作品タイトル不明
第103話 用心深いですねぇ
「間に合ったようだ」
五稜郭タワーの頂上に着地した神宮寺セイアは、弓を構えながら小さく安堵の声を漏らす。
探索者たちの頑張りのお陰か、今のところ五稜郭公園内に魔物を押し留めているようで、周辺の市街に被害はなさそうだった。
国内に僅か二つしかないとされる、クラス11越えの超高難度ダンジョン。
そのうちの一つ、知床ダンジョンに挑戦していた彼女は、この迷宮崩壊の一報を受け、すぐさま応援に駆け付けたのだ。
急報を受けた際、彼女がいたのは地下52階の冥層だ。
辿り着くだけでも一か月はかかると言われている場所であり、およそ二か月に及ぶ冥層探索の予定を組んでいたのだが、躊躇なく離脱結晶を使って地上へと帰還した。
そして広大な北海道を、佐倉もかが手懐けた深層のグレイシャードラゴン、ドランコに乗って横断し、ここ函館まで辿り着いたのだった。
ちなみに彼女たち二人以外のメンバーは、別のドラゴンに乗ってこっちに向かってきているところである。
「まずはあのボスを片付けねばならないな」
彼女が魔力を込めると光の矢が出現し、放てば強烈な一撃がケルベロスの身体を撃ち抜く。
二十七歳にして国内最強の探索者と謳われる彼女の武器は、弓だ。
特にこのダンジョンで入手したオリハルコン製の弓は、彼女の魔力によって矢が自動的に装填されるという優れモノである。
その威力もさることながら、高い追尾能力に加え、矢の本数の調整が可能で、一度に何体もの魔物を片付けることができた。
相棒の佐倉もかと協力してボスを倒した後も、彼女の攻撃は深層の魔物を次々と仕留めていった。
五稜郭を見下ろせるこのタワーの頂上は、狙撃手にとって絶好の場所だ。
「……っ!」
不穏な何かを感じ取って、咄嗟に振り返ったのは矢を放った直後だった。
「……何者だ?」
そこには何もいなかったが、神宮寺セイアは最大の警戒と共に弓を構える。
すると何も無いはずの場所から声が聞こえてきた。
「ほう、よく分かりましたねぇ。気配を消しているはずですが」
「その悍ましい存在感……気配を消したところで隠せるはずがない(むしろこの私がここまで接近を許すとは……)」
やがてそれが悠然と正体を現す。
「っ……貴様は、まさか」
見た目は人間とよく似ていた。
背が高く、整った顔立ちの青年と言ってもおかしくはない。
しかし白目が黒く、いわゆる反転目となっていて、肌は灰色。
そして頭には角が、背には漆黒の翼が生えていた。
「魔族……っ!?」
魔族。
魔物の一種とされることもあるが、普通の魔物にはない大きな特徴があった。
一つは高い知能を持ち、言語を解するという点だ。
もう一つは……その圧倒的な強さ。
神宮寺セイアは瞬時に魔力を弓に込めると、魔族めがけて光の矢を放っていた。
不意打ち気味の一撃が、魔族の身体を貫く――
――かと思われたが、魔族はそれを手のひらで掴んで握り潰していた。
「なっ……」
「いきなり攻撃してくるなんて、なかなか礼儀のなっていないお嬢さんですねぇ」
深層の魔物でも瞬殺できるレベルの一撃を、いとも簡単に防がれたことに、さすがの神宮寺セイアも言葉を失う。
「いえ、さすがに痛かったですよ? 少しだけですけどね、少しだけ」
「っ……」
魔族が言い終わる前だった。
彼女は再び弓に魔力を流し込むと、今度は無数の矢が出現。
光矢が雨となって魔族に降り注いだ。
「ふふふ、いいですね、嫌いではありませんよ、あなたのような勝気なタイプは!」
余裕の笑みを浮かべる魔族が作り出したのは、無数の黒い光球。
それが神宮寺セイアの矢を悉く防いでしまう。
「では今度はこちらから参りましょうか」
雨が収まると、魔族は地面を蹴って躍りかかってきた。
神宮寺セイアは咄嗟に後方に跳躍するも、あっという間に距離を詰められる。
ガアアアアンッ!!
「ほう? 結界ですか。用心深いですねぇ」
繰り出された魔族の拳は、あらかじめ展開していた結界が防いでくれる。
しかし冥層の魔物の攻撃にすら耐えられるはずの結界に、それだけで亀裂が入っていた。
バリイイイイインッ!!
二発目の拳で、案の定、結界を完全に破られてしまう。
そのまま魔族の拳が彼女に迫る。
だがそれは空を切った。
「? なるほど、光の屈折で距離感を狂わせたわけですか。色々と考えますねぇ」
「(っ……まさかこの一瞬で見抜かれるとは……)」
絶句しながらも新たに矢を作り出す神宮寺セイア。
一方、魔族もまた黒い光球を生み出すと、今度はその形状を操作し、
「せっかくですし、同じ技をぶつけ合わせてみましょう」
「舐めてくれたものだなっ!」
無数の光と光が激突し、互いを相殺していく。
一つ一つの威力は互角……だが、数が違った。
相殺し切れなかった黒い光矢が、神宮寺セイアの身体を貫いた。
「がっ!?」
そのまま五稜郭タワーから地上めがけて落下していく……その途中、彼女の身体を受け止めた者がいた。
「セイアちゃんっ!? 大丈夫!?」
相棒の佐倉もか、そして彼女がその背に跨るグレイシャードラゴンのドランコである。
「オアアアアアアアアアッ!!」
そのドランコが大きく口腔を開け、魔族めがけて氷風のブレスを放とうとする。
「なかなかよく手懐けているようですねぇ」
だがその口の中へ、魔族の放つ黒い光矢が吸い込まれていった。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「ドランコ!?」
体内を攻撃されて、強制中断されるブレス。
激痛で雄叫び轟かせながら、ドランコは巨体をよじらせながら地面へと墜落していく。
「……ドランコ、大丈夫!?」
「自分の身を案じた方がよろしいかと思いますよ?」
神宮寺セイアを抱えながら着地した佐倉もかは最愛のパートナーを案じるが、その背後に凶悪な気配が近づいていた。
〈なぁ、神宮寺セイアが何かと戦ってね?〉
〈魔物?〉
〈にしては小さめだよな〉
〈人型っぽい?〉
〈遠くてよく見えん〉
〈竜牙はどうでもいいから、タワーの方をアップしてくれ!〉
〈テレビだとアップで見れるぞ!〉
〈ほんまや〉
〈なに、この人型のやつ?〉
〈しかも喋ってない?〉
〈魔物って喋れるのか?〉
〈まさか魔族!?〉
〈魔族?〉
〈てか、神宮寺セイアがやられてない……?〉
〈押されてる〉
〈やばくね?〉
〈あ〉
〈な〉
〈おいおい〉
〈マジか〉
〈やばいやばいやばい〉
〈負けた……〉
〈魔族強すぎ〉
〈国内最強の探索者でも勝てないの!?〉
〈これは絶望〉
〈日本終了のお知らせ〉