作品タイトル不明
83「とりあえず帰宅じゃね?」
「…………俺様も死ぬほどびっくりしたんじゃが、お姉ちゃんが生きておったのじゃ」
「でしょうね!」
風呂から出て部屋着用の体操服に身を包んだ小梅は、メイクを落とし切った花子を夏樹に紹介した。
「……改めて、花子です。よろしくお願いします」
「なんかおとなしくなっていません?」
「化粧がないとパワーがでないの……それに無理してあのキャラ作っていたから、その、ごめんなさい」
「キャラが変わりすぎているんですけど!?」
ルシファー・花子は、お風呂に入る前と後で外見も中身もすっかり変わり果てていた。
(……水無月家のお風呂に浄化作用とかないよね?)
花子は澪から借りたジャージにパーカーを羽織っているラフな格好だった。
今まであった険がメイクと一緒に落ちてしまったのか、ゆるふわの亜麻色の癖っ毛を伸ばし、大きな黒縁の丸メガネをかけていた。
ケバケバしさはもう残っておらず、小梅が慕っていた姉の姿に戻っている。
「森山田さんの影響って半端なかったんだなぁ」
「も、森山田さんのことを悪く言わないでください……私のお友達ですし」
「なんか弱々しくなっちゃってやり辛い! ねえ、サタンさん――って、泣いてるし!」
花子の代わりように戸惑いながら夏樹がサタンに声をかけると、父親である彼は涙を流していた。
「――花子が帰ってきた。行方不明だった花子が帰ってきた!」
「……あ、ダメだ。この魔王もなんか花子さんにいろいろ思うことあったみたいで使えねえ」
夏樹はどうしようと悩み、雲海に声をかけた。
「とりあえず、雲海おばあちゃん、あとをよろしくね」
「お任せあれ、夏樹殿。この水無月雲海、花子殿を立派な花嫁にしてみせましょうぞ!」
「違うからね! 土地神でしょう!?」
「おっと、失礼しました。水無月家として土地神を全力でバックアップしつつ、立派な花嫁にして差し上げましょう!」
「花嫁からは離れないんだね……いや、いいですけど」
夏樹は「もういいや」と投げやりに思う。
お風呂もいただいてサウナも入った。
あとは寝るだけだ。というか、眠いので早く帰りたい。
「夏樹くん、雲海様は天照大神様がいなくなってしまい寂しく思っていたので、花子様を悪いようにはしないと思いますよ」
「……都さん」
「私たちも一緒にいるから安心して」
「澪さん、お願いします」
「そんなに心配しなくてもいいと思う。最初の言動はちょっとびっくりしたけど、お風呂で話した限り、花子様の内面は文学少女で乙女だから」
「お姉ちゃんの方が文学少女で乙女ですよ!」
「都……ありがと。でも、私は読書は嫌い」
「文学少女なんて滅べばいいんですよ!」
「都さん……夜なのにテンション高いなぁ」
姉が絡むと暴走するが、委員長気質の都と、ギャルっぽい外見に反して中身はしっかりしている澪ならば、天照大神とそうだったように花子とも良き関係を築いてくれるだろう。
「夏樹! これから俺様たちは、お姉ちゃん復活祝いで宴会じゃ!」
「化粧落としただけっすけど、お祝いなら仕方がないっすね!」
「この飲兵衛さんめ! 先に帰って寝ているから、水無月さん家にご迷惑かけないでよ!」
「わかっとる! あ、一応は女子会じゃから、この泣いとるおっさんを連れて帰ってほしいんじゃが」
「…………一登くん、義政先生、サタンさん引きずって帰ろう」
宴会の支度をする女性陣を見守りながら、夏樹はあくびをすると水無月家を後にすることにした。