作品タイトル不明
84「不穏な気配じゃね?」
夏樹たちは帰路についていた。
サタンは花子が帰ってきたことを喜び、知り合いのところで祝杯をするとスキップしてどこかに行ってしまった。
「ごめんね、義政先生。五歳のボーイなのにこんな時間まで連れ回しちゃって」
「いえいえ、構いませんよ。最近、幼稚園に通えていない分プリントをしているので、いつもこのくらいですよ。ただ、さすがに睡魔には勝てませんけどね。ブラックコーヒーがあれば、もう少し勉強できるのですが」
「義政先生すげぇ! 俺はブラックコーヒー飲めないよ!?」
「……あれ? なんだかいろいろツッコミどころがある気がするんだけど、俺じゃあ夏樹くんと義政くんにツッコミきれないや!」
河川敷を歩いていると、楽しそうに相撲をとっている河童さんたちに気付き夏樹たちは手を振る。
「今日はイベントがありすぎて疲れた。ゆっくり寝たい。超寝たい」
「夏樹くんほどイベントがあったわけじゃないんだけど、異世界の疲れが溜まっていて、俺も眠いよ」
夏樹はイベント疲れで眠く。
一登は異世界の疲れがまだ残っているようだ。
「異世界では闘いばかりでしたからね。戻ってきてからも杏さんの件もありましたし、一登さんが疲れてしまうのは仕方がないことでしょう」
「……義政くんはあまり疲れていないようですね」
「はははっ、疲れてはいますよ。ですが、育ち盛りなので一晩寝れば元気いっぱいです」
「それは、よかったのかな?」
「元気なことはいいことですとも」
夜風が吹く。
まだ冷たいが、熱った身体に心地がいい。
「一登、今日泊まってく?」
「もちろん」
「義政先生もぜひ泊まっていってくださいよ」
「ありがとうございます。そうさせていただきますね」
「よし! じゃあ、コンビニでアイス買って――」
夏樹が足を止めた。
「夏樹くん?」
「どうしました、夏樹さ……なるほど、そういうことですか」
義政が何かに気づき、眼鏡をくいくいする。
「ちょっと? 何があったっていうのさ? もしかして、またイベント!?」
「残念ながらそのようですね」
義政の眼鏡が月明かりを反射する。
「――凄まじい美脚の気配がする」
「夏樹くん!? 寝る前に寝ぼけているの!? 十年以上一緒にいるけど、初めて聞いたよ、そんなセリフ!?」
夜の向島市に、一登の叫びが響き渡った。