作品タイトル不明
7「いつるさんの朝じゃね?」
いつる・ディロン・マルセー・ロットロット・ナイジェルマリー・赤星は、向島市にあるホテルに泊まっていた。
朝のシャワーを浴びて眠気を飛ばすと、ルームサービスで頼んだ朝食に手をつける。
バターロールを食べながら、ニュースを眺める。
あまり興味深いことはやっていない。
ふと、窓の外を見る。
向島市を見下ろし、いつるは感慨深く吐息を吐く。
「物語だけの登場人物かと思っていた神や魔族がこの世界にいる。とても興味深い。異世界も、勇者も、何もかも、この星にはあるのね」
いつるの「星」には、魔法はあっても神や魔族はいない。
獣人をはじめとする亜人が暮らして、モンスターはいるのに、だ。
「私の知る唯一絶対の勇者はおじいちゃんだけだった。でも、由良夏樹は勇者であり、おじいちゃんが目をかけた数少ない人物。彼がギャラクシー流の使い手となれば、きっと私よりも強くなるかもしれない。おじいちゃんもギャラクシー流が増えれば喜ぶでしょうね」
コーヒーに口をつけ、亡き祖父に想いを馳せる。
朝食を終えて、まだ八時だ。
由良夏樹は中学生なので、夕方まで接触を避けたほうがいいだろう。
「……昔、ラーメンって食べ物が美味しいっておじいちゃんから聞いたわね。お昼はそれにしようかしら」
スマホを持ち近くの店を検索しようとすると、着信があった。
「……やれやれ。面倒な人からかかってきたわね」
無視することはできないので、通話に応じる。
「――おはようございます、いつるさん」
「おはようございます、おばあさま」
硬い声で挨拶をするのは、いつるの複数人いる祖母のひとりだった。
いつるは電話の向こうの祖母が苦手だ。
自他共に厳しい方だが、感情的になりやすく、一度火がつくと祖父以外止められない。
いつるの「星」の実質支配者である。
「地球に着いたそうで何よりです。体調は崩していませんか?」
「はい」
「ならばよかった。翔様が気にかけていた少年とは会えましたか?」
「無事に会えました」
「そう。どんな子でしたか?」
「私の周囲にはいないタイプの少年です。明るく、元気で、面白い子でしたよ」
「翔様が選んだ子が良い子ならば安心しています」
「そうそう、ギャラクシー流を学んでくれるそうです。私ほどではありませんが、それなりに腕は立つので良き使い手になるでしょう」
「そ、そうですか、ほどほどに」
「はい」
いつるは祖母を苦手と思っているが、嫌いではない。
祖母もなにかといつるのことを気にかけてくれている。
他愛ない話が続くが、いつるのはわかっていた。
祖母の本題はこれからだ、と。
「――いつるさん」
「はい」
来た、と身構える。
「星砕きの槍――蒼穹の星槍は見つかりましたか?」
「いえ。ただ、おじいちゃんが気にかけていた弟子である由良夏樹が所有者のようです」
「――なんと」
「どうしますか?」
「変わりません。見つけ次第、破壊しなさい」
難しいことを言ってくれる、といつるは思う。
星を砕く聖槍を封印するならまだしも、破壊など簡単にできるはずがない。
しかし、祖母の基準は祖父だ。
祖父ならばやれる、だからいつるにもやれというのだろう。
「わたくしからあの方を奪った蒼穹の星槍を必ず破壊なさい」
「――承知しました」
やれやれ、といつるは肩をすくめた。