作品タイトル不明
間話「鬼姉弟の時間じゃね?」
向島市の河川敷で、星熊童子と熊童子、そして末の弟である金童子が三人並んで缶ビールを掲げていた。
「いやー、夜の川を眺めながらビール飲むっていうのもオツなもんだな」
「くまぁ!」
「……いや、姉ちゃん。これはこれでいいけど、居酒屋か焼肉屋行こうよ。奢るし」
「馬鹿野郎! 熊童子が熊さんの姿でお店入ったら大混乱だろうが!」
「人に変化できるんだから臨機応変に生きようよ!?」
熊童子は、ビールではなく蜂蜜を美味しそうに舐めている。
「今後の課題だな。虎童子の奴は、人間の旦那捕まえたぜ。姉貴に至ってはなんやかんやあって安倍東雲とくっつきやがった」
「まじで!? 茨木姉ちゃんもびっくりだけど、虎姉ちゃんもかよ!? 一番、結婚とか無理だろって思っていた虎姉ちゃんがなぁ。日本人ってやべえよなぁ。俺の好きだった鬼娘も旦那になった男に――わーい、人外っ子だー! って喜ばれたとか意味わかんねえよ! 鬼は怖がるものだから!」
「……お前な、日本人にしてみたら鬼なんて萌え要素だぜ」
「こわいなー。こわいなー日本人」
金童子は現在人間社会でヘルパーとして働いている身だ。
しかも、人間の女性と知り合い同棲しているのだ。
独り身の星熊童子からすると「いい御身分だな、おい」と思うが、せっかく弟が生きていたのだ。今日は言わないことにした。
「にしても、なんでお前は由良夏樹と戦おうとしたんだ? いや、過程は知っているんだけどよぉ、ピンポイントで一番やべーのに立ち向かうとか、鬼じゃなくて勇者だろ」
「……失恋のショックで自暴自棄になってました」
「しかも、その辺の人間からパンツ奪うとか意味わかんない」
「俺もわかんない! 自暴自棄って嫌だね!」
「あと、お前、なんで人間食ったアピールしたの? 人間食うの好きじゃないじゃん?」
「本当にね! 平安時代はまじで食うもんないから人間とか食ったけどさぁ。食べておいて何だけど、まずいし。俺は鳥が好みだし」
「俺も牛が好きだ」
「べあべあぁ!」
「熊姉ちゃんは相変わらず木の実が好きなんだな」
「最近、マカダミアナッツとカシューナッツを覚えたぞ」
「なんで!?」
「由良夏樹と愉快な仲間たちのつまみにあって、なんか美味しかったって」
「まあ美味しいけどさぁ!」
ジャーキーを噛みながらビールを飲む星熊童子たちの視線の先では、由良夏樹が新たな神々と思われる男とガチバトルの最中だった。
「あ、あの、気のせいじゃなければ、今、橋を斬った気がするんだけどぉ!」
「奇遇だな。俺もそう見えた」
「べあべあ!」
「あの少年をボコボコにできる男もやばいよぉ! 向島市って何なの!? こわい! あ、由良夏樹と対峙した時の恐怖を思い出しちゃう、思い出しちゃうよぉ!」
「しっかし、いくら自棄になってたとはいえ、由良夏樹と戦ってよく生きていたなぁ。皆勤賞をやろう!」
「皆勤賞は違うんじゃないかな!? ていうか、移動しようよぉ! このままここにいたら、俺は――失禁するよ?」
「べあ!?」
ガクガクと震える金童子の言葉が本気だったので、熊童子が弟を抱えて星熊童子と共に逃げ出した。
すると、
「おっ、鬼っ子たちじゃねえか! おい、せっかくだ、付き合えよ! 今日は祝い事で飲んでるんだ! あ、こいつダチのベルゼブブとベルフェゴールな!」
「ひえっ、サタンだ!」
「なんで魔族のトップが日本の地方都市にいるんだよ!」
「べぁべぁ」
「気にすんなって。熊の嬢ちゃんでも入れる店があるから、こいって。今日は娘が帰ってきて祝なんだ。おごりだから、たーんと飲ましてやるぜ!」
陽気なサタンに声をかけられてしまう。
気づけば、ベルゼブブと紹介された初老の紳士と、ベルフェゴールと紹介された気だるげな青年が星熊童子と金童子の腕を掴んで逃すまいとする。
「申し訳ありませんが、お付き合いください」
「こうなったサタンは面倒臭えから、被害者は多い方がいい」
「ちょ、やめ」
金童子は抵抗しようとしたが、格が違うせいか引きずられてしまう。
酒豪な鬼であるはずの星熊童子と金童子はこれでもかと酒を飲まされ、長い生の中で久しぶりの二日酔いになった。