作品タイトル不明
8「モスマンさんたちって謎じゃね?」①
「んじゃ、いってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
学生服を着て学校に行く夏樹を、一登たちが見送ってくれた。
玄関の隙間から、爛々と輝くモスマン・忍の瞳がホラー映画のように怖かったが、そっと視線を逸らした。
「今日は朝からモスマンさんイベントあったから、もうイベントはないね!」
正直、もう朝からどっと疲れているのでイベントがない方が嬉しい。
「とりあえず美脚の神様がどうなったのか月読先生に聞いて、学生の本分の勉強だ!」
夏樹はダッシュで学校に向かった。
「くははははっ、貴様が由良夏樹だな! この俺、新たな神々の――くぺっ」
途中で何かにぶつかった気がするが、夏樹は気にしない。瞬く間に学校についた夏樹は、上履きを履いて職員室に向かった。
「おはよーございま! 月読先生、美脚!」
元気よく職員室に入って月読を呼ぶと、他の先生たちが「え? 月読先生美脚なの?」と視線が集まった。
「――夏樹くん、奥の部屋にきなさい」
「あ、あれ、なんか怒ってます?」
「いいえ、怒ってなんていませんよ。君の聞きたいことは理解していますし、詳細を口にできないこともわかっています。だからといって、なぜ美脚だけチョイスして口に出したのか不明ですが、怒っていません」
「めっちゃ怒ってるじゃないですか!?」
月読は微笑みながら夏樹の腕を掴んで、職員室の奥へ引っ張っていく。
「ははは、ですから怒っていませんよ」
「痛い痛い! 腕を掴んでいる手が痛いっ!」
「ははは、ご冗談を」
そのまま引きずられた夏樹は部屋の中に入る。
この部屋は、教師たちのちょっとした話し合いや、生徒の保護者と会う時に利用される部屋だ。
ちなみに、夏樹は利用したことはない。
「はぁ、とりあえず座ってください」
「うっす!」
解放された夏樹は近くのパイプ椅子に座る。
月読は近くの椅子に座った。
「美脚の神に関して聞きたいということで良いですか?」
「お願いしますっ!」
「昨日の今日ですので、大きな変化はありませんよ。とはいえ、彼らの力は封じました。敵意がある者以外に攻撃もできません」
「つまり、美脚のお兄さんとお姉さんになってしまったってことですね」
「……はい。私の知り合いのアパートでしばらく生活してもらうことになりました。彼ら次第ですが、日本で生活をするのなら戸籍を作ることも考えています」
美脚の神たちは、相談させてほしいと言ったが、月読の庇護下に入りたいと考えているようだった。
日本のトップクラスの神の庇護下にいれば、新たな神々はもちろん、彼らを悪く思う者から害を与えられることはないだろう。
「えっと、怪我とかそういうのは大丈夫ですか?」
「ええ。どちらかといえば、昨晩の夏樹くんが重症でしたけどね。いくら回復させたとはいえ、普通はピンピンしていられないのですが……さすがと言うべきか、なんと言うべきか」
「勇者ですから」
きりっ、とする夏樹に、月読は頭痛を覚えたように額に手を当てた。
「元気そうならよかったです」
「でも朝から疲れましたよ! まさかモスマンさんが来訪してくるなんて!」
「――はい?」
「だからモスマンさんがウエストバージニア州ポイントブレザントから家に来たんです!」
何度か瞬きした月読は、夏樹を残念な子でも見るような視線を向けた。
「――モスマンなんているわけないでしょう」