作品タイトル不明
第92話 ハキハキ喋れんかね
十二体いた鬼を包丁で全滅させた。
すべて人型の紙切れとなって地面に落ちている。
「……我が十二神将を……容易く打ち破るとは……」
そんなぼそぼそとした声と共に、一人の青年が姿を現した。
平安時代の貴族のような服を着て、頭には黒くて長細い烏帽子と呼ばれる帽子を被っている。
見た目の年齢は二十歳頃だが、北条政子のときと同様、あまり参考にはならない。
〈やっぱり英霊だ!〉
〈誰だろ? 貴族っぽいけど〉
〈天皇かな?〉
〈いや、式神で十二神将って言ったらあの人物しかおらんやろ〉
〈紀貫之?〉
「あなたがこのダンジョンに囚われていた英霊?」
「……いかにも……我が名は……安倍晴明……」
安倍晴明。
平安時代に活躍した陰陽道の大家だ。
十二神将と呼ばれる強力な式神を操っていたと言われ、鬼や妖怪を退治するような逸話が数多く残されている。
〈声が小さくてよく聞こえねぇ〉
〈でも安倍晴明って言ってたな〉
〈まぁ他におらんやろ〉
〈そういや近くに晴明神社ってとこがあったよな〉
〈凄い陰キャっぽい〉
〈けどめっちゃイケメンじゃね?〉
〈私もそう思った!〉
〈好きな顔♡〉
〈抱かれたい〉
「ええと、なぜいきなり俺を攻撃してきたんだ?」
「……我が力を欲している……のだろう? 我が力を貸すのに……相応しい人物か……確かめるため……だ」
〈力を欲してるって言ってもアルバイトだけどな〉
〈こいつもうちょっとハキハキ喋れんかね〉
〈接客は無理じゃね?〉
「ああ、俺がやってるお店が人手不足で困っていて、ぜひ手伝ってもらいたいんだ」
〈陰陽道の専門家やぞw〉
〈大学教授にコンビニのアルバイトさせるようなもんだろw〉
〈さすがに断られるんじゃね?〉
「よい、だろう……詳しいことは、分からぬが……貴公は……我が試験を……容易く、突破した……」
〈よいってさwww〉
〈マジでアルバイトすんの?〉
〈実際に始めてからこんなはずじゃなかったってならんかな?〉
「しかし……その面妖な……式神は……なんだ……?」
「式神? ああ、このドローンのことか」
〈式神に間違えられるドローン〉
〈いやドローンって言っても分からんだろwww〉
〈撮影してると説明しても伝わらんしなぁ〉
〈文明が違い過ぎてな〉
「ドローン……? よく分からぬが……人間の……様々な感情が……渦巻いている……なんとも不可解なモノ、だ……」
〈マジ?〉
〈ドローンの向こうに視聴者がいるの感じてる?〉
〈すごっ〉
〈さすが安倍晴明〉
〈お前らの醜い欲望がダダ洩れだってさ〉
京都御苑ダンジョンで新たな英霊、安倍晴明を使役できるようになった俺は、その日のうちに東京へと戻ってきた。
そして翌日、早速、ケンちゃん食堂で働いてもらうことに。
「紹介しよう。新しく使役することになった英霊の安倍晴明だ」
「今度は安倍晴明ですか。はは、なんかすごいお店になってきましたね」
田中正憲はやや頬を引き攣らせながら苦笑しつつ、
「僕は田中正憲と言います。これからよろしくお願いします」
「……安倍晴明だ……よろしく……頼む」
安倍晴明はボソボソと応じる。
やはり人見知りのようで、辛うじて聞き取れるくらいの音量だ。
「わたくしは北条政子と申します。同じ英霊同士、よろしくお願いしますね」
北条政子が深々と頭を下げると、安倍晴明は小さく「よ、よろしく……」と頷いた。
「えーと、客への対応は難しそうだから、料理の運搬をお願いしたい」
「できあがったものを……しかるべき卓に……運べばよい……というわけか……」
「そうだ。大丈夫そうか?」
「……容易いことだ。……我が式神を使えば……同時に何皿でも……運ぶことが可能だ……」
安倍晴明が人型の紙切れに力を注ぐと、凶悪な外見の鬼となった。
俺が戦った十二神将ほどではないが、あまりにも厳つい。
「ちょっ、ちょっと待った。さすがにこれじゃ見た目が怖すぎる。お客さんがびっくりしてしまうだろ。外見を鬼以外にすることはできないのか?」
「……無論、可能、だ……」
式神が再び姿を変える。
すると今度は妖怪のぬらりひょんのような見た目に。
「うーん、さっきよりはいいけど、できればもっとかわいい感じで頼む」
「かわいい……?」
「犬とか猫のように、愛でたくなるような感じだ」
「……任せよ……」
式神がさらに変貌し、一つ目小僧と化す。
「何で一つ目なんだ……まぁでも、これならいいか。正直あまりかわいいとは言い難いが」
俺が承認すると、安倍晴明は同じ式神を二十体ほど作り出した。
身長100センチちょっとくらいなので、幼稚園児たちがわちゃわちゃしているような感じにはなった。
ただ、開店前に軽く練習をしてみたのだが、さすがは安倍晴明が操る式神、一つ目小僧たちがキビキビとした動きで料理をテーブルへと運んでいく。
安定感がある上に、置く場所も完璧だ。
さらに彼らはテーブルの片付けや皿洗いまでこなすことができる。
ちなみに今まで皿洗いは俺が合間合間に魔法でやっていた。
「凄いですね。アルバイトが一気に何人も増えたみたいです」
「そうだな。これならだいぶ余裕をもって働けそうだ」
そうして新たなアルバイトが加わり、大幅に戦力アップした俺達たち、自信満々で開店時間を迎えた……のだが。
「て、店長……っ! 行列が、いつもの倍以上できています!」
「何だって!? 何で急に……」
「分かりません……ただ、女性客の割合が明らかに多いような……」
「まさか……」
店に入ってきた女性客たちが、決まってキョロキョロと店内を見回す。
何か探しているのかと思っていると、その視線は必ずあるところで止まった。
「いたわ! 安倍晴明よ!」
「やっぱり死ぬほどイケメン!」
「キャアアアッ、こっち見てくれたわ!」
どうやら安倍晴明がお目当てだったらしい。
「なるほど……確かにすごいイケメンですからね。それに安倍晴明といえば、様々な媒体で人気キャラクターとして度々登場してますから」
田中正憲が納得したように言う。
「しかも女性の推し活の情熱度は男性のそれを大きく上回りますからね」
店に強力な新戦力が加わったものの、お客さんの数が激増し、結局、忙しさは大して改善されなかったのだった。