作品タイトル不明
第81話 やっててよかったな
新宿歌舞伎町ダンジョン地下45階。
俺と天童奈々、そしてエルザ=シモンの三人は、次々と襲いくる魔物を蹴散らしながら、水晶だらけの道を疾走していた。
「案の定、操られた魔物が行く手を阻んできているな。こっちに進んで欲しくないという、統率者の意思が感じられる。逆に分かりやすい」
クリスタルウルフのように同種の魔物ならともかく、普通ダンジョンの各魔物は力を合わせたりはしない。
だが統率者によって、地下45階の魔物がまるで軍隊のように連携してこちらを排除しようとしていた。
とはいえ、こっちはSランクが三人だ。
俺が包丁で前方の魔物を斬り捨てて道を開くと、天童奈々の炎を纏う斬撃が右手の魔物を飲み込み、エルザの光り輝く剣が魔物をまとめて消滅させていく。
よし、これなら割と早く着けるかも?
と思っていたら、
「つーかっ……てめぇ、さすがに速すぎなんだよっ……」
「ほ、ほんとですわっ……あたくしたちが、ついていくのもやっとだなんてっ……」
「む? ちょっと速かったか。一応ドローンが付いてこれるペースにしておいたんだが……」
〈Sランカーたちすら引き離すニシダ〉
〈やっぱニシダが最強だって分かんだね〉
〈他の連中は収納して正解だったな〉
〈収納っていうか、マイルームだっけ?〉
地下45階にいると思われる元凶を目指すにあたって、門山碧パーティの面々に加えて、飯島氏とメルシーズ、それから本願良子には、マイルーム内に入ってもらっていた。
ぶっちゃけ彼らのペースに合わせていたら時間がかかり過ぎるからな。
〈二人も大人しく入れてもらったらいいのに〉
〈さすがにSランカーのプライドがあるだろw〉
〈良子は自らマイルームに入ること志願したけどな〉
〈彼女は後衛だからしゃーない〉
『この先が本来ならボスがいるはずの場所なのですが……』
「っ……なるほど、あいつか、元凶は」
やがて見えてきたのは、水晶の林の中に聳え立つ、巨大な花だった。
姿は寄生植物とよく似ているものの、球体部分を囲むように極彩色の不気味な花びらを有しており、ボスの代わりに悠然と鎮座している。
〈キモ過ぎる〉
〈見てるだけで不快になる見た目〉
〈確かに〉
〈なんて魔物だろな。ダンペディアで調べても出てこん〉
よく見るとその球体から次々と寄生植物を放出していた。
こちらの接近に気づいたのか、開いていた花びらを閉じて球体部分を保護しようとする。
俺は構わず包丁をその花弁へと叩きつけた。
かなり硬い手応えだったが、構わず花弁を斬り裂く。
続いてこいつの核と思われる球体部分へ渾身の斬撃をお見舞いした。
「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
痛みに悶絶するように全体を大きく揺らしながら、花が一気に枯れ果てていく。
茎や根もボロボロに崩れていき、やがてその場に倒れ込んだ。
「寄生植物も一斉に枯れていくぜ」
「操られていた魔物も我に返ったように散っていきますわ」
「無事に倒せたようだな」
不気味な巨大花を倒したことで、門山碧も寄生植物から解放された。
すでにボスを倒していたことで転移ポータルが出現していたので、そのまま地上へ帰還すると、すぐに彼女とそのパーティメンバーたちは病院に搬送されることに。
幸い何人かは目を覚ましていて、受け答えもしっかりしていることから後遺症などもなさそうだった。
「西田さん、この度は本当にありがとうございました。急なお願いであったにもかかわらず応じていただいた上に、こんなに早く彼女たちを救出いただけるなんて」
管理庁長官の長尾凛子が深々と頭を下げてくる。
どうやら俺たちがダンジョンに潜っている間、彼女はずっと新宿歌舞伎町ダンジョンの管理所に待機し、ドローンから送られてくる映像を見ていたらしい。
「あの元凶の魔物については解析チームが調べているところですが、恐らくフロラルドミナンスと呼ばれる花型の魔物の進化体ではないかと考えています。通常はせいぜい一、二メートルほどの大きさのはずなので、なぜあそこまで巨大化してしまったのは定かではありませんが……」
「フロラルドミナンス? 聞いたことのない魔物だな」
「今のところ国内では、沖縄のダンジョンくらいですか出現記録がない魔物ですので……しかもせいぜい中層レベルの魔物です」
なぜそんな魔物が突如として新宿歌舞伎町ダンジョンに現れ、しかも巨大化したのか、今後の解析が待たれるが、まぁダンジョンにイレギュラーは付き物だからな……。
なにせダンジョンそのものがイレギュラーな存在なのだ。
「ちなみにボスの討伐報酬、本当に俺が全部貰っちゃっていいのか?」
「はい。皆さん、それで納得されていますので」
本当かと思い、ちらりと視線をやると、
「あたしはボスと戦ってねぇからな」
「あたくしは……自分の貢献度がどの程度だったかくらい、ちゃんと理解していますわ」
天童奈々はともかく、エルザは実際にボスと戦ったのだから報酬を受け取る権利があると思うのだが、本人が頑なに拒んでいるし、無理に受け取らせるわけにもいくまい。
なお、メルシーズの面々も「逃げただけだから」という理由で断ってきた。
出現したのは四つの宝箱。
クラス9のダンジョンボスの討伐報酬というだけあって、中に入っていたのはどれも希少なものばかりだった。
その中で最もレアなものは恐らく「英霊召喚」のスキル書だろう。
俺はもちろん、誰も聞いたことのないスキルだが、とりあえず自分で読んでみることにした。
他の報酬は俺が持っていても仕方のないやつばかりだったので、全部売る予定だ。
「西田さんと一緒にダンジョンに潜ることができて本当に勉強になりました。正直、足手まといになる場面が多くて、反省ばかりですが……少しでも西田さんに追いつけるよう、これからパーティで力を合わせて頑張っていきたいと思います」
「私も自分たちの実力不足を痛感しました。いつかまた一緒に探索ができるように、もっと強くなりたいと思います」
「めちゃくちゃ足を引っ張ってしまって申し訳ないっす! けど、西田さんにはマジで尊敬しかないぜ!」
「ぼ、ぼくは……まず、人見知りから直さないと……」
「うちは索敵スキル以外も頑張る!」
それからメルシーズの面々から礼を言われたり、
「西田様、またこうした機会があればぜひお力をお貸しください」
飯島氏からちゃっかりそんなお願いをされたり、
『西田様、弊所の探索者たちを助けていただき、本当にありがとうございました。所長が快復したら、ぜひ相応のお礼をさせていただきたく存じます』
ドローン越しに感謝されたりしていると、すっかり遅い時間になってしまった。
「告知もしていないし、さすがに明日から営業再開するのは難しいか……羊肉を使った新しい期間限定メニューも考えないといけないし」
結局、営業の再開は明後日からにしたのだが、SNSなどで告知すると大量の祝福コメントが送られてきて、俺は不覚にも泣きそうになった。
「やっぱりお店、やっててよかったな」