作品タイトル不明
第94話 写真撮影はOKですか
「よくぞわらわの魂を解放してくれたのぢゃ! 褒めてつかわすぞ!」
三輪山ダンジョンのボスを倒すと、随分とちんちくりんな人影が現れた。
見た目は完全に小学生にしか見えない幼女だが、尊大な態度で「ふふん」と鼻を鳴らしている。
〈お子様英霊?〉
〈120センチくらいかな〉
〈のじゃロリきたあああああ!〉
〈これはかわいい〉
〈ちょっと偉そうな感じも高評価〉
「ええと、あなたは?」
「わらわか? わらわは卑弥呼ぢゃ!」
やはり卑弥呼だった。
弥生時代の後期頃、邪馬台国を統治していたとされる女王だ。
その邪馬台国がどこにあったかについては諸説あって、畿内説と九州説が有力だったが……卑弥呼がこの三輪山ダンジョンに囚われていたとなると、前者が正しいと考えていいのだろう。
〈やはり畿内の方だったわけね〉
〈俺もそう思ってた〉
〈だよな。予想通り〉
〈後からなら何とでも言えるwww〉
「ところでおぬしの名は?」
「俺は西田賢一だ」
「にしだけんいち……? ふむ、変わった名ぢゃのう」
〈もう本名を隠す気もなくて草〉
〈高校の同級生に卒業アルバムの写真まで載せられちゃったからなぁ〉
〈訴えたら勝てるんじゃね?〉
〈同級生相手に訴訟するのも虚しいよな。勝っても大した金にならんやろし〉
「ぢゃが気に入った! わらわを解放してくれた礼に、おぬしに力を貸してやるのぢゃ!」
「本当か? じゃあ、うちの店でアルバイトをしてくれ」
「あるばいと……?」
〈一国の女王にバイトさせんなってwww〉
〈まぁ北条政子も時の最高権力者だしなぁ〉
〈これはまたのじゃロリ目当ての客が殺到する予感〉
〈客層が……〉
〈写真撮影はOKですか?〉
〈英霊って写真に写るんかな?〉
そうして卑弥呼を新たな店の戦力に加えたのだが……。
「ううむ、届かぬのぢゃ!」
カウンターの上に置かれた料理を運ぼうにも、120センチくらいしかない彼女の背丈では、必死に腕を伸ばしても奥の方に置かれた料理を掴むことができなかったのだ。
「これが高いのが悪いのぢゃ! わらわの背丈に合わせるのぢゃ!」
お客さんが使うテーブルの方は高さが75センチくらいなので彼女でも手が届くのだが、カウンターは110センチくらいある。
安倍晴明が操る式神も背丈は低いが、彼らはふわりと跳躍してカウンターの上に飛び乗るなど、高い機動力を持っている。
対して卑弥呼はあまり運動が得意ではないようで、
「ぬおあっ!?」
ガシャーンッ!
カラのお皿をトレイに載せ、試しに運ばせてみたのだが、途中で何度も転んでしまう。
挙句の果てにはテーブルに激突し、テーブルごとひっくり返してしまった。
「さすがにこれじゃ料理を運ばせられないな……」
「し、仕方がないぢゃろ!? こうしたことは全部、配下に任せておったんぢゃから!」
間もなく開店だ。
いったん召喚を解除し、彼女をどう扱うかは改めて考えようと思っていると、
「……なんか外が騒がしいな?」
慌てて外に出る。
いつものように大行列ができていたが、どうやらお客さん同士で揉めているらしかった。
「近所迷惑になるんで静かにしてくれ」
「こ、こいつが悪いんだよ! いきなり列に割り込んできやがって!」
「元々ここに並んでたんだ! ちょっとトイレに行きたくなって、少し離れていただけだ!」
「最後尾に並び直せよ!」
「はいはい、そんなに怒鳴らないで落ち着いてくれ。そもそも整理券を持ってる人は全員、開店と同時に中に入れるから」
最近はこの大行列も悩みの種だった。
基本的にはちゃんと静かに並んでくれるお客さんばかりではあるのだが、これだけの人数が集まるとやはり変な人も交じるようで、こうしたトラブルが増えてきていた。
一応、なるべく開店前には行列ができないよう、店の前の整理券を持っていってもらうシステムにしてはいる。
以前は夜中から並び始めるような人までいたからな。
「こやつらを静かにさせればよいのぢゃな?」
「卑弥呼?」
「任せておくがよい。わらわはこういうのは得意ぢゃ」
ふふん、とない胸を張った卑弥呼は、ざわつき始めた行列に向かって告げた。
「〝静かにするのぢゃ! 開店までそこで大人しく並んでおれ!〟」
直後、騒がしかった行列が一瞬で静まり返る。
「すごいな……何をしたんだ?」
「なぁに、簡単な言霊ぢゃ。わらわにかかれば、この程度の人数を掌握することなど造作もないことなのぢゃ」
さすがは一国の女王を務めた卑弥呼だ。
この力は間違いなく役に立つ。
「その感じで、お客さんたちを店内に誘導してもらえるか?」
「うむ、任せておくがよい!」
そうして開店時間になった。
同時に何人かのお客さんが、我先にと店内に飛び込んでこようとしたが、
「〝慌てるでない! 前の人を押したり追い抜いたりもダメぢゃぞ! 順番に入っていくのぢゃ!〟」
卑弥呼の言霊に従い、整然と並んだまま店内に入ってくる。
「〝奥の方の席から順番に詰めていくのぢゃぞ!〟」
しかもその言葉を受けてか、赤の他人のお客さん同士まで勝手に相席で座ってくれた。
文句を言う人もいない。
さらに最近は安倍晴明好きの女性客たちが彼を捜して店内を歩き回ったりもしていたのだが、彼女たちも卑弥呼のお陰で大人しい。
「〝他の客も待っておるから、食べ終わったら長居は無用ぢゃぞ!〟」
こうしてお客さんの誘導が非常にスムーズになった結果、回転率が大幅に向上。
行列も短くなり、トラブルも激減したのだった。