作品タイトル不明
間話「なんかやべー神じゃね?」
――北海道某所。
愛の女神こと愛ちゃんは、遊戯の神にしぶとく誘われたためいくつかの条件をつけた上で、新たな神々の中でも幹部「十天」たちが集まる会議に訪れていた。
「ていうか、なんで北海道なのかしら。もしかして、会議と称して観光でもするつもりとか?」
観光地の街並みにある小さなビルの中を歩きながら、愛ちゃんはクッキーをもしゃもしゃ食べる。
「おう、ようやく顔を出しやがったか、愛の女神」
「ん?」
背後から声をかけられてきたのは、二十歳ほどの青年だった。
魔族マモンほどではないが、悪そうな顔をしている。
スラックスと黒いブラウスを身につけた青年は、愛ちゃんに向かい近づいてくる。
「確か、あんたは善行の神よね?」
記憶の中から青年をなんとか思い出した。
愛ちゃんの記憶が正しければ、「十天」の中で一番の力を持つ「一天」の地位にいる幹部だ。
最近の神である愛ちゃんと違い、新たな神々が組織を作った時の初期からいると聞いている。
「ああっ? 何ふざけたこと言ってんだ? 俺は悪行の神だ」
「あれ? そうだっけ?」
善行と悪行ではまるで違う。
間違えられた青年は不機嫌を隠さず舌打ちをした。
「ったく、これだから新参もんは。俺ぁな、悪行が大好きなんだよ。先日も、子供達が暮らす施設に新品の鞄と寄付金をこれでもかってほど送りつけてやったぜ」
「………………」
「はっ、言葉もでねえってか! それだけじゃねえ。この間は、食うものに困っている小さな村に、大量の食料を送りつけてやったんだ。あの痩せた人間どもが、食いきれるかな! ついでとばかりに近所のスーパーのワゴンからダッセーがらの下着や衣類も一緒に送りつけてやったぜ! くけけけけけけけけっ!」
「あ、はい」
「愛の女神とはいえ、この俺様の悪行にはドン引きだろう? 俺には愛などいらねえ。悪行だけあればいい。おっと、そろそろ時間だ」
「時間?」
「おうよ。今、拠点にしている場所でガキたちに読み書きを教えて飯を食わせてやっているんだ。おっと、善行などと言うなよ? 実はな、しっかり教育して進学させていい企業に就職させれば、俺たちの優秀な僕ができるってもんよ。時間はかかるが、俺は気が長くてな、人間の十数年なんぞ瞬く間だ」
「……そう、だね?」
悪行じゃなくね、と口から出かかっている愛ちゃんに、悪い笑みを浮かべて青年が懐から手紙を取り出した。
「見ろよ、これ。俺が面倒見たガキが一丁前に結婚して子供ができやがった。馬鹿だなぁ、俺に感謝の手紙とかよぉ! いずれ俺に利用されて絶望するくせによぉ! まあ、今のところ利用する用事もねえが! ったく、これだから無能は困るぜ。ま、投資だからな! 上手くいかねえこともあるのさ。せいぜい、この生き辛い世界で老衰するまでもがくといいさ!」
「……あー、うん、そうっすね」
「愛の女神よぉ、てめえも俺を見習って神らしく傲慢に悪行を振舞えよ?」
「うっす」
「いい返事だ。んじゃ、俺はガキの面倒を見に行くから会議はパスだ。じゃあな」
手をひらひらと振り、帰っていく自称悪行の神を見送った愛ちゃんは惚けた顔をして呟いた。
「なんかめっちゃいいやつー」