作品タイトル不明
第80話 謎理論が正しかったことが証明されたな
俺は暴風に呑み込まれ、空中へと舞い上がっていた。
猛烈な回転を伴ういわば竜巻のような風の中で、俺は身体の自由を奪われ、ぐるぐると旋回させられる。
「うーん、目が回る」
そんな渦の中にあって、真っすぐこちらへ突っ込んでくる人影があった。
手にした槍で繰り出される刺突を、俺はギリギリ包丁で受け止める。
「っ……君は……」
中性的な顔立ちの女性だ。
そのショートカットの髪は、まるで南国の海のような幻想的なエメラルドグリーン。
彼女の姿に見覚えがあった。
今回の救援にあたって、あらかじめ顔写真を見せてもらっていたから当然だろう。
Sランク探索者の門山碧だ。
このダンジョンで音信不通となり、行方を捜していたまさにその人物である。
〈門山碧!?〉
〈生きてた!〉
〈けど何でニシダを攻撃してんだ!?〉
『所長っ!? な、なぜ!? そ、その方は決して変質者などではありません……っ!』
ドローンの向こうから驚きの声が聞こえてくる。
え、変質者?
もしかして俺、変質者と間違えられてる?
〈ワロタ〉
〈助けに来たのに可哀そうなニシダ〉
〈見た目から醸し出される変質者臭のせいか〉
〈門山碧は男嫌いで有名だぞ〉
〈男は全員変質者だと思ってるとか〉
〈だからっていきなり攻撃する?〉
「俺は君を助けに来たんだが」
「……」
声をかけても返ってくるのは無言のみ。
高速回転する竜巻の中で、門山碧は自由自在に動きながら何度も槍撃を放ってくる。
こちらは包丁で捌くだけでやっとだ。
この竜巻も彼女が作り出したものだろう。
魔法というより、恐らくは何らかのスキルだと思われるが、このまま相手の土俵でやり合うのは得策ではない。
ただ、ここからそう簡単には抜け出せそうにない。
外側に向かおうとすると回転がさらに速くなり、内側に弾かれてしまうのだ。
『あれは門山碧の大技、プリズンストームっ……一度あの中に囚われたら最後、脱出は不可能っ……い、一体どうすれば……』
脱出不可能、か。
だとすれば方法は一つ。
「この竜巻ごと破壊するしかない」
〈何でそうなるwww〉
〈意味不明で草〉
〈どう考えてもそっちの方が難しそうなんやが〉
「食材を斬るときには、どこをどういう方向で斬るのかを意識することが大事だ。斬り方次第で味や触感が大きく変わってくるからな。それは竜巻でも同じはず」
〈ちょっと何言ってるか分からない〉
〈なるほど、わからん〉
〈あーそーゆーことね。完全に理解した〉
「……ここだ!」
竜巻の中のある一点を、俺は渾身の力を込めた包丁で斬り裂いた。
ズバァァァァァンッ!!
〈ほんとに斬ったああああああああっ!?〉
〈さすがニシダ〉
〈さっきの謎理論が正しかったことが証明されたな〉
風の壁に巨大な亀裂が走り、俺はそこから外へと脱出を果たす。
だがすかさず自らも竜巻から飛び出し、門山碧が躍りかかってきた。
「っと」
高速で放たれる連続突きを包丁で弾いていく。
あの竜巻の中と違って身体の自由が利くため、やはり随分と対処が容易い。
『門山碧のプリズンストームから脱出したばかりか、連続突きをいとも簡単に捌くなんて……』
さらに俺は一瞬の隙をついて彼女の懐に飛び込むと、腹部を思い切り飛ばした。
門山碧が吹き飛んでいく。
「さすがに包丁で斬るわけにはいかないからな……。とはいえ……」
水晶に思い切り激突するも、表情一つ変えることなく再び飛びかかってくる門山碧。
「うーん、どうしたものか」
恐らく彼女もまた何者かによって操られている。
しかもまったく痛みを感じている様子もないため、行動を封じるのは容易ではない。
「仕方ない。後で治癒魔法かポーションで治すから許してくれよ」
風の後押しを受け、猛スピードで迫りくる門山碧の槍を躱しざま、俺は彼女の両足の健を包丁で斬ってやった。
〈うわ容赦ねぇ〉
〈他に方法ないだろ〉
〈ああでもしないと止められないもんな〉
だが足が使えなくなり、そのまま地面に激突するかと思いきや、
ゴウッ!!
暴風を纏い、そのまま宙を舞う。
「……なるほど。これは厄介だな」
彼女の場合、足を封じたところで無駄だったようだ。
「若い女性をあんまり痛めつけたくはないんだが……」
〈どうすんの?〉
〈せめて意識を奪うくらいやらんとダメそう〉
〈美人なだけにすげぇやり辛い〉
〈Sランカーをできるだけ負傷させずに制圧するとか無理ゲーだろ〉
〈つか、操られてるとはいえ、門山碧を普通に圧倒してるんやが……〉
〈やっぱニシダ最強じゃね?〉
『……西田様、ご配慮をありがとうございます。ですが、この状況では致し方ありません。彼女の命さえ無事であれば十分です』
普段は門山碧のサポートをしている地上チームから、そんなふうに容認される。
とはいえ、やはり若い女性を抵抗できなくなるくらいにまで叩き伏せるのは、さすがに葛藤があった。
「……いや、待てよ。あれを使えばいいわけか」
そこで俺はあることに思い至る。
幸いにも俺はある便利なスキルを持っているのだった。
再び彼女が距離を詰めてきた瞬間、それを発動する。
「マイルーム」
門山碧の姿が消えた。
〈へ?〉
〈ちょっ〉
〈消えた!?〉