作品タイトル不明
80「感動の再会ではなくね?」②
「ここが千ちゃんのお家か。パパちょっとワクワクしてきたぞ」
「ワクワクすんな! 余計なことしたら停止させて川に捨てるぞ!」
七森千手の父親であり七森家当主七森康弘は、息子のマンションの部屋でテンションを上げていた。
「……わかっている、わかっている。ベッドの下を探ったりはしないと約束しよう」
「落ち着け、落ち着くんだ、このおっさんのペースに乗ったら疲れるだけだ。深呼吸しろ、深呼吸だ」
「甘いな、おっさん! ダーリンのベッドの下は、すでにあたいが調査済みだぜ!」
「なんだとぉ! そ、それで、ブツはあったのか!?」
「……なかった。でもきっとダーリンは鬼っ子少女が好きだと確信しているぞ!」
「ひゅーっ、千ちゃんったら、もー!」
「うぜぇえええええええええええええええええええええ!」
我慢できたのも数秒だった。
父親だけでもうざいのに、そこに虎童子が悪ノリをしているので、ウザさが二倍だった。
「もうっ、ダーリンったら。夜も遅いからあまり叫んじゃダメだぞ!」
「叫ばせているのはお前らだからね!」
ツッコミに疲れて、千手はソファーに座った。
このまま目を瞑って眠ってしまいたいが、そんなことをすればこのふたりが何をするのかわからない。
「…………はぁぁぁ」
千手は大きくため息をつくと、指でリビングのソファーに座るように康弘と虎童子に伝える。
ふたりは従い、おとなしくソファーに腰を下ろした。
「真面目に話をしようぜ。……親父」
「パパと呼んでほしい」
「……ぶっ飛ばすぞ!?」
真面目な顔をして「パパ」と呼ぶことを要求してきた康弘に、千手が拳を握る。
ぐっと堪えて殴ることは我慢した。
(落ち着け。おそらく、親父の作戦だ。こんなんでも以前は水無月家や神無家を相手に裏方で汚く争っていた男だ。俺の冷静さを欠かせて何かしようとしているに間違いない)
「次、ふざけたことを言うのなら叩き出す」
「……ふざけてはいないのだが、千ちゃんがふざけているように感じるのならば、やめておこう」
「その千ちゃんというのもやめろ。今まで呼んだことなかっただろ」
「心の中ではずっと千ちゃんと呼んでいたんだが」
「それでもやめろって言ってんだよ! 話が進まねえな!」
千手が唾を飛ばして怒鳴ると、さすがにこれ以上は口にしない方がいいと思ったのか康弘は口を閉じた。
そして咳払いをする。
「では、とりあえず千手と呼ばせてもらう」
「とりあえずもなにも千手以外で呼ぶんじゃねえ。ていうか、あんたに名を呼ばれるのも嫌だがな」
「……ぐっと堪えたぞ。もう少しで涙が出ちゃうところだった」
「…………」
「ごほん。まずは、謝罪を」
「あん?」
「先日英智が来たようだな。あれも猪突猛進なところがあるため、千手に迷惑をかけただろう」
「迷惑っていうか鬱陶しいだけだったけどな。俺がいうことじゃねえが、病み上がりならじっとしてろって言っておいてくれ」
「承知した。七森家に関しても謝罪する。ここ数年、何かと鬱陶しい思いをしただろう」
「……まあな」
「今後は七森家からの干渉はないと約束しよう」
「……あのおばさんが俺を放置するとは思わないけどな」
おばさんとは七森康弘の妻であり、英智たちの母親だ。
長年、千手に停止を解くように鬱陶しかったが、同じくらい千手を警戒しているようで姿は表さなかった。
また完全に敵対する気もないのか、嫌がらせはあったが、千手が完全に敵意を向けるような一線は超えていなかったので、放置していた。
「……あいつは七森家の別宅で蟄居させる。私がいない間に七森を切り盛りしてくれていると思っていたが、分家との関係を過去最悪にして周囲の敵も増やしてくれた。話を聞けば、当主代行として振る舞ったというが、周りから聞く限りやりたい放題だったようだ」
「だろうな。あのおばさんに力を持たせると、そうなるさ」
「千手への嫌がらせも聞いた。それを含めて、――ごめんねー!」
「……表出ろ、くおぉら!」