作品タイトル不明
第112話 みすぼらしい定食屋で悪かったな
外国人客が大幅に増えると同時に、海外の組織からのスカウトも急増した。
「我がタイタン・ハンターズ・ユニオンは、アメリアでもトップ5に入る探索者事務所です。ニシダ様には年俸50億をお支払いする価値があると考えております」
「イグリスが誇る探索者騎士団、アーサリアン・レガシーに貴殿を勧誘したい。本来なら異国の者の加入を認めてはいないのだが、魔族を撃破した貴殿にはそれだけの価値がある」
「ドルツ最大のダンジョン研究組織、アーベントシュテルン研究所の者です。ぜひ我が研究所の専属探索者として貴方を雇いたい」
「うちは央華有数の軍工企業の龍鋳よ。ダンジョン素材を使った装備の開発をしてる。あなたの力が必要」
「ぜひ貴公を我がロージアの幕僚学校の特別教授として招きたい。同時に我が軍の准将の地位を与えよう」
しかもそれらは俺でも聞いたことのあるような探索者事務所や企業ばかり。
もちろんお断り一択であるが、面倒なことに、営業前や営業後に連日のように店へ飛び込んでくるのだ。
「我がサモソン社は、アナタに100億出すと言っている! それでも断るのか!?」
「ああ、断る」
「くっ……それほどの実力がありながら、こんなみすぼらしい定食屋で満足するとはっ……どうやら思い違いだったみたいだな!」
「みすぼらしい定食屋で悪かったな」
中には断られたことに激怒するスカウトや、なかなか店から出ていかないスカウトもいたが、
「〝用事が済んだならとっとと帰るのぢゃ〟」
幸いしつこい相手は、卑弥呼が言霊で追い出してくれた。
「助かる」
「なに、このくらいお安い御用ぢゃ。しかしおぬし、色んな連中からモテモテぢゃのう。その感じで女子にもモテたらええのにの」
余計なお世話である。
「ふふ、お疲れのようですね」
「……長尾長官?」
追い払ったスカウトと入れ替わるようにして店に入ってきたのは、迷宮管理庁の長官を務める長尾凛子だった。
「いくつかお伝えしたい要件がありまして、本当なら管理庁までお越しいただきたかったのですが、お忙しいかと思い、訊ねさせていただきました」
「長官自ら……?」
つまりそれだけ重要な案件ということだろうが……。
「露骨に嫌そうな顔をされますね?」
「嫌な予感しかしないので」
「その様子ですと、国民栄誉賞は辞退されそうですね」
「国民栄誉賞……?」
というと確か、国民的な偉業を成し遂げた人物に、内閣総理大臣が直々に表彰する賞のことである。
芸能人とかスポーツ選手なんかの有名人が受賞したというニュースを、何度か見たことがあった。
「えーと、どういうことですか? 辞退も何も、俺がそんなものを貰えるわけないと思いますけど……」
「御冗談を。過去に世界でも三人しかいない魔族の討伐を成し遂げ、大災害を未然に防がれたのですよ? どう考えても国民栄誉賞に相応しい偉業でしょう」
「……マジか」
俺が国民栄誉賞?
何かの間違いではないかと思うが、わざわざそんな冗談を言いに長官が立川まで来たとは思えない。
「ちなみに神宮寺セイア氏も候補に挙がっているのですが、西田様が受けるなら自分も受けるとおっしゃっています」
「何それズルい。……というか、辞退してもいいんですか?」
「構いません。よく辞退されてますし。実は公表されていないだけで、打診の段階で断る方も多いんですよ」
よく辞退されているのか……。
まぁ「政治利用だ!」みたいに批判されているのは知っているが。
「じゃあ辞退します」
「分かりました。ではそのように総理にはお伝えしておきます。……で、代わりと言ってはなんですが、西田様にはこちらを差し上げましょう」
そう言って表彰状のようなものを差し出してくる長尾長官。
「これは?」
「迷宮管理庁長官の特別表彰です。実はうちにもダンジョン探索に著しく貢献した方を表彰する制度がありまして。本来なら管理庁にまでお越しいただくのですが、そうお伝えするとお断りされそうでしたので、西田様にはこの場で表彰させていただこうかと」
だから直々にやってきたのか。
「……まぁそれくらいなら」
「記念のメダルもありますのでどうぞ」
俺は表彰状とメダルを受け取った。
人生で初めて貰う表彰かもしれない。
「ところで……片付け作業をされている方々が、噂の英霊アルバイトでしょうか?」
閉店後の店内では、英霊アルバイトたちが掃除のために忙しなく動き回っていた。
まぁ、実際には安倍晴明の式神がその大部分を占めているが。
「一応、紹介しておきますね。そこで掃除をするフリをして遊んでいるのが卑弥呼です」
「む、よく気づいたの?」
「バレバレだ」
「ふふ、随分と可愛らしい方ですね」
子供のような見た目の卑弥呼に、長尾氏は柔和に微笑む。
「なんぢゃ、その女は? もしかしておぬしのコレか?」
卑弥呼が小指を立てながら聞いてくる。
当時からその文化あったのか……?
「あー、すいません。昔の人なので、そういう配慮とかできなくて……」
「いえ、お気になさらず。弥生時代の方ですからね。それより、本当に西田様の愛人のように見えますか?」
「うむ、お似合いだと思うぞ!」
「そうですか、ふふふ」
なぜか嬉しそうだ。
「えーと、あっちでレジ締めをやってくれているのが北条政子です」
「北条政子がレジ締め……なんというか、凄い話ですね」
「きっちりした性格で、ミスもないから助かってます」
話題に挙がっていることに気づいたようで、北条政子は丁寧に頭を下げてくる。
「で、この二次元というか三次元のキャラたちを操っているイケメンが安倍晴明で……ちょっと見えにくいと思いますが、あの隅っこの方にいます」
「……見えませんね」
「人見知りなので、いつも気配を極限まで消しているんです」
俺でもよくどこにいるのか分からなくなるくらいである。
「最後に、キッチンで油汚れと格闘しているのが伊達政宗です」
「かかかかかっ! こやつ、なかなかしぶといでござるな! この独眼竜政宗に本気を出させるとはなかなかぞ!」
「伊達政宗が台所で清掃……でも、なんだか楽しそうですね」