作品タイトル不明
6「サタンさんにお任せじゃね?」
「あ、心臓がばっくんばっくんしてる。死ぬかも、死んじゃうかも。驚き死、しちゃうかも。ていうか、モスマンっていたんだ。魔王の俺が言うことじゃないけど、レアすぎるだろぉ」
胸を押さえて深呼吸しているサタンは、魔王ながらにUMAの存在を知らなかったらしい。
モスマンをちらちら見ながら震える手で水を飲んでいる。
「リヴァ子さんの反応からまさかとは思っていたけど、魔王なのにサタンさんもUMAは知らないんだねぇ」
「知らないも何も接触がないからん。あ、あの、できればその爛々とした目を此方に向けないでくれますか? こ、怖いんですけど」
「おっとすまない、不躾だったかな」
「いえ、普通に恐怖といいますか、未知なるものが怖いんです、なんかごめんなさい」
「サタンさんよわっ! 義政先生を見習えよ! 森の中でモスマンさんと出会ったのに普通に仲良くなったんだぞ!」
「……無理だわー、俺には無理だわー。義政くん、俺の代わりに魔王をやらない?」
「ははは、ご冗談を」
「俺も夏樹くんも本気で悲鳴をあげたから人のことは言えないんだけどね」
「ちょ、夏樹!? おま、自分だってびっくりしたくせに俺のことばっか責めて!」
「あんた魔王でしょう! 威厳とか、あるじゃない!」
「そんなもんないわ!」
「それでいいのか魔王!?」
ぽかぽか殴り合う夏樹とサタンに大きくため息をついた一登は、モスマンに謝った。
「ごめんなさい。あまり驚いたことを言われ気分よくないでしょう?」
「お気遣いありがとう。だけど、気にしなくてもいいよ。UMA業界では驚かれれば驚かれるほど良いのさ」
「いいんだ!?」
「むしろ異世界帰りの勇者と魔王に驚いてもらったのは誉であるよ」
「そ、そうなんだ。モスマンさんがいいならいいけど」
予想外の返事だったものの、気にしていないのなら安心した。
一登がふと時計を見ると、そろそろ夏樹が登校する時間に近づいていることに気づく。
「夏樹くん、夏樹くん、そろそろ学校に行かないと」
「あ、もうこんな時間か! サタンさん、悪いけどモスマンさんの護衛をよろしく!」
「えぇ!?」
「新たな神々がちょっかいかけてくる可能性があるからさ」
「こ、こんなに怖いモスマンにちょっかいをかけるバカがいるのか。すげえな、新たな神々」
「いや、感心してないでさ! 新たな神々に関わらないスタンスなのは知っているけど、俺学校行かなきゃ行けないし」
「サボっちゃいなよ!」
「悪魔の誘惑!」
「いいじゃん、いいじゃん。月読には俺が上手く言っておいてやるからさぁ」
「くっ、さすが魔王……誘惑が半端ねぇ。このままじゃ、学校に、いけ、ない!」
「ふはははは、この魔王サタンの誘惑に勝てるかな!?」
夏樹は心が折れそうだった。
できれば、学校をサボってモスマンとUMA業界について教えてほしい。
なんなら一緒に写真撮ってSNSにアップしたい。
(だけど、美脚の神様たちのことも気になるし……仕方がない、この手だけは使いたくなかったんだけど)
「俺さぁ」
「なんだよ?」
「お母さんを任せられる男って、やっぱり頼り甲斐がある男だと思うんだよね」
「――っ」
「サタンさんは、なんか違うかなぁ? おやぁ、違うかな?」
「何を言っているんだい、夏樹くん! 学生は学校に行くことがお仕事じゃないか! 由良家の平和はこのルシファー・太一郎が守ってみせる! 春子さんの家が、俺の家だ! モスマンさんも俺が守ってみせるさ! なーに、新たな神々が集団で来たって魔王に勝てるわけがねえ! 任せておけ!」
きらん、と歯を光らせたサタンに、
(魔王ちょろい)
夏樹は勇者らしくにちゃぁと笑った。