作品タイトル不明
第102話 一文字も合ってねぇ
「ハァハァハァッ……ぐぅっ……足、が……」
濠に落下した高橋竜牙は、どうにか泳いで岸まで辿り着いたものの、足がほとんど動かなくなっていた。
ボスの尾である大蛇に噛みつかれ、恐らく骨まで砕かれてしまっている。
〈痛そう……〉
〈幸い毒はないっぽい?〉
〈よくそんな足で泳げたよな〉
〈早くポーション飲まないと!〉
視聴者に言われるまでもなく、彼はすぐにポーションで回復を図ろうとする。
だがそんな彼に襲いかかる魔物の影が。
「グルアアアアッ!」
〈魔物!?〉
〈なんでこのタイミングで!〉
〈あの足じゃ逃げられねぇよ!?〉
〈剣もどっか行っちゃってるし!〉
悲痛な未来を予測し、視聴者たちの多くが目を背けた、そのときだった。
空から降ってきた光の矢が、深層の魔物の脳天を貫いた。
どさり、と。
たった一撃で魔物が絶命し、その場に倒れ込む。
〈た、助かった?〉
〈今のは?〉
〈誰かが助けてくれたのか?〉
〈って、頭上に!〉
「っ……あれは……」
ポーションで傷を癒しながら空を見上げた高橋竜牙は、悠然と空を舞う巨大な影に気が付いた。
深層のボス、ケルベロスにも匹敵するほどのサイズ感だ。
〈ドラゴン!?〉
〈しかもデカい!〉
〈あれも深層の魔物かよ!?〉
〈いや待て……あの上に誰か乗ってないか?〉
直後、そのドラゴンの上から無数の光の矢が降ってきたかと思うと、ダンジョンから溢れ出てくる魔物を次々と直撃した。
ほぼ百発百中、しかも一撃で深層の魔物を仕留めてしまう。
〈なんだあの威力!?〉
〈この光の矢……まさか〉
〈聞いたことあるぞ。日本最強のSランク探索者が、弓使いだって〉
〈北海道が生んだ新たな大スター……その名は〉
〈小泉洋!?〉
〈なんでだよwww〉
〈惜しいな〉
〈どこがだw 一文字も合ってねぇw〉
〈性別すら違くて草〉
〈神宮寺セイアだ!〉
ドラゴンの上から一人の女性が飛び降りた。
五稜郭公園の傍に建設された展望タワーに向かって舞い降りながら、手にした巨大な弓を引く。
すると先ほどまでとは比較にもならない太さの光矢が射出され、五稜郭ダンジョンのボス、ケルベロスの巨体を貫いた。
「「「~~~~~~~~~~ッ!?」」」
〈めっちゃ効いてる!?〉
〈地下40階のボスだぞ!?〉
〈さすが神宮寺セイア! 日本最強の名は伊達じゃねぇ!〉
〈なにせクラス10ダンジョンの攻略者だしな〉
〈冥層にも到達した経験があるって噂〉
さらに大空を浮遊するドラゴンが、ケルベロスめがけて猛烈なブレスを吐き出した。
猛烈な氷と風のブレスだ。
それがケルベロスの巨体を瞬く間に凍り付かせていく。
〈じゃあ、あのドラゴンは……〉
〈恐らく神宮寺セイアのパーティメンバーの従魔〉
〈佐倉もかだっけ?〉
〈彼女もSランクなんだよな〉
〈Sランカーが二人いるなんて最強パーティだろ〉
〈確か普段は知床ダンジョンに潜ってるはずだけど、そこから駆けつけたんだろうな〉
「「「ワオオオオオオオオオンッ!!」」」
〈さすがボス、氷を強引に破壊したぞ〉
〈けどまた光の矢が〉
〈今度は頭の一つを直撃したぞ?〉
〈うわ、頭部が吹き飛んだ〉
〈さすが容赦ない〉
展望タワーから放たれる矢が、ケルベロスに確実に大ダメージを与えていく。
もちろん深層ボスもただやられているだけではなく、すぐに狙撃手を排除しようと動くが、そこへすかさず空からのブレス。
そうして一時的に氷結状態となっているところへ、光の矢が襲いかかる。
〈完全にハメ技〉
〈これはボスも打つ手なし〉
〈地下40階のボスがこんなに簡単にやられるなんて……〉
〈やっぱ冥層到達者はレベルが違うな〉
やがてケルベロスはダメージの許容量を超えたのか、断末魔の雄叫びと共にその場に倒れ込んだ。
「こ、これが日本最強と謳われるSランク探索者、神宮寺セイアか……ははは……ここまで規格外の強さだったなんて……」
〈竜牙ちゃんも笑っちゃってる〉
〈笑うしかないよ〉
〈深層ボスをほぼ完封だからな〉
〈彼女たちが北海道にいてよかったね〉
〈ほんそれ〉
〈ただ、ボスは倒したけど、まだまだ魔物は出てくるんだよな?〉
そこへドラゴンが地上に降りてくると、探索者たちが築く前線の傍に着陸した。
「ブルルルルッ!」
「うんうん、よく頑張ったね! 全速力で飛んできた上に、ブレスを連発して疲れちゃったでしょ? ちょっと休んでていいよ!」
そう労いながら、背中に乗っていた少女が滑り降りる。
〈え、意外とかわいい子〉
〈元気で活発な感じ〉
〈竜騎士のイメージと全然違くて草〉
〈それは確かにwww〉
「知床から頑張って飛ばしてきたけど、ギリギリ間に合ってよかったよ! あっ、あたしの名前は佐倉もか! そして彼女はグレイシャードラゴンのドランコだよ!」
〈ネーミングセンスよw〉
〈道産子を文字ったんかな?〉
〈ドサンコ→ドランコ〉
〈まぁSランカーは変人ばかりって言うし〉
〈そんなわけ……あるか〉
〈あるな〉
〈うん、ある〉
「そしてあのタワーのてっぺんにいるのが神宮寺セイアちゃん! 彼女、こういう殲滅戦は得意分野だから、大船に乗ったつもりで頑張ってね! ……まぁ深層の魔物が全部出てくるまでだから、すごーく長い戦いになりそうだけど」
〈あっ、手を振ってくれてる〉
〈聞こえてんのかな?〉
〈アイテムで通信してるんじゃね?〉
〈何にしてもこれで百人力だな〉
〈これから応援もどんどん来るだろうし、これは勝ったなガハハ!〉
それからも深層の魔物が引っ切り無しにダンジョンから這い出してきたが、神宮寺セイアの放つ光の矢が的確に射抜き、片付けてしまう。
稀に一撃では仕留めきれなかった場合だけ、探索者たちがトドメを指していった。
このまま終息まで順調に進むかと思われたが……。
「なんだ? 光の矢が止まった……?」
「あれ? セイアちゃん? どうしたの? っ……セイアちゃん!?」
異変が起こったのは、午前八時過ぎのことだった。