作品タイトル不明
90「降伏じゃね?」
月読命は、教え子の性癖を知ってしまった気まずさを覚えながら、こちらを窺う美脚の神とかいう初めて邂逅する新たな神々に問いかける。
「さて、あなたたちにも何か事情があるようですが……」
「……由良夏樹くんが言ってくれたように、末の妹を美脚質に取られてしまっていたのです。無事に返してほしければ、由良夏樹の勧誘、勧誘ができないのであれば殺せと」
「なるほど。橋と一緒に両断されて消滅したのは、監視役だったのですね」
美脚の神は頷く。
「不倫の神だ」
「……はい?」
「不倫の神だ」
「…………美脚の神といい、不倫の神といい、なぜ新たな神々はこう一癖も二癖もあるんでしょうねぇ!」
やはり初めて聞く神の名だった。
八百万の神がいる日本であるが、さすがに美脚と不倫はいないだろう。
ある意味、恐ろしい新たな神々であると月読は震えた。
「それで、どうしましょうか?」
「妹が無事ならば、戦いはしたくない。どうせ十天に選ばれたのも由良夏樹くん対策というだけで、私たち三兄弟にさほど力はない」
「……めっちゃ強かったけどね!」
夏樹の言葉に月読も同意する。
戦う気がないようだが、なかなか強い神であることはこうして対峙していればわかる。
「しかし、なぜ夏樹くん対策があなたたちなのですか?」
「――由良夏樹くんが美脚が好きだからだ」
「…………そ、そうですか。それならば仕方がありませんね。夏樹くん」
「はい?」
「若いから仕方がありませんが、ほどほどにね」
「はい!」
返事はとても良い夏樹に若干の不安を覚えるが、若い頃は色々なことに興味を覚えるのは仕方がないことだ。
教師として、否、同じ男として、あえて何も言わないという選択を取った。
「美脚の神よ、これからどうしますか?」
「私たちは静かに暮らしたい」
「本当に?」
「……できることならば、私は運動関係の仕事がしたい。この美脚を活かす仕事を。妹たちも同じだ。いつも夢見ていた」
「…………はあ。そのくらいであればいいでしょう。私は新たな神々と敵対していますが、あなたたち全てを殺したいわけではありません。敵対しないと約束してくださるのであれば、知り合いの職場を斡旋しましょう」
「本当ですか!?」
「もちろんです。無論、いろいろ縛らせていただきますが、住まいと戸籍も準備させていただきますよ」
「――っ」
美脚の神たちは、目を見開いた。
無理もない。
神は人が好きなのだ。だから、人と共に生きたい。
すべての神がそうとは言わないが、新たな神々も人々の「想い」から生まれた存在である以上、人と共に暮らすことを望んでいる者が多い。
そういう神とは戦わない。
こちらの味方になってもらう方が早い。
戸籍や仕事、住まいを用意するくらい大した労力ではない。
「我ら美脚三兄妹をよろしくお願いします」
美脚の神が頭を下げた。
戦わずして済んだことを月読が微笑む。
そんな時、
「月読命ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
無粋な声が響いた。
「俺たちの仲間を散々殺しやがって! ぶっ殺してやるぅううううううううう!」
「――お前は、托卵の神!」
「美脚の神め! ちょっと足が綺麗なだけで十天に選ばれやがって! てめぇが裏切るのは想定内だったから見張っていて正解だぜ! てめえと月読命をぶっ殺して、俺が」
突如現れた新たな神々は言葉の途中で絶命していた。
新たな神々の身体は円形に抉られている。
首から腹にかけて失った神はその場に崩れ落ちた。
月読命は振り返ることなく、新たな神々を瞬殺したのだ。
「さすが月読先生の、ギャラクシーフォーエバーゴールデン満月アタック!」
「だっさ! そんな技名ではありません!」
「え? ちゃんと月に寄せたのに」
「そう言う問題ではありません!」
張り詰めた空気になるかと思ったが、教え子のネーミングセンスのおかげで空気が弛緩した。