやることが苦手な子だ。
「けど、これはチャンスだぞ! みんないる中で発言して目立つのは難しいかもしれないけど、これなら必ずどこかでフィーチャーされるはずだ!」
そうして順番に六期生の初々しいアイドルたちが登場し、クイズや運だめし、身体を使ったチャレンジなどをしていく。
成功して先輩メンバーが罰ゲームを回避できることもあれば、失敗して激マズドリンクを飲まされたりビリビリを食らわされたりすることもあった。
「恋音の番だ!」
そんな中、ようやく恋音が登場する。
そして彼女が守るべき先輩は……金本美久だった。
『挑戦してもらうのは、こちら! 大声チャレンジです! 100デシベル以上を記録すればクリアとなります!』
ちなみに100デシベルはだいたいチェーンソーくらいの音量。
声が大きい人であれば、それほど難しいものではないが、生憎と恋音が大きな声を出しているところなんて見たことがない。
『どう、須藤? 自信のほどは?』
『み、み、み、美久先輩をっ……ぜぜぜっ……絶対、守りたいです……っ!』
MCに問われ、ガチガチに緊張した恋音が震える声で応じる。
『えー、もうダメそうですねー。金本、須藤はいけると思う?』
『行けると思います!』
即答する金本美久。
さすがは二期上の先輩、急にMCには話を振られても即答だ。
『ちなみに罰ゲームの内容は……激辛茶です!』
『えええええっ!? 私、辛いの苦手なんですよーっ!』
金本美久は大袈裟に嫌がってみせる。
『信じてるからね、恋音ちゃん!』
『うぅぅ……が、頑張りますぅっ……』
「心配しなくていいぞ、恋音。これはバラエティ番組だからな。別に成功しなくても、それはそれで失敗じゃないから。金本美久はバラエティ慣れしているし、MCもベテランだ。きっとどっちに転んでも面白くしてくれるはずだ」
俺はテレビ画面の前で勝手にアドバイスを口にする。
「うーむ、さっきから何をしておるのぢゃ?」
「生憎とわたくしにも分かりかねます。きっとこの時代の方にしか理解できないことでしょう」
「なるほどのう。ちなみにこやつは喋りかけておるが、向こうには通じておるのか?」
「それはないかと。すでに起こった出来事を追視しているだけのようですから」
「確かに何もリアクションがないのう」
「……恐らく……独り言と……同じ……」
「ううむ、この歳で独身ぢゃというし、なかなか寂しい生活をしておるようぢゃ」
後ろで英霊たちが何か言っているようだが、テレビに集中しているため右から左だ。
『大丈夫だよ、恋音ちゃん! 魔物の頭を斧でぶち壊すときのことを思い出せばいける! あのとき大きな声が出てるから!』
『そういえば、須藤も金本と同じ探索者なんだっけ?』
『そうなんですよ!』
『しかもおじさんがSランク探索者なんだよな?』
えっ、俺の話が出てきた!?
『飲食店やりながらダンジョン配信やってる人だよね? 俺もよく見てるんだけど、マジで凄いよなぁ』
しかも人気芸人に絶賛されてる!?
「見てくれているだけでもすごいのに……」
「なんぢゃ? 向こうでもこやつの話をしておるのか? よかったのう! おぬしの独り言に反応してもらえて!」
なんか卑弥呼がうるさいが、無視だ、無視。
『た、確かに……なんだかっ……や、やれる気がしてきました……っ!』
そうして覚悟を決めた恋音がマイクの前に立つ。
なぜか斧を振りかぶるような体勢になって、
『っ…………どっ、どりゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』