軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話:時代遅れの反乱 〜留守居役の絶望と火器の量産〜

京都、洛中。

主を失ったかのように静まり返る畠山邸の奥深くで、数人の屈強な武将たちが密かに顔を突き合わせていた。

彼らは、当主が「南海交易」という名の金儲けに狂い、海へ出てしまったことに強い不満を抱く、古い価値観に縛られた留守居の家臣たちであった。

「……嘆かわしいことだ。当主様は武士の誇りを忘れ、商人になり下がられた」

首謀者である初老の家臣が、忌々しげに床を叩く。

「我ら武士の本懐は、戦場にて武功を立て、新たな土地を切り取ることにあるはず。得体の知れぬ海の向こうの草の根(香辛料)などにうつつを抜かすなど、正気の沙汰ではない!」

「左様! 今こそ我らが立ち上がるべき時。いずれ細川様や山名様も、幕府のやり口に腹を立てて軍を動かすはず。我らもこれに呼応し、京の中で蜂起して当主をすげ替え、幕府の実権を武力で奪い返すのだ!」

血気盛んな若武者が刀の柄を握りしめて賛同する。

彼らの脳内には、勇猛果敢に兵を挙げ、敵陣を打ち破るという古き良き中世のロマンが渦巻いていた。

「よし。ならば直ちに戦支度じゃ! まずは土倉へ赴き、武具を揃えるための銭を借り受けてこい!」

しかし、数刻後。

土倉へ向っていたはずの使者が、顔面を蒼白にして駆け戻ってきた。

「も、申し訳ございませぬ! 京中のどの土倉を回っても、『幕府の富子様からの裏書なき融資は一切禁じられている』と、すげなく追い返されました!」

「なんだと!? あの銭ゲバどもめ、武士を舐めておるのか! ならば力尽くで蔵を破れ!」

「そ、それが……土倉の周りには、見たこともない筒を持った幕府の警護兵がズラリと並んでおり、手出しできるような隙は微塵もございませぬ……」

初老の家臣はギリッと奥歯を噛み締めた。

「ええい、銭がなくとも戦はできる! 領地から兵糧の米を運ばせろ! 街道の馬借どもに荷車を引かせよ!」

しかし、その命令に対する報告もまた、絶望的なものであった。

「駄目です! 馬借どもは皆、街道沿いの『無料休憩所』から一歩も動こうとせず、『富子様の許可がないと飯が食えなくなる』と言って、我らの荷物を運ぶことを完全に拒否しております!」

「ならば足軽だ! 村々を回り、農民どもを徴兵してこい! 逆らう者は斬り捨てて構わん!」

「そ、それも……村には女子供と年寄りしかおらず、働き盛りの男たちは皆、山科にあるという『幕府直轄の経済特区』へ働きに出ていると……。いくさ場で命を張るより、そちらの方が遥かに実入りが良いからと……」

静まり返る広間。

軍資金もない。兵糧を運ぶ手段もない。そして、刀を握る兵士すら一人も集まらない。

彼らが信じて疑わなかった「武士の権力」が、見えない経済の鎖によって完全に雁字搦めにされ、無力化されていることに、ようやく気がついたのだ。

「……馬鹿な。これでは、まるで手も足も出ぬではないか……」

刀を抜いて集まったのは、広間にいる数十人の身内の武士のみ。

その時、屋敷の門が乱暴に蹴破られた。

「そこまでだ、時代遅れの逆賊ども!」

踏み込んできたのは、重武装した幕府の警護隊と、富子の命を受けた幕府の冷徹な文官であった。

「富子様の命により参った! 貴様らの稚拙な謀反の企てなど、金と人の流れを見れば数日前から全て筒抜けなのだ。大人しく縛につけ!」

抵抗する間もなく、古い価値観に縋った家臣たちは、あっけなく土下座させられ、縄を打たれた。

一度の刀も交えることなく、彼らの反乱は帳簿の上で完全に鎮圧されたのである。

***

一方、京都の南、山科に築かれた堅牢な要塞都市の一角。

そこでは、細川や山名の静観など気にも留めない職人たちが、熱気の中で作業に没頭していた。

「おう! 寸法は絶対にはみ出すなよ! 富子様が定めた『絶対基準尺』から一分でも狂えば、容赦なく作り直しやからな!」

水車を動力とした「旋盤」が甲高い音を立てて回り、青銅の筒の内側を均一に削り出していく。

彼らが極秘裏に量産し続けているのは、統一規格の「改良型火縄銃」と「初期型大砲」であった。

その工房の片隅で、職人たちの働きぶりを静かに見守る薫子の元へ、富子から一通の書状が転送されてきた。

幕府の警護隊が富子へ提出した報告書の写しである。

『畠山・斯波留守居役による謀反の企て、未然に鎮圧完了』

薫子は無表情のまま、報告書を火鉢に投げ入れた。

『当然ね。兵站も金融も富子様の名のもとに完全に握られているのに、気合いだけで反乱が成功するわけないじゃない』

彼女の視線は、次々と組み上げられていく真新しい火器の山に向けられていた。

『細川と山名は、今はまだ大人しく静観している。でも……一年後、船団が莫大な富を持ち帰ってきた時、連中は必ずその富を力ずくで奪いに来る』

薫子は、来たるべき「大乱」の火種が完全に消えたわけではないことを、誰よりも冷静に理解していた。

『いざ連中がパニックを起こして大軍を動かした時、兵糧攻めと合わせて物理的にすり潰すための「暴力」は、絶対に必要になるわ』

薫子は、職人たちの汗と油にまみれた背中を見つめながら、来たるべき一年後の激突に向け、冷徹なまでに防衛の牙を研ぎ澄ませ続けていた。